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相続した不動産の売却について 取得費に含まれる内容や特例などを解説

相続した不動産を売却して利益が発生した場合、譲渡所得税がかかります。税金をなるべく抑えるためには取得費をはっきりさせることが大切です。
また、取得費加算の特例についても解説します。

相続した不動産の売却について知りたい方へ

  • 「相続した不動産売却でなるべく節税したい」ならばこの記事で取得費について確認を
  • 取得費について理解を深めれば相続した不動産の売却で上手に節税できる可能性が高まります
  • 相続した不動産を売却した際の節税に役立つ取得費に関する特例もご紹介します

相続した不動産における取得費とは?

取得費とは不動産を購入する際にかかった様々な費用の合計です。土地と建物で算出方法が異なるため、譲渡所得の計算を正確に行うためにもそれぞれの導き方を覚えておきましょう。
 
土地の場合は購入した際の代金や仲介手数料、測量費や解体費など取得にかかった費用がそのまま取得費となります。建物の場合は、購入代金や建築費用など取得にかかった費用から減価償却費を差し引きます。建物は土地と異なり経年劣化によって価値が下がっていく性質があるためです。
 

建物の取得費について

土地は取得にかかった費用全額を合計しますが、建物の取得費を導き出すにはまず減価償却費を算出するところから始めます。計算式は以下の通りです。

減価償却費=建物購入費 × 0.9 × 法定耐用年数の1.5倍に応じた償却率 × 経過年数
 
その後、以下の計算式によって建物の取得費を算出します。

取得費=取得にかかった費用-減価償却費
 

不動産の所有期間ごとの税率

不動産は、売却までに所有していた期間が長期か短期によって譲渡所得に課せられる税率が変動します。

■長期譲渡
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合

■短期譲渡
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合

相続によって引き継いだ不動産については、被相続人が取得した日を基準にして所有期間を計算します。相続したタイミングから計算すると勘違いする方も多いためご注意ください。
 
長期譲渡と短期譲渡の税率は以下の通りです。


このように、長期譲渡の20.315%と比べて短期譲渡は39.63%と税率が倍近くなります。被相続人が亡くなる直前に購入した不動産の場合は、短期譲渡にあたらないかどうかを計算しておきましょう。
 

取得費に含めることができるものとは?

取得費として含められるものは、できる限り含めたほうが譲渡所得税の節税につながります。以下の記載を参考にしてなるべく多くのものを含めるようにしましょう。
 

1:土地代・建物代

土地や建物の購入代金は取得費に含まれます。建物に関しては前述の通り、相続後から売却までの減価償却分を引きます。売却までに数年かかった場合は取得費が少なくなるのでお気をつけください。購入代金については以下の書類で確認可能です。
 

・売買契約書
・請負工事契約書
・領収書
・購入時のチラシ等


2:登記費用・税金

不動産取得時に被相続人が支払った登記費用や税金も取得費用に入れることができます。税金には、登録免許税や不動産取得税があります。以下を確認して取得費に含めましょう。
 

・登記費用や登録免許税
・司法書士からの領収書
・不動産取得税
・納税証明書


これらの領収書や証明書は登記済権利証や登記識別情報通知書と一緒に保管されていることが多いです。不動産関連の書類はひとまとめにすることが多いため、探してみてください。
 

3:土地の造成費用・測量代

被相続人が不動産を取得する際に土地を整地した、土地の形質を目的に合わせて変更した、隣接地の所有者とのトラブルを避けるために測量した、といったケースではそれにかかった費用が取得費に含まれます。
 

・業者からの領収書
・工事等の見積書


これらを確認すれば土地造成や測量にかかった費用が判明します。一般的に不動産関連書類はまとめて保管するので確認してみてください。
 

4:立ち退き費用・訴訟費用

取得予定の不動産に賃借人がいて、賃貸借契約の解約や立ち退き費用も取得に必要な費用と判断されます。
また、不動産取得の際に何らかの紛争があった場合、その解決のために使われた訴訟費用も取得費用となります。ただし、遺産相続に関する訴訟費用は含まれません。
 

・賃借人からの領収書
・弁護士からの領収書


これらを確認することで立ち退き費用や訴訟費用が判明します。比較的見つかりにくい書類ですが、じっくり探してみてください。
 

5:取壊し費用・建物分購入費

古家つき土地を購入してから「おおむね1年以内」に古家を解体した場合、その費用は取得費用となります。また、建物分の購入費が売買価額に含まれている場合はそちらも取得費用に含めることが可能です。
 

・売買契約書
・解体工事業者の領収書


「おおむね1年以内」というのは所得税法により定められている基準です。売買契約書と解体工事の領収書を確認し、1年以上経過している場合は税務署に取得費に含められるかを相談してみましょう。
 

6:契約解除違約金

稀ですが相続により不動産を取得するタイミングで、たまたま別の物件も購入予定していたものの、売買契約を解除して違約金を支払っているというケースもあります。この場合の違約金は取得費として含めることが可能です。
 

・不動産会社の書類
・売り手側の領収書


売り手側の領収書があればそれで構いませんが、ない場合は不動産会社の書類に金額が記載されている場合もあります。

取得費不明の場合は?

これまでご紹介したように、取得費として含めることができる費用・税金はとても多くあります。被相続人がまめな方で不動産関連の書類をひとまとめにしてくれている場合は、確認する時間はかかるものの、証明すること自体は容易です。しかし、時間の経過とともに紛失してしまい所在がわからなくなることもよくあります。
 
取得費を証明する書類が見つからない場合は、譲渡価額の5%を取得費とすることが法令により定められています。例えば1,000万円で売却したならば、50万円が取得費となるわけです。
​しかしこの場合、明らかに取得費が低くなってしまうため、税務上かなりの損失となるでしょう。生前のうちから不動産関連の書類は所在をはっきりさせておくことをおすすめします。

相続した不動産の売却をするときのポイントとは?

不動産を売却する場合、譲渡所得が発生すれば税金が課せられます。しかし、相続した不動産の売却では節税につながる特例の適用が可能です。他にも、相続した不動産を売るときに覚えておきたいポイントを解説します。
 

1:取得費加算の特例の利用

相続した不動産を売却する場合、相続税を取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります。取得費を加算できれば譲渡所得を小さくすることができるため、譲渡所得税の節税につなげられるため、ぜひ適用させたいものです。

■特例の適用条件
取得費加算の適用条件は以下の通りです。
 

・相続または遺贈により財産を取得した人である
・財産を取得した人は相続税を課されている
・相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以降、3年が経過するまでの期間に譲渡を行った


取得費加算の特例はこれら全てを満たす必要があります。ポイントになるのが売却までの期間です。具体的には相続開始日から3年10か月以内であり、これを過ぎてしまうと取得費加算の特例は適用されません。売却するのであれば早めに行動しましょう。
 

2:できるだけ早めの行動

不動産を売り出してから売買契約が成立するまでには、それなりの時間がかかります。立地や建物の状態などの条件が良ければすぐに売れる可能性はあるものの、一般的には早くて3か月、通常は半年、長ければ1年程度かかるものです。
売るかどうか迷っているとあっという間に時間は過ぎてしまい、3年10か月の取得費加算の特例適用タイミングを逃すかもしれません。
 
もちろん、売り急ぎは買い叩かれる原因にもなります。不動産会社に急いでいる旨を伝えると、それに合わせた販売活動をするため買い手も「値引きできるかも」と期待して集まることが多いためです。下手に売り急ぐことがないように、余裕を持って売却に臨むのをおすすめします。
 
また、相続した不動産を売却するためには名義変更も必要です。相続登記には時間がかかりますので、売却する・しないに関わらず早めに行動しておきましょう。
 

3:実績がある不動産会社への相談

相続した不動産の売却は販売活動中にトラブルが発生することも珍しくありません。相続登記が遅れたり、遺産分割協議が難航したり、連絡の取れない相続人がいたりとその内容は様々です。
 
相続不動産の売却経験が豊富な不動産会社は、弁護士や司法書士など士業と連携しています。売却だけでなく相続に関する相談も行えるため、安心して任せることができるでしょう。

相続した不動産の売却をする際の注意点とは?

相続した不動産を売却するならば、特例についてしっかり確認しましょう。ここでは取得費の特例以外にも適用可能性がある3,000万円控除について解説します。
 

1:各特例の期限

取得費加算の特例以外にも、節税に役立つものの期限が過ぎると適用できないものがあります。
例えば、「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」(空き家譲渡の3,000万円特別控除)もその一つです。こちらは時限式の特例で、2023年の12月31日までに売却する必要があります。
また、相続発生日から3年を経過する日の属する12月31日までの売却であることも条件です。
 
期限以外の要件は以下でご確認ください。
 

・被相続人が居住していた住宅と敷地である
・売却代金は1億円以下である
・売却相手となるのは近親者ではない第三者である
・住宅は1981年5月31日以前の旧耐震基準でありながら、譲渡時に一定の耐震基準を満たしていなければならない
・住宅や敷地を相続から譲渡までの期間、事業や貸付の用途としていない


耐震基準については、建物が満たしていない場合は解体しましょう。土地だけでも適用される特例であるためです。
 

2:3,000万円特別控除との重複適用

3,000万円特別控除は取得費加算の特例と重複適用することはできません。これは同時に適用してしまうと控除できる額が大きくなりすぎてしまうためです。ご自身で計算するか、税理士等に相談して計算してもらい、節税効果の高い方の特例を利用するようにしましょう。

確定申告期限間に合わなかった場合の更正の請求について

相続税の申告が所得税の確定申告期限までに終わらないケースも稀ですがあり得ます。その場合、相続税の取得費加算の計算はできていない可能性が高いです。しかし確定申告は売却して譲渡所得が発生した年の翌年の2月15日~3月15日までの1か月しかありません。この時期を逃すと申告ができないため取得費加算の適用は置いておき、まずは確定申告を優先させましょう。
 
その後、相続税の申告を相続開始日から10か月以内に行い、そこから2か月以内に相続税の取得費加算の計算を行います。それが終わりましたら、譲渡所得税の更正の請求(還付請求)を行って、多く支払った分の税金還付を受けましょう。

取得費をしっかり把握すれば節税につながります

相続した不動産の売却では取得費をしっかりと確認してできる限り含めて計算することで譲渡所得を低くして節税できます。被相続人の取得費は古い書類も多く見つかりにくいかも知れません。できれば生前のうちから所在を確認してまとめておきましょう。
 
相続した不動産の売却では取得費加算の特例や3,000万円控除などの特例を適用できる可能性があります。しっかり節税するためにも、適用可能かどうかを確認しましょう。
 
また、相続した不動産の売却は経験豊富な不動産会社に任せると安心です。士業との連携もあり、ワンストップで相談できたり事情を考慮して売却を進めてくれたりします。ぜひ検討してみてください。

監修者

コラム監修者 岩本大介
岩本 大介(いわもと だいすけ)

相続診断士・
不動産終活士・不動産終活アドバイザー・
終活セミナー講師認定資格・
福祉住環境コーディネーター2級
不動産営業及びマーケターとして20年以上従事。
シニアやその子世代に寄り添い、
不動産のエキスパートとして
不動産の相続・空き家問題に取り組む。

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