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相続時精算課税制度とは?トラブル予防のために知っておきたいことやメリットを解説

不動産の相続でトラブル防止のために知っておきたいのが、相続時精算課税制度のこと。

相続時精算課税制度とは、生前贈与での税金の清算を行うものを言います。この制度の対象者、手続き、必要書類から、適用した場合の贈与税・相続税の計算方法について解説します。

さらに制度のメリットとデメリットや、利用するときの注意点も確認していきましょう。

相続税を節約したい方へ

  • 不動産の相続なら、この記事で相続時精算課税制度についてチェック
  • 制度のメリット・デメリットを整理して、相続税を抑える可能性を確認できます

相続時精算課税制度とは

不動産などを贈与すると、その財産に応じて贈与税が発生します。しかし、相続時精算課税制度は贈与額が2,500万円を超えない場合は贈与税がかからず、2,500万円を超えた分に対して一律で20%の贈与税が発生する制度です。

相続時精算課税制度の対象者

相続時精算課税制度には条件があり、「60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子ども・孫に対しての生前贈与の場合」が該当します。
贈与者の「60歳以上」と、受贈者の「18歳以上」の年齢の条件については、贈与の年の1月1日時点での年齢となります。

相続時精算課税制度の手続きと必要書類

相続時精算課税制度を利用するときは、事前に下記の書類をそろえて手続きしなければなりません。
なお書類は、この制度を適用したい年の翌年2月1日~3月15日までに、管轄の税務署に提出します。

・対象年度の贈与税申告書
・相続税精算課税選択届出書
・受贈者の戸籍謄本または戸籍抄本
・受贈者の戸籍の附票の写し
・贈与者の住民票の写し

相続時精算課税制度を適用した場合の贈与税・相続税の計算方法

相続時精算課税制度では、贈与額が2,500万円までは非課税となり、2,500万円を超えた分については20%の税率で贈与税が発生します。具体的には以下の計算式で算出できます。
 
贈与税=(贈与者ごとの贈与額―2,500万円)×20%
 
例えば、贈与額が1,000万円なら、贈与税は0円になります。 贈与額が3,000万円なら、(3,000万円―2,500万円)×20%=100万円 となります。

【参考リンク】
「相続時精算課税制度」のメリット、注意点および必要な手続きとは?(ベリーベスト法律事務所・ベリーベスト税理士事務所)
https://souzoku.vbest.jp/columns/5868/#A14"

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度を利用することに、どんなメリットがあるのでしょうか?
 

メリット① 2,500万円まで非課税にできる

相続時精算課税制度の最大のメリットは、贈与額2,500万円まで非課税になるという大型の控除があることでしょう。しかも同一の父母、祖父母からの贈与なら、2,500万円に達するまで何度でも控除でき、贈与税がかかりません。
 

メリット② 贈与税の税率が低い

贈与税は累進課税になっており、贈与額が増えるほど税率が高くなります。贈与額2,500万円の贈与税率は45~55%となります。

その点、相続時精算課税制度は2,500万円を超えた分についても、税率は一律で20%と定められています。その分だけ支払う贈与税を抑えることができます。
 

メリット③ 生前贈与で相続のトラブルを防止できる

相続時精算課税制度は、生前に多くの贈与を効率的にできる制度です。
相続争いが起こりやすいのは父母・祖父母が亡くなってからですが、生前に相続したい相手に財産分与を行えれば、それだけ相続時のトラブルを防げるでしょう。
特に資産を多く所有している人は、この制度を利用して早めに生前贈与するのがおすすめと言われています。
 

メリット④ 早いタイミングで財産の贈与が可能

相続時精算課税制度を利用すると、本来は被相続人死亡時に発生する相続財産が、早いタイミングで贈与可能になります。
任意のタイミングで贈与できることから、相続人が何らかの理由で財産を必要とした場合に、贈与する時期を自由に決定できます。

また、相続時精算課税制度では自分の子供だけでなく、孫に対しても贈与可能なことから、大学進学や社会人になるタイミングで贈与することも可能です。

制度の目的は消費の多い若い世代に財産を回すことで、社会全体の消費を拡大させることにあります。そのため、親族に金銭面で困っている人がいて支援したい場合、相続時精算課税制度を有効活用するのがよいでしょう。
 

メリット⑤ 収益物件を贈与すると、相続税対策になる可能性がある

相続時精算課税制度を利用して収益物件を贈与した場合、相続税対策になる可能性があります。収益物件とは賃貸マンションやアパートなど、継続的な収益が見込める物件のことです。

相続時精算課税制度を利用すると、収益物件は課税対象になるものの、贈与を受けてからの収益は課税対象ではありません。逆に、実際の相続で収益物件を相続した場合は、家賃収入なども課税対象になります。
そのため、家賃収入が大きいときは相続時精算課税制度を利用したほうが、結果的に相続税が安くなる可能性が高いです。
 

メリット⑥ 値上がりする可能性がある財産を贈与すると相続税対策になる可能性がある

相続時精算課税制度を利用すると、財産や物件が値上がりする前に贈与可能になります。物件の価値が値上がりしてから相続すると、相続を受けた人の税負担は大きくなります。

贈与して実際に相続が発生してから価値が高まっても、贈与時点での価値で評価されることから、相続税が高くなることはありません。
例えば、将来的に鉄道や新幹線の路線の開通、都市開発で需要が高まる土地の場合、あらかじめ相続時精算課税制度で贈与しておけば、大幅に相続税を抑えられるでしょう。

ただし、財産価値が値下がりする可能性もあるため、常に最新情報を意識しておくことが大切です。

相続時精算課税制度のデメリット

一方で、相続時精算課税制度のデメリットも少なくありません。
 

デメリット① 暦年贈与が使えなくなる

「暦年贈与」とは、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額が110万円以下の場合、贈与税はかからない仕組みです。しかし相続時精算課税制度を利用して贈与する場合、一度この届出書を出すと、その贈与者・受贈者の間での贈与はそれ以降すべて相続時精算課税制度での贈与とみなされます。
 

デメリット② 贈与税の申告を行う必要がある

暦年贈与では1年間に受け取った贈与額が110万円以下なら、贈与税は不要で、贈与税の申告も必要ありません。しかし相続時精算課税制度を利用して贈与する場合は、贈与額が110万円以下であっても、贈与した年については必ず申告を行わなければなりません。
相続時精算課税制度での贈与では、金額を問わず、いつも申告を行うことを覚えておきましょう。
 

デメリット③ 申告漏れすると20%が課税される

相続時精算課税制度を利用する場合、贈与を受けた年は必ず贈与の申告について行わなければなりません。
「2,500万円までは税金がかからない」ルールが適用されるのは、その申告を行った人のみ。ですから申告を忘れた場合は、贈与税として20%が課税されることになります。
 

デメリット④ 小規模宅地等の特例が使えない

不動産や土地を生前贈与で受ける場合もあるでしょう。自宅の敷地など、小規模宅地を相続した場合、その相続税が減額される「小規模宅地等の特例」という制度があります。
これは、一定の条件を満たす土地を相続した場合、土地の評価額が最大で8割減額され、それによって相続税が抑えられるルールです。しかし相続時精算課税制度を利用している場合は、この「小規模宅地等の特例」は適用できません。
 

デメリット⑤ 値下がりする資産の贈与では贈与税を多く払う可能性も

相続時精算課税制度を使って贈与する場合、相続時ではなく贈与時の価格をもとに課税されることになります。
そのため、土地や株式など資産価値が変動するものの相続の場合、贈与時より相続時に値下がりしている場合は、贈与税が高くなる可能性があります。
 

デメリット⑥ 登録免許税・不動産取得税が高くなる場合も

相続時精算課税制度を利用して不動産を相続した場合、免許登録税と不動産取得税の負担が大きくなる可能性があります。
この2つの税金は、生前贈与の場合と相続した場合では税率が異なり、生前贈与の方が税率が高くなります。例えば、不動産取得税は、生前贈与の場合は固定資産税評価額の3%ですが、相続の場合は必要ありません。
 

デメリット⑦ 贈与を忘れると遺産分割協議と相続税申告をやり直すことに

相続時精算課税制度の届を提出すると、何年も前の贈与であっても相続税の対象となります。これを忘れていると、税務署から指摘を受けて、遺産分割協議や相続税の申告についてやり直すことになります。

【参考リンク】
「相続時精算課税制度の注意点 4つのメリットと7つのデメリット(朝日新聞社運営ポータルサイト:相続会議)」
https://souzoku.asahi.com/article/13562223#A11" 

相続時精算課税制度を利用する際の注意点

相続時精算課税制度を利用する場合、以下のことについて注意しましょう。
 

注意点① 必ず節税になるわけではない

相続時精算課税制度は、相続税を抑えるお得な制度と思われるかもしれません。
条件によっては節税につながることもありますが、そうではない場合もあり、本来より多く相続税を負担するケースもあるでしょう。必ずしも節税になるとは言えません。
 

注意点② 暦年贈与には戻せない

相続時精算課税制度の届出を行うと、暦年贈与に戻すことはできません。
そのため、相続時精算課税制度と暦年課税のそれぞれについて、相続税のシミュレーションを行って計画的に贈与を行うことをおすすめします。
 

注意点③ 自動継続される

相続時精算課税制度を選ぶと、その贈与者ごとに自動継続となります。
「祖父からの贈与は相続時精算課税制度」で「父からの贈与は暦年贈与」と、それぞれに選択できますが、一度選んだあとは自動継続となります。

相続時精算課税制度を利用しない方がいい人

相続時精算課税制度を利用しないほうがいいのは、次の条件に当てはまる人です。

・暦年贈与を使う予定のある人
・同居人に制度を使いたい人
 

暦年贈与を使う予定のある人

今すぐでなくても、暦年贈与を使う予定のある人は相続時精算課税制度を利用しないほうがよいでしょう。相続時精算課税制度を一度でも使用すると、暦年贈与は二度と使えなくなるからです。

暦年贈与は年間110万円を非課税にできる贈与制度で、使い方次第で相続時精算課税制度よりも効果的な節税対策になります。
例えば、1年間で10人に110万円ずつ贈与したり、10年間110万円ずつ1人に贈与したりする場合、どちらの場合でも非課税となります。

しかし相続時精算課税制度を利用すると暦年贈与の非課税対象ではなくなるため、どちらが得になるか考えるべきです。相続時精算課税制度による基礎控除は2,500万円ですから、暦年贈与に比べると1回の税額控除は大きくなります。
どちらを利用したほうがより節税になるのか、比較することが大切です。
 

同居人に土地や建物を譲りたい人

被相続人が配偶者や親族などの同居人と暮らしており、同居人に土地や建物を贈与したい場合、相続時精算課税制度は利用しないほうが賢明です。制度を利用してしまうと、実際の相続時に小規模宅地等の特例が利用できなくなるからです。

小規模宅地等の特例を利用すると、最大で相続税評価額の80%まで減額可能であり、かなりの節税対策になります。相続時精算課税制度の2,500万円の基礎控除より大きな節税になることもあるため、どちらの制度を利用すべきか相談して決めるべきです。
小規模宅地等の特例に関する相談は相続遺言相談センター、相続に関する相談は弁護士・司法書士・行政書士などに行うのがおすすめです。

同居人に土地・建物を贈与したい方は、専門家に相談してより良い方法を選択しましょう。

相続時精算課税制度を賢く利用しよう

2,500万円までは非課税になる相続時精算課税制度。メリットは数多くありますが、一方でデメリットも少なくありません。

暦年贈与とどちらがお得になるのか、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談して選択するのが望ましいでしょう。

監修者

コラム監修者 岩本大介
岩本 大介(いわもと だいすけ)

相続診断士・
不動産終活士・不動産終活アドバイザー・
終活セミナー講師認定資格・
福祉住環境コーディネーター2級
不動産営業及びマーケターとして20年以上従事。
シニアやその子世代に寄り添い、
不動産のエキスパートとして
不動産の相続・空き家問題に取り組む。

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