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【事例付き】換価分割vs代償分割 あなたに最適な相続方法は?

相続財産、特に分けにくい不動産の分割方法で悩んでいませんか?主な方法として、遺産を売却して現金で分ける「換価分割」と、誰か一人が現物を相続し他の相続人にお金を支払う「代償分割」があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選ぶことが、円満な相続の鍵となります。今回のコラムではそれぞれの特徴をわかりやすく説明いたします。

こんな方におススメ

  • 換価分割と代償分割について詳しく知りたい方
  • 遺産分割において円満に協議を行いたい方
  • 換価分割と代償分割のメリットデメリットを知りたい方
  • 相続税の節税について知りたい方

換価分割と代償分割の基本を理解する

換価分割とは?その特徴と仕組み

■換価分割の定義と概要

換価分割は、民法906条が掲げる「各相続人の年齢・職業・心身の状態・財産の種類および額・その他一切の事情を斟酌して公平を図る」という基本原則を満たすための手段の一つです。相続財産をいったん代表相続人の名義に集約し、その代表者が売却して得た現金を相続人間で按分する方式で、現物を物理的に分けられない不動産でも公平な清算が可能になります。実務では遺産分割協議書に「本件不動産は換価分割により売却し、売却代金を法定相続分に従って分配する」などと明記し、さらに代表相続人に名義を移転する登記原因証明情報を添付して贈与税リスクを回避するのが定番の流れです。

換価分割が選ばれやすいのは、
①相続人が4〜5名以上いて按分が煩雑なとき、
②一筆の土地や区分所有マンションなど物理的に切り分けが難しい資産が中心のとき、
③相続税や住宅ローン残債の支払いで早急に現金が必要なとき、
④将来的に誰も利用予定がなく維持費だけがかかる遊休不動産が含まれているとき、
などです。これらのケースでは「売ってから分ける」ほうが交渉コストと税金コストの両面で合理的で、家族間の感情的なしこりも最小化しやすいというメリットがあります。

実際の手順は、
①評価=固定資産税評価証明書や不動産会社の査定書を取得し資産価値を見える化、
②協議=資産目録をもとに相続人全員で遺産分割協議書を作成、
③登記=司法書士が代表相続人への相続登記(便宜的名義集約)を申請、
④売却=代表相続人が仲介契約を結び売買契約・決済を実行、
⑤分配=決済日に着金した売却代金を相続人の口座へ送金、
の順番です。評価段階では不動産鑑定士、協議段階では弁護士や司法書士、登記と売却段階では司法書士と宅建士が関与するのが一般的で、専門家報酬を含めた総コストの事前試算が重要になります。

同じ「現物を売って現金化」でも、裁判所を通じた競売や債権者主導の任意売却とは性質が大きく異なります。競売は売却価格が市場価格よりも低下しやすく、落札価格が路線価を下回ることもあります。任意売却は債務整理を目的とするため、金融機関の同意が前提で自由度が低いです。これに対し換価分割は相続人が主体となって売却タイミングや最低売却価格、仲介会社の選定などを柔軟にコントロールでき、納税資金や生活資金のスケジュールに合わせて戦略的に進められる点が大きな利点です。
 

■換価分割のメリット:公平性と資金調達の容易さ

換価分割では、「評価額」ではなく実際の売却実現価格を基準に現金を分けることができます。公平性という観点で大きな強みになります。固定資産税評価や路線価評価のみで机上計算した場合と異なり、「いくらで売れたか」が可視化され、分配額が円で示されるため納得度が高まることが理由です。相続人が5人・6人と多くなるほど評価額と実勢価格のズレが不満を生む傾向がありますが、換価分割ではそのズレを最小化し、全員が同じスタートラインで金額を受け取れる環境を整えられます。

もう一つの大きなメリットは、納税資金を一括で確保しやすいことです。例えば地価2億円の都市部の土地を売却し、手取り1億8千万円を得たケースを考えてみましょう。被相続人の総資産に対して発生した相続税が6,000万円だった場合、換価分割で得た現金を使えば売却代金の3分の1を納税資金として即座に充当できます。相続税の納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」と法律で定められているため、決済日から税務署への納付までのタイムラインを逆算しても十分に間に合います。仮に3月に相続開始をした場合、8月(5カ月後)に売却契約を締結し、11月末(8カ月後)に決済・分配が完了すれば、翌年1月(10カ月後)の申告・納付期限にも余裕が生まれ、延滞税や利子税を心配する必要がありません。

公平性と資金調達の容易さは、結果として家族関係の軟着陸にもつながります。ある兄弟3人の事例では、長女が両親の介護を担っていたものの「現金を多めに欲しい」という要望が他の相続人と衝突していました。換価分割で不動産を5,500万円で売却し、介護貢献度を考慮して長女に200万円上乗せして分配する案を協議書に明記したところ、全員が数字で納得し調停に移行せずに済みました。心理面では「評価が曖昧で損をするかもしれない」という不安が払拭され、法務面では贈与税リスクを排除した協議書があることで安心感が生まれます。このように、換価分割は単なる資金確保の手段にとどまらず、家族全員が前向きな気持ちで新しい生活を始めるための“着地点”を提供してくれるのです。
 

■換価分割のデメリット:贈与税リスク

代表相続人が物件を一旦取得して売却し、代金を他の相続人へ送金する「便宜的換価分割」には贈与税リスクが潜んでいます。税務署は資金移動の実態を重視するため、遺産分割協議書に「本物件は換価分割を目的として代表相続人◯◯が取得し、売却代金を各相続人に均等分配する」旨を明記し、振込記録や配分割合を証拠化しておくことが不可欠です。協議書が曖昧だったり送金ルートが見えにくいと「代表相続人が自己資金で贈与した」と判断され、最大55%の贈与税を課されることもあります。法務・税務の両側面を押さえた書面作成と資金フローの可視化が、換価分割成功の生命線と言えるでしょう。
 

代償分割とは?その特徴と仕組み

■代償分割の定義と概要

代償分割は民法906条が定める「価格賠償」の一形態で、相続財産のうち特定の現物を取得した相続人が、取得しなかった相続人へ現金で補填(これを代償金と呼びます)する仕組みです。イメージしやすいよう簡易フローを書き出すと、
①相続財産を評価 
②現物取得者を決定 
③取得者が代償金を支払う 
④他の相続人が配分を受ける
という流れになります。相続人それぞれが不動産や株式を細分化せずに済むため、財産の機能や価値を維持したまま“公平な取り分”を実現できる点が大きな特徴です。

この方法が特に活躍するのは、相続財産を売却せず現物のまま残したいケースです。例えば、オーナー企業の株式を分散させると議決権がばらけて経営が不安定になる恐れがあります。また、被相続人が住んでいた自宅を配偶者や同居の子が引き続き利用したい場合、売却や共有より代償分割のほうが生活基盤を守りやすいです。その他、収益不動産を一括で保有したほうが経営効率を保てる場面など、財産の“現物維持価値”が高いときに選ばれる傾向があります。

代償金の算定方法は複数あり、どれを採用するかで相続人の利害が大きく変わります。一般的には「路線価」を基礎にするパターンがありますが、市況を反映させたい場合は不動産鑑定士の「鑑定評価」、収益物件や非上場株式のように将来キャッシュフローが重要な資産なら「DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)」が用いられることもあります。
選択基準は
①客観性
②コスト(鑑定料など)
③合意形成のしやすさ
で、相続人全員が納得できる根拠をそろえることが交渉のポイントになります。

代償金を確実に支払うためには、協議書や金銭消費貸借契約に類する条項を細部まで詰める必要があります。特に重要なのが
①期限の利益喪失(支払い遅延時に一括請求できる条項)
②利息設定(無利息だと贈与税リスクが生じるため適正利率を明記)
③担保提供(抵当権や保証人)
の3点です。実務では「支払期限」「分割払いの場合の回数と金額」「遅延損害金」「担保の種類」をチェックリスト化し、金融機関の融資書類と突き合わせながら漏れを防ぎます。こうした契約管理を徹底することで、後日の未払いトラブルを大幅に減らせます。
 

■代償分割のメリット:財産の現物維持と柔軟性

代償分割が真価を発揮する典型例は、事業承継や自宅の継続居住が欠かせないケースです。たとえば家族経営の印刷会社を営むA家では、被相続人が所有していた株式を長男が一括で引き継ぎ、経営の一貫性を保ちました。もし換価分割で株式を売却してしまえば、外部株主の影響で経営方針が変わり、従業員40名の雇用が揺らぐリスクがありました。自宅についても同様で、被相続人が築いた二世帯住宅をそのまま使い続けることで、同居していた高齢の母親は環境変化によるストレスを感じずに済み、介護体制も維持できました。つまり、代償分割は“現物を守る”ことが家業の存続や家族の生活基盤に与えるインパクトを最大化する仕組みなのです。

さらに、代償金の支払い方法にバリエーションが豊富な点が交渉を柔軟にします。現金一括払いはもちろん、相続人間で5年・10年の分割払いを設定することもできますし、長男が金融機関から3,000万円の事業融資を受けて代償金を拠出するパターンもあります。

税務面でも代償分割は魅力的です。不動産や株式を売却して現金化する換価分割と異なり、代償分割では現物がそのまま移転するため譲渡所得税が原則として発生しません。仮に路線価1億円の土地を換価分割で1億2,000万円で売却した場合、差額2,000万円に対して最大で約40%(所得税・住民税合計)の課税がかかり、手取りが約800万円目減りします。一方、同じ土地を長男が取得し代償金を支払う代償分割であれば、この800万円をそっくり家族内に残すことができ、相続税のみを意識すれば済むケースが大半です。この「譲渡課税を回避できる」という一点だけでも、節税効果の大きさは明白です。
 

■代償分割のデメリット:代償金の負担と資金調達の課題

代償分割では、不動産など高額資産を特定の相続人が現物取得し、他の相続人へ現金を支払う必要があります。例えば市場価格1億円の自宅を長男が取得し、法定相続分の差額として5,000万円を兄妹3人へ支払うケースを想定すると、長男は5,000万円という巨額の資金を一括用意しなければなりません。相続税や葬儀費用も同時期に発生することを考えると、短期間で50%超の現金を確保する難易度は極めて高く、自己資金だけで賄える世帯は限られるのが実情です。

資金繰りを軽減するために代償金を分割払いで合意する方法もありますが、利息を設定した場合、その利息部分は支払を受ける側の「利子所得」として所得税・住民税の課税対象になります。例えば5,000万円を年利2%・10年分割とすれば年間利息100万円が発生し、受取側の税率20%(住民税含む)なら20万円の追加納税が必要です。利息をゼロにすると今度は“低額譲受”として贈与税を指摘されるリスクがあり、どちらを選んでも思わぬ税負担が生じる点に注意が必要です。

遺産分割方法の種類と選び方

遺産分割の4つの方法

■現物分割の特徴と注意点

現物分割は、遺産をそのままの形で各相続人に割り振る方式です。遺産分割の四つの方法の中で手続きがもっともシンプルに見えますが、実際には「最も揉めやすい」側面をはらんでいます。不動産が一筆しかない場合や、非上場株式を少数ずつ保有している場合など、物理的に均等配分しづらい財産があると、誰がどの部分を引き取るかで感情的対立が生じがちです。また、同じ不動産でも日当たりや前面道路幅などロケーション要素が違えば市場価値が変わり、平等に分けたつもりでも「実質不公平」という不満を生む火種になります。

評価額調整条項を協議書に入れないまま現物分割を行うと、不公平感が顕在化しやすくなります。たとえば、長男が2,000万円相当の都市部区分マンションを取得し、次男が2,000万円評価の地方の空き家を取得したとします。数年後、都市部物件は2,400万円に値上がりした一方、空き家は売却が難しく1,200万円まで下落した場合、次男は遺留分侵害請求を検討する可能性があります。条項を設けていれば、評価差額を金銭で調整することができ、後日の請求リスクを低減できます。

現物分割後に不公平が表面化すると、共有物分割請求訴訟や代償金追加交渉へ発展するケースがあります。実務では、①相続人全員が共通の評価基準(路線価、鑑定評価、DCF法など)を採用し、②評価書を根拠資料として保管し、③当初から専門家(不動産鑑定士・税理士)を交えて相対的公平性を担保する、という三段構えがトラブル回避に効果的です。特に鑑定評価書は裁判所でも重視されるため、費用を惜しまず取得する価値があります。
 

■換価分割の適用シーンと手続き

兄弟姉妹や甥姪を含めて相続人が5名以上となると、遺産の中心が地方の遊休地1筆だけ、という構図はめずらしくありません。例えば、親世代が残した1,200㎡の郊外宅地を長男・次男・長女・次女の4人で受け継ぐケースを想像してください。全員が都市部に持ち家を構え、生活基盤も仕事も別々──そんな状況では「土地を誰かが現物で取得して管理する」よりも「売って現金を等分」が合理的です。しかも、土地の評価額は2,000万円でも固定資産税や草刈り費用が年間10万円以上かかるため、現物保有は家族の誰にとっても重荷になります。このように、相続人が多く、現物を必要とせず、維持コストが割高な不動産が主財産という条件がそろうと、換価分割が最適解になりやすいのです。

換価分割に進む前段階では、準備書類と合意事項をセットで整えておくと後々のトラブルを大幅に減らせます。具体的には、相続人全員が署名押印する「売却方針事前合意書」を作成し、
①売却方法(仲介か買取か)
②仲介手数料の上限
③最低売却価格
④値下げ許容幅
⑤販売期間の目標
などを明文化します。加えて、価格交渉の裁量範囲を仲介会社に委ねるかどうか、媒介契約を専任か一般かで結ぶか、といった営業面の細部も事前に決めておくとスムーズです。この合意書があるだけで、後から「そんな価格で勝手に売るな」「もっと高く売れたはずだ」という不満が噴出するリスクをほぼ封じ込められます。

実務でよく行われる便宜的換価分割では、まず相続登記で代表相続人一人に名義を集約します。手順は①共同相続人全員を登記権利者として「相続」を原因とする所有権移転登記を申請し、②同日付で代表相続人を単独権利者とする「遺産分割」を原因とする移転登記を重ねる二段構えが一般的です。ここで重要なのが遺産分割協議書の文言で、「本不動産は代表相続人○○が売却処分し、その代金総額から必要経費を控除した残額を相続人各自の法定相続分(又は合意割合)に従い速やかに分配するものとする」と明記しておくこと。資金移動が贈与とみなされるリスクを回避でき、税務署からの指摘を受けにくくなります。なお、協議書には売却完了後○日以内に分配する旨や振込先口座も具体的に書いておくと、実務の透明性が格段に高まります。
 

■代償分割の活用例と実務上のポイント

創業家が100%保有していたオーナー企業の株式を巡り、長女が経営を継ぎたい一方で他の兄弟は経営に関与しない──このような場合に代償分割が威力を発揮します。具体的には、相続財産1億2,000万円のうち未上場株式が8,000万円、その他現預金が4,000万円という構成でした。長女が全株式を取得し議決権を100%確保するかわりに、現預金と金融機関からの借入金を合わせて5,000万円を代償金として兄弟2名に支払うスキームです。議決権の集約で迅速な経営判断が可能になるうえ、少数株主が存在しないため配当方針や株式譲渡に関する煩雑な手続きを排除できます。
 

■共有分割のリスクと解決策

共有分割は「とりあえず全員の名前で名義を入れておけば平等に見える」という心理から選ばれがちですが、本質的には問題を未来へ持ち越す手段にすぎないのでおススメしません。各相続人は自分の持分を単独で売却したり、第三者に贈与したりする自由があります。その結果、知らない投資家が共有者として入り込み、一部の相続人だけが賃貸収入を優先し、別の相続人は自宅として使いたい――といった利用目的の衝突が発生しやすくなります。意思決定には原則として共有者全員の同意が必要なため、たった一人の反対で物件の売却も大規模修繕もストップし、家族内の小さな不満が雪だるま式に大きくなる構造です。

共有状態が長期化すると、管理費・修繕積立金・固定資産税といったランニングコストがじわじわと家計を圧迫します。例えば築25年のマンションを兄弟3人で共有した場合、管理費1万5,000円と修繕積立金1万円を月額負担すると年間30万円、10年で300万円が必要です。さらに固定資産税が年12万円なら10年間で120万円、合計420万円を3人で按分する計算になります。しかし中古マンションの持分だけを市場で売却しようとしても、買主は自分の判断で売却できない共有持ち分がついている不動産を欲しいと思うでしょうか。仮に売却ができたとしても市場価格よりは低くなることは明白です。また、共有持ち分を売却すること自体も兄弟間での揉め事になります。兄弟だからそこの信頼で不動産を持ち分で分けたわけですが、どこのだれかわからない人に持ち分が渡ると、いざ売却したいときに合意に至らないことが発生するのです。そうなるとその不動産は売却困難になり、管理費と固定資産税を払い続けるだけの負動産になってしまいます。
 

どちらが適しているかを判断する基準

■相続財産の種類と価値

相続財産は大きく分けて①不動産、②金融資産、③事業用資産、④動産(美術品・骨董品・宝飾品など)の4カテゴリーに整理できます。不動産は国税庁の路線価や倍率方式を基礎としつつ、収益還元法や取引事例比較法で補正して「時価」に近づけるのが一般的です。金融資産のうち上場株式は相続開始日を含む前後3か月平均終値、預貯金は残高証明書の残高が評価額になります。事業用資産である非上場株式はDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法、類似業種比準価額、純資産価額の3パターンが代表的で、どれを採用するかで評価が変わってきます。

評価が済んだら、換価分割・代償分割どちらが向いているかを見極めるために「流動性」をチェックします。ひとつの例にはなりますが、売却までの期間と価格ブレ幅を基準に0~5の売却容易性スコアを付ける方法をご紹介します。都市部マンション=5、上場株式=5、郊外戸建て=3、非上場株式(同族会社)=1、美術品コレクション=2といった具合に評価ポイントを設定します。換価分割はスコア4~5の資産が多いほど短期間で現金化でき、公平に分配しやすくなります。一方、スコア1~2の資産が中心なら代償分割で現物を維持しつつ代償金を調整したほうが合理的です。

こうした資産価値の把握は、家族間で「何をどう分けるか」という交渉のスタートラインになります。粗い目算のまま協議に入ると、途中で評価が変わって感情的対立に火が付くことも多いです。目安として、不動産評価額が1億円を超える、非上場株式を含む、美術品総額が1,000万円超といったケースでは、税理士や不動産鑑定士に正式鑑定を依頼する基準になるかと思います。専門家報酬は不動産鑑定で30~50万円、非上場株式評価で50~120万円が相場ですが、評価ミスによる追徴リスクや家族間トラブルのコストを考えれば十分にペイする投資といえます。
 

■相続人の人数と関係性

相続人の顔ぶれが多様化する現代では、実子だけでなく養子や再婚相手の連れ子が同じテーブルに着くことが珍しくありません。例えば、実子2人+養子1人のケースでは、法定相続分は全員が平等である一方、生前から家業に従事していた長男が事業用不動産を優先取得したいという希望を持つなど、生活実態と法律上の取り分がずれる場面が頻繁に起こります。再婚相手の連れ子が含まれるケースでは、被相続人との養子縁組の有無によって相続権そのものが変わり、分割シナリオが根本から書き換わるため、協議書の文言や評価方法を初期段階で精緻化しておく必要があります。

同じ兄弟姉妹でも同居か別居か、生前介護への関与度合いが異なれば、心理的なバイアスは大きく変わります。同居して介護を担った長女が「自宅を守りたい」と主張し、遠方在住で介護に関われなかった次男が「公平な金銭分割」を求めるといった構図です。このギャップを埋めるには、①各人の貢献度・希望を可視化する、②論点ごとに発言時間を均等にする、③専門家をファシリテーターとして招き“問題ではなく人を分ける”手法を取り入れる、といった方法が有効です。感情的になりやすい遺産分割ですが、相互の意見を公平に評価するために、可視化したり第三者に同席してもらうなどは、大いに役に立つでしょう

最終判断では、税金・手数料といった直接コストだけでなく、意思決定にかかる時間コストと機会損失も勘案すべきです。たとえば換価分割は売却完了まで平均6〜9か月を要し、その間は相続人全員が資金を動かせません。共有分割は早期に現金化できないため、子どもの学費や自宅購入のタイミングを逃すリスクがあります。一方、代償分割でローンを活用すれば速やかに他の相続人へ現金が渡り、投資や返済に充当できるメリットがあります。自社株を含む事業承継では、現物分割や共有分割による議決権分散が経営の意思決定スピードを鈍らせることもあるため、「家族が動ける資金」と「資産を動かさず守る価値」のバランスを数値化し、ビジネス的視点で総合最適を図ることが重要です。

換価分割の手続きと注意点

換価分割の具体的な流れ

■財産価値の調査と評価

相続財産の価格を測るには、まず正確な資料を集めることが何よりの近道です。土地や建物を含む不動産であれば、市区町村の税務課で取得できる固定資産税評価証明書、法務局で発行される登記事項証明書、さらに図面・公図までそろえておくと評価誤差を最小化できます。預貯金や株式を遺産に含む場合は、金融機関の残高証明書や証券会社の取引報告書を最新日時点で取得します。非上場会社の株式があるときは、決算書3期分と事業計画書を用意しておくと後述するDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)評価にスムーズに移行できます。これらの書類をPDF化してクラウドに共有しておくと、相続人全員が同じ情報を閲覧でき、初期の不信感を和らげる効果も期待できます。

資料がそろったら資産別に評価ロジックを当てはめます。土地は国税庁の路線価に奥行価格補正率や間口狭小補正率などを掛け合わせ、形状や前面道路の幅員による減価も反映します。建物は固定資産税評価額がベースになります。上場株式は相続開始日を含む直近の終値・課税時期が異なる場合は平均株価を用いるとブレが小さくなります。

同じ資産を複数の手法で評価すると、路線価3,000万円、実勢価格3,600万円、鑑定評価3,400万円というように結果がバラけることは珍しくありません。このギャップを埋める手段として、①評価方法ごとに重みを設定する加重平均、②極端に高い値と低い値を除外して中央値を採用する高値低値除外、③相続人が納税資金を優先するか手取り額を優先するかで評価指標を切り替える“目的別調整”が使われます。
 

■遺産分割協議の進め方

資産目録や相続関係説明図を徹底的に整備してから協議に臨むと、交渉スピードが格段に上がります。逆に「とりあえず集まって話そう」と資料なしで始めると、正しい評価額がわからず、認識ずれを埋めるだけで時間を要し、感情的な疲弊が深刻化することが多いです。情報の見える化が交渉効率と心理的安心を同時に高める典型例です。

協議の場では議事運営を仕組み化するだけで衝突リスクが大幅に低下します。最初に議長(多くは長男または専門家)を決め、議題とタイムラインをホワイトボードまたは共有ドキュメントに明示すると、発言の重複や脱線が減ります。また、議事録はその場でプロジェクターに投影しながら作成すると「言った・言わない」を防げます。遠方居住者がいる場合はビデオ会議を併用し、チャットでリアルタイムに質問を受け付けると参加意識を維持できます。発言順をタイマーで管理し、感情が高ぶったら5分間のクールダウン休憩を入れるなど、ほんの少しのテクニックで対立の芽を摘むことが可能です。

どうしても合意に達しない場合は、家庭裁判所の調停にステップアップする選択肢があります。申立て手数料は遺産総額にかかわらず1件1,200円程度ですが、戸籍謄本などの添付書類取得費用を含めると実費で約5,000円、弁護士に依頼すれば着手金が50万~100万円が目安です。調停でも折り合わなければ審判に移行し、最終判断を裁判所が下しますが、その段階まで進むと期間は平均1年、弁護士費用も総額200万円を超えるケースが珍しくありません。時間・コスト双方の負担を考えると、調停入りする前に打開策を探る価値は大いにあります。

合意形成を後押しするファシリテーターとして、弁護士や司法書士を“議長補佐”の立場で招く方法も有効です。第三者が議事進行と法的チェックを担当すると、相続人は意見表明に専念でき、感情の衝突が緩和されます。費用は発生しますが、初回協議が平行線になった時点で早めに依頼すると、費用対効果が最も高くなります。専門家を“最後の手段”ではなく“早期の潤滑油”として活用する発想が、円滑な遺産分割への近道になります。


■相続登記と名義変更の手続き

2024年4月から相続登記(そうぞくとうき)義務化がスタートしました。これは不動産を取得した相続人が、取得を知った日から3年以内に登記申請を行わなければならないというルールで、正当な理由なく期限を過ぎると10万円以下の過料が科される可能性があります。被相続人(亡くなった方)の名義のまま長期間放置されることで土地が「所有者不明」となり、公共工事や再開発が進まない社会問題が背景にあります。したがって、登記を先延ばしにするメリットは事実上なくなり、早めの手続きが家族全員の利益につながります。逆に、相続時にも誰が所有者か明確にわかることになり、次の世代で所有者探しなどの手間が無くなります。

実際に申請する際は、次の書類を漏れなくそろえることが肝心です。
◯被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 
◯被相続人の住民票除票または戸籍の附票 
◯相続人全員の戸籍謄本 
◯相続人の住民票 
◯固定資産評価証明書 
◯法定相続情報一覧図(法務局が無料で発行) 
◯遺産分割協議書 
◯委任状(司法書士に依頼する場合)
書類がそろったら「登記申請書」を作成し、管轄の法務局へ持参またはオンライン申請します。貼付書類の順番や収入印紙の金額を間違えると補正が必要になるので、チェックリストを使って提出直前に再確認すると安心です。

換価分割を前提に代表相続人へ一旦名義を寄せる「便宜的換価分割」を行う場合は、登記原因証明情報にその旨を明確に記載します。例えば「登記原因 令和6年5月1日相続 相続人Aは本不動産を売却し、その代金を相続人B、C、Dに按分して交付する旨、同日成立した遺産分割協議書による」と示しておくと、後日売却代金を送金した際に贈与税と誤認されにくくなります。また、代表相続人が単独所有者になることから登録免許税は固定資産税評価額×0.4%で計算される点も忘れずに試算しておきましょう。

登記が完了したら「名義変更後タスク」を時系列で片付けると管理が楽になります。
1) 法務局から交付された登記事項証明書を確認 
2) 市区町村に提出して固定資産税通知書の送付先を代表相続人から実際の負担者へ振り替え 
3) 管理会社や水道・電気などライフラインの契約者名変更 
4) 金融機関に抵当権抹消や口座名義変更を依頼 
5) 不動産会社へ不動産売却の依頼(換価分割の場合)
――という順番です。特に固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課税されるため、年度途中でもできるだけ早く送付先変更届を提出すると、次年度の請求トラブルを防げます。
 

換価分割における税金の種類と対策

■相続税の計算方法と節税のポイント

相続税を最小限に抑える第一歩は、課税対象となる「正味の遺産額」を把握することです。相続財産の合計額から債務や葬式費用を差し引き、そこからさらに基礎控除『3,000万円+600万円×法定相続人の数』を引いた残額が課税価格になります。例えば、父親が亡くなり法定相続人が配偶者と子ども2人の計3名であれば、基礎控除は3,000万円+600万円×3=4,800万円です。仮に遺産総額が8,000万円、債務と葬儀費用が700万円であれば、正味遺産は7,300万円、ここから基礎控除4,800万円を差し引き、課税価格は2,500万円となります。この金額を各相続人の法定相続分で按分し、速算表に当てはめて個別の相続税額を計算するという流れです。

基礎控除を超えても、各種特例を活用することで納税額を大幅に圧縮できます。代表格は配偶者の税額軽減で、配偶者が取得する財産については『1億6,000万円』または『配偶者の法定相続分相当額』のいずれか高い方まで相続税がかかりません。未成年者控除は10万円×(20歳−相続開始時の年齢)で、例として17歳の子がいれば30万円を差し引けます。障害者控除は一般障害者で10万円、特別障害者で20万円を『85歳−相続開始時の年齢』分だけ控除可能です。これらを組み合わせることで、課税価格を抑えられるます。

さらに踏み込んだ節税策としては、小規模宅地等の特例があります。自宅敷地を相続人が引き続き居住する場合、330㎡まで土地評価額の80%を減額できるため、路線価評価1億円の土地でも課税評価は2,000万円に圧縮されます。ただし、特例には維持条件が付随する点に要注意です。小規模宅地等の特例は相続開始から3年以内に売却すると遡って課税対象となり、追徴税と延滞税が発生します。節税効果とリスクを天秤にかけたシミュレーションを事前に行い、専門家と定期的にチェックする体制を整えておくことが、安心・安全な相続対策への近道です。ポラスでは相続に強い税理士をご紹介することが可能です。
 

■譲渡所得税の発生条件と特別控除の活用

譲渡所得税の計算は、まず課税対象となる譲渡所得を把握することから始まります。計算式は「譲渡所得=譲渡価額−取得費−譲渡費用」で、ここから特別控除を差し引いた残額に税率を掛けます。取得費とは購入代金や仲介手数料、登記費用など“不動産を手に入れるために実際に払ったコスト”を指し、譲渡費用は売却時の仲介手数料・測量費など“売るために直接かかったコスト”を指します。また所有期間が5年以下なら短期譲渡所得、5年超なら長期譲渡所得と区分され、税率は短期が合計39.63%、長期が20.315%と大きく異なります。したがって、取得費と譲渡費用をきちんと把握し、所有期間を正しく判定することが税負担を左右するカギになります。

相続で取得した不動産を売却する場合、所有期間の起算日は被相続人(亡くなった方)の取得日を引き継ぐルールになっています。たとえば父が1990年に購入した土地を2023年に相続し、翌2024年に売却したとすると、所有期間は34年となり長期譲渡所得扱いです。この“引き継ぎルール”を知らずに「相続から1年しか経っていないから短期」と誤認すると、税率が約2倍になりかねません。一方、生前贈与で受け取った場合は取得日を贈与時点から計算するため、短期判定になりやすく注意が必要です。

節税効果が大きい特例として、
①取得費加算の特例、
②空き家3000万円控除、
③居住用財産3000万円控除の3つが代表的です。①は相続税を納付した日から3年以内に売却すれば、その相続税の一部を取得費に上乗せできます。②は被相続人が一人暮らしで住んでいた家を相続人が取り壊しまたはリフォームして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。③は自分の居住用住宅を売る場合に適用される控除で、相続後に自ら居住し5年以上経過した後に売却すれば活用できます。いずれも適用条件を満たせば、税金が百万円単位で減るインパクトがあります
 

■売却時の固定資産税や住民税の注意点

固定資産税は毎年1月1日時点の所有者がその年分を納めるルールです。このため、1月中に売買を成立させても納税通知書は旧所有者に届きます。実務では売却日が1月1日を跨ぐかどうかで負担割合が大きく変わるため、売買契約書に「固定資産税等の精算条項」を必ず入れ、売却日を基準に日割り計算して清算するのが一般的です。とりわけ3月決済を予定している場合、買主側が固定資産税の大半を負担する感覚でいるとトラブルになりやすいため、司法書士を交えて早期に数値シミュレーションを共有しておくと安心です。

譲渡所得にかかる住民税は、確定申告した翌年度に課税されます。例えば2024年に売却して譲渡所得税を翌年3月に申告すると、住民税は2025年6月頃から納付が始まります。売却代金はすでに生活費やほかの投資に充ててしまい、翌年の納税資金を失ったというケースが少なくありません。特に換価分割で複数の相続人に分配した場合、各人が住民税の支払い時期を理解していないと資金ショートを起こすリスクがあります。

未納の固定資産税が残ったまま決済日を迎えると、法務局の相続登記や買主への所有権移転登記がストップする場合があります。金融機関が抵当権設定を拒むこともあり、最悪の場合は自治体による差押えが入ってしまいます。こうしたリスクを回避するため、決済前に納税証明書を取得して「未納なし」を確認し、残高がある場合は売却代金から即時精算する方法が有効です。また売買契約書の精算金条項に「未納固定資産税が判明した場合、売主が全額負担する」など具体的な文言を盛り込むと、後日の紛争を防げます

代償分割の手続きと注意点

代償分割の具体的な流れ

■遺産分割協議書の作成と内容の明記

遺産分割協議書は、金融機関の預金払戻し手続き、法務局での相続登記、税務署への相続税申告という三つの窓口すべてで求められる“共通の出発点”になる書類です。そのため、相続人全員の自署・実印押印(認印は不可)に加え、印鑑証明書の添付が必須とされています。複数ページにわたる場合は契印を忘れずに入れ、日付は合意成立日を明確に記載します。署名押印が一人でも欠けると書類全体が無効扱いになるため、郵送回付する際は配達記録付きの書留を利用し、到達管理を徹底することが重要です。

代償分割を選択したケースでは、代償金の額・支払期限・利息の有無を具体的に書き込むことで、後日の“言った言わない”を防げます。例えば「第3条 本物件(東京都千代田区〇〇番地土地・家屋)は長男Aが取得する。Aは代償金として金3,000万円を2024年12月31日までに次男Bの指定口座へ振込送金により支払う。支払遅延が生じた場合、Aは年利1%の遅延損害金を付加して支払うものとする。」といった条項が典型例です。利息設定をゼロにすると税務上の低額譲受認定リスクがあるため、実務では市中金利を参考に1〜3%程度を記載することがあります。

換価分割では、代表相続人名義への便宜登記の後に売却し、売却代金を速やかに各相続人へ分配する旨を明記することが最大のポイントです。具体的には「第4条 本物件は代表相続人Aが取得登記を行うが、これは換価処分を前提としたものであり、Aは売却完了後10営業日以内に売却代金を法定相続分に従い各相続人へ振り込む」と書き込みます。東京高裁平成29年判決では、同様の条項があったことでAからBへの代金送金が“贈与”ではなく“換価分割に伴う分配”と認定され、贈与税課税が回避できた事例があります。この判例を踏まえ、資金フローの明文化と通帳コピーの保存をセットで行うと安心です。
 

■代償金の支払い方法と資金調達の準備

代償金を用意する方法としては、現金一括、分割払い、金融機関ローン、生命保険金充当の4パターンが代表的です。現金一括は利息コストゼロで手続きが最もシンプルですが、手元流動性を一気に失う点がネックになります。分割払いはキャッシュフローを平準化でき、支払い能力に合わせて期間設定も柔軟に調整できますが、相続人間で利息や担保をどう取り決めるかという交渉コストが生じます。金融機関ローンは長期間にわたる資金確保ができ、金額も大きく取りやすい一方、審査に通らない可能性と利息負担がデメリットです。生命保険金充当は被相続人の死亡直後にまとまった金額が受取人に入るためタイムラグが小さく、税務上も非課税枠(500万円×法定相続人)が使えるメリットがありますが、契約者と受取人の設定を誤ると贈与税や所得税がかかるリスクがあります。

金融機関ローンを使う場合、審査では返済比率と担保評価が特に重視されます。一般的な目安として、年間返済額が年収の35%を超えると審査通過は難しくなり、事業用不動産を担保に入れる場合は評価額の70%程度が上限融資額とされるケースが多いです。たとえば年収800万円の相続人が5,000万円を20年返済・金利1.5%で借りると、年間返済額は約291万円(比率36.4%)となり、返済比率の基準をわずかに超えるため減額や連帯保証人を求められる可能性があります。こうしたシミュレーションを事前に行い、いくらまで借りられるか、返済が家計を圧迫しないかを可視化しておくことが重要です。

最終的な資金調達計画を立てる際は、税務リスクとキャッシュフローの両面チェックが欠かせません。贈与税認定を避けるには、代償金が相続開始時の評価額に基づき計算されていることを協議書に明示し、支払い実績を銀行振込で記録に残すことがポイントです。キャッシュフローについては、相続税納付・譲渡所得税・住民税など将来発生する税金を含めて5年分程度の資金繰り表を作り、最悪シナリオ(売却価格下振れ、金利上昇)でも資金ショートしないかストレステストを行います。
 

■相続人全員の合意を得るためのポイント

利害が複雑に入り組む遺産分割では、まず相続人全員で情報を『見える化』することが出発点になります。具体的には、相続財産の内訳を縦軸に、相続人を横軸に配置した「共有シート」をクラウドで作成し、希望取得額・優先順位・感情的こだわりを色分けで記入します。併せて、各人がどこまで譲歩できるかを数値化した「譲歩可能ライン表」を用意すると、交渉余地が一目でわかり、早期に落としどころを発見しやすくなります。たとえば自宅不動産は評価額5,000万円までは取得希望、現金は1,000万円以上あれば譲歩可――といった具体的ラインをあらかじめ記載しておくと、協議は驚くほどスムーズに進みます。

次に重視したいのが、ファシリテーター役の専門家(弁護士や司法書士)を交えることです。弁護士や司法書士は法的助言だけでなく、発言時間の配分や論点整理を行い、感情論に流れそうな場面をすばやく軌道修正してくれます。「長男は自宅を担保にローンを組む意向がある」「次女は現金を早期に必要としている」といった情報を整理し、全員が納得しやすい案をリアルタイムで提示できる点が大きな強みです。

合意に至った内容は、必ず書面化し、公正証書として残すことがトラブル防止の決め手になります。実際に、公正証書化したことで、後年に不動産価格が急騰した際も「協議時の評価額と分配率で確定済み」という理由で紛争を防げるでしょう。公証人のチェックを経ることで記載漏れや曖昧な表現が排除され、契約書としての強制執行力も付与されるため、履行が遅れた場合でも法的手段を取りやすい安心感があります。

最後に、相続人の感情面のケアが非常に重要です。家族会議の前に個別ヒアリングを実施し、「なぜその財産が欲しいのか」を傾聴するだけで、相手への理解度が高まり対立が和らぐと心理学では説明されています。さらに、カウンセラーを同席させることで、怒りや悲しみといった一次感情を適切に表出させ、理性的な話し合いへ導く効果が期待できます。感情が整理されると自己主張が穏やかになり、結果として合意書への署名率が高まる――このメカニズムこそが、円満相続を実現する最大のカギです。
 

代償分割における税金の種類と対策

■相続税と贈与税の関係性

相続税法には「相続人が被相続人から相続開始前7年以内に受けた贈与は、贈与時の価額で相続税の課税対象に加算する」と規定されています。これを“持戻し”と呼びます。たとえば父が死亡する5年前に長女へ現金500万円を贈与していた場合、長女が相続で取得する財産にその500万円が上乗せされ、基礎控除や税率判定も含めて再計算されます。生前贈与を利用して相続財産を圧縮したつもりでも、7年以内だと実質的に相続税の対象に戻されるため注意が必要です。ただし、教育資金一括贈与の非課税措置など特定の非課税制度を使った贈与は持戻しの対象外になるケースもあり、制度ごとの適用要件を確認することが欠かせません。

代償分割で支払う代償金が「新たな贈与」と誤認されると贈与税の課税リスクが生じます。その回避策として、遺産分割協議書には必ず「長男Aは本件土地を相続取得し、その代償金1,200万円を相続分に応じて他の相続人に振込送金で支払う。代償金は決済日から30日以内に実行する」など、①誰が②いくらを③どの期限で④どの方法で支払うかを明確に記載します。さらに、実際の振込は被相続人名義の口座からではなく長男A個人の口座から直接行い、通帳のコピーやネットバンキングの取引明細を保存しておくと、資金の流れがはっきりし課税当局に対する説明力が高まります。

相続時精算課税制度を選択すると、60歳以上の親から18歳以上の子への贈与について累計2,500万円まで贈与税が非課税となり、その超過分には一律20%の税率が適用されます。たとえば父が2024年に子へ3,000万円の土地を贈与した場合、2,500万円は特別控除、残り500万円に対して100万円(500万円×20%)の贈与税を支払い、その土地は相続発生時に評価額を問わず相続財産に加算されます。大きなメリットは「いま使いたい資産を早期に移転できる」点ですが、デメリットとして贈与時より土地価格が上昇すると評価益相当も相続税の対象になるため、値上がりが予想される資産だと税負担が増えるおそれがあります。また、この制度を選択すると同一の親子間では暦年贈与の110万円非課税枠が使えなくなる点も押さえておきましょう。

贈与税と相続税をトータルで抑えるには、長期的な“資産移転シナリオ”を描くことが大切です。具体的には、①毎年110万円以下の暦年贈与をコツコツ続ける、②教育資金・結婚子育て資金の一括贈与非課税制度を併用する、③死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人)を活用する、――といった方法を組み合わせます。家族構成や将来のライフイベントによって最適解は異なるため、5年・10年単位のキャッシュフロー表を作成し、税理士やファイナンシャルプランナーとシミュレーションを重ねることで、相続開始時点の課税額と生前の資金需要をバランスさせた最小課税ルートを設計できます。
 

■代償金の支払いに伴う所得税の注意点

代償金を5年間の分割払いとし、元金1,000万円・年利3%を設定した場合、相続財産を取得した相続人Aは毎年利息30万円(1,000万円×3%)をB・Cら他の相続人に支払うことになります。この30万円は貸付金利息とみなされ、B・Cの雑所得として所得税・住民税が課税されます。例えば各人15万円ずつ受け取ると、基礎控除後の課税所得が15万円となり、所得税5%・住民税5%を適用すると合計税額は1万5,000円です。利息収入は確定申告が必要で、源泉徴収されていない場合は翌年3月15日までに申告・納付しなければなりません。

一方、分割払いでも利息を「0%」とする契約を結ぶと、税務上は時価より低い利率で金銭を譲渡したと解釈され、『低額譲受による贈与』(相続税法7条・所得税法36条等)に該当するおそれがあります。国税庁通達では、民間金融機関の平均貸出金利との差額相当分が贈与とみなされ、年間110万円の基礎控除を超える部分に贈与税が課税されるリスクがあると明示されています。したがって「無利息にしてトラブルを避けよう」と安易に判断すると、想定外の贈与税負担が発生する可能性があります。

利息を設定した場合は、受取人側が雑所得として確定申告を行い、支払者側には源泉徴収義務がありません(租税特別措置法41条の17非該当)。これに対し無利息契約を採用すると、贈与税の対象かどうかを都度判定し、相続人全員の申告区分が複雑化します。さらに税務調査で否認された場合、延滞税や加算税が課されるリスクも踏まえると、実務上は「適正利率を設定し、雑所得課税で処理する」方が手続きがシンプルで総コストも抑えやすいという結論に至るケースが多いようです。
 

■税金負担を軽減するための専門家の活用

税理士が最初に行うのは、相続税(死亡に伴い遺産に課税される税金)、譲渡所得税(財産を売却して利益が出たときにかかる税金)、贈与税(生前に財産をもらったときにかかる税金)を同一テーブルで比較する“節税シミュレーション”です。具体的には、①財産ごとに評価額を入力し、②分割方法のパターンを数十通り組み合わせ、③各パターンで発生する三つの税額をソフトウェアで瞬時に計算、④最も手取りが大きくなるシナリオを可視化する、という流れになります。たとえば2億円の不動産を換価分割するケースと代償分割するケースを同時に試算し、節税額の差を家族会議で共有すると、感覚論ではなく数字で意思決定できるため納得感が生まれやすいのが特徴です。

弁護士が関与すると、節税アイデアが絵に描いた餅にならないよう法的裏付けが強化されます。実務で頻出するのが、生前贈与契約書や代償分割契約書の文言ミスが“贈与税の追加課税”を招くリスクです。法律の観点からリスクを先に潰しておくことで、後日の税務調査でも安心して説明できる体制が整います。

不動産鑑定士は、税務署に対する“評価の説得力”を高める専門家です。たとえば路線価評価で1億円とされた商業地を、収益還元法による鑑定評価書で7,800万円と証明できれば、相続税だけでなく譲渡所得税の課税ベースも引き下げられます。鑑定士が現地調査・市場分析・収益計算を経て発行する正式な評価書は、税務調査で提示すると職権評価を覆す強力な根拠となり、追徴課税リスクを大幅に減らせます。特に不整形地や市街化調整区域のように画一的評価が難しい物件では、鑑定書の有無が納税額を大きく左右することもあります。

こうした専門家報酬は“単なるコスト”ではなく“リスクヘッジ投資”と捉える発想が重要です。例えば税理士報酬80万円+弁護士報酬50万円+鑑定士報酬40万円=計170万円を支払っても、相続税と譲渡所得税を合わせて500万円圧縮できればリターン率は約3倍です。さらに、将来の追徴課税や家族間トラブルに備える保険料的な意味合いもあるため、見かけの出費だけで判断すると機会損失が発生します。見積もりを比較しつつ費用対効果を数値化し、「払うべきところに払うことで全体最適を得る」という視点で専門家を活用することが、結果的に手取り最大化と家族の安心感につながります。ポラスでは相続に強い税理士をご紹介することが可能です

専門家に相談する際のポイント

相続に関する専門家の種類と役割

■税理士の役割:税金対策と申告支援

税理士がサポートに入ると、相続発生から申告までの道のりが“見える化”されます。たとえば「死亡日」を起点に、1か月以内に資産目録と債務一覧を作成、3か月以内に相続放棄期限を確認、6か月以内に遺産分割協議の大枠を固め、10か月目の申告期限に合わせて申告書を完成――というタイムラインが示されます。相続税は申告と同時に納税も行う“期限一体型”の税金ですので、税理士はバックキャスティング方式で作業日程を組み、書類収集や評価作業が遅延しないようリマインドを発信します。これにより、締切ギリギリで慌てて金融機関を回るといったトラブルを未然に防げます。

換価分割と代償分割では、税務リスクがまったく異なる点も税理士が整理してくれます。換価分割では不動産売却益に対して譲渡所得税が課税される可能性があり、取得費や特例適用の可否を早めに精査する必要があります。一方、代償分割は贈与と誤認される危険があり、協議書の文言や資金の流れを適切に設計しなければなりません。ポラスでは相続に強い税理士をご紹介することが可能です
 

 

■弁護士の役割:遺産分割協議の法的サポート

遺産分割協議がまとまらない場合、最終的な解決の場は家庭裁判所になります。弁護士は民事訴訟法や家事事件手続法に基づき、代理人として調停や審判、さらには訴訟まで一貫して対応できる唯一の専門家です。調停手続では当事者本人の出席も認められていますが、膨大な戸籍謄本の収集や評価資料の提出、調停委員との専門的なやり取りをすべて自力でこなすのは現実的ではありません。特に遺産に非上場株式や借地権が含まれるケースでは、評価方法や課税関係が複雑で、法的主張を誤ると莫大な税負担を招く恐れがあります。弁護士が代理人として入ることで、法的議論の筋道が整理され、調停委員に対して説得力の高い資料を提出できるため、依頼者が心理的に追い込まれる場面も大幅に減少します。
 

■不動産鑑定士の役割:相続不動産の評価

不動産鑑定士が作成する鑑定評価書は、単に税務申告で使う路線価評価よりも高い証明力を持つ場面が少なくありません。たとえば共有物分割訴訟では、裁判所が「どの評価方法がより客観的か」を重視するため、相続人の一方が鑑定評価書を提出すると判決結果に大きく影響します。また税務調査の際、路線価評価しか根拠がない場合は調査官が独自に評価をやり直すことがありますが、鑑定士の署名入り評価書があれば評価額の合理性が担保されやすく、追徴課税リスクを抑えられるメリットがあります

 

まとめ:あなたに最適な相続方法を選ぶために

換価分割と代償分割のポイントを再確認

公平性・資金調達・税負担・現物維持という4つの評価軸で換価分割と代償分割をスコアリングすると、次のようなイメージになります。
公平性:換価分割は売却価格をそのまま按分できるため◎、代償分割は取得者と非取得者で評価差が生じやすく○。
資金調達:換価分割は売却代金がそのままキャッシュになるため◎、代償分割は代償金の調達が課題になり△。
税負担:譲渡所得税が発生する換価分割は△、代償分割は譲渡が生じないため◎。
現物維持:不動産や株式を残せる代償分割が◎、売却前提の換価分割は△。
このマトリクスを眺めると、何を最優先するかで選択肢が一気に絞り込めることが分かります。

実務では①財産評価(不動産鑑定や路線価評価を完了)→②相続人ヒアリング(現金需要や現物保有意向を把握)→③上述マトリクスに当てはめ比較→④家族会議で最終決定、という4ステップで進むとスムーズです。評価とヒアリングを同時並行で行えば、最短2〜3週間で概略方針を固められます。その後、専門家がシミュレーションした税負担や手取り額を提示すると、感情論ではなく数字ベースで議論できるので合意形成が加速します。

判断軸が明確になるとケース別の解が浮かび上がります。例えば「相続財産の8割が売却しづらい地方土地」という家庭なら、現金化による公平性と納税資金確保が不可欠なので換価分割が有力です。一方で「オーナー企業株式を維持しつつ株主総会の議決権を集中させたい」場合は、株式を長男が取得し代償金を兄弟へ支払う代償分割が最適です。さらに、自宅を守りたい高齢の配偶者がいるケースでは、自宅を配偶者が取得し相続税額軽減を受け、代償金は生命保険金で賄うハイブリッド型も現実的な選択肢になります。

どちらの方法を選んでも、最終決定後は①遺産分割協議書の作成・署名押印、②相続登記または代表相続人への便宜的登記、③税務申告(相続税は10か月以内、譲渡所得がある場合は翌年3月15日まで)、④売却または代償金支払いの実行という手続きが待っています。協議書は贈与税否認を防ぐ文言を入れる、登記は義務化に伴う過料リスクを避けるなど、手続き面でのミスはコスト増大に直結しますので、専門家チェックを受けつつタイムラインを逆算して動くことが成功の鍵になります。

監修者

コラム監修者 岩本大介
岩本 大介(いわもと だいすけ)

相続診断士(一般社団法人 相続診断協会)
不動産終活士・不動産終活アドバイザー(一般社団法人 不動産終活支援機構)
終活セミナー講師認定資格(一般社団法人終活協議会)
福祉住環境コーディネーター2級
不動産営業及びマーケターとして20年以上従事。
シニアやその子世代に寄り添い、
不動産のエキスパートとして
不動産の相続・空き家問題に取り組む。

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