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【事例付き】相続税の計算方法を徹底解説!専門家が教える5つのポイント

「相続税は富裕層だけの問題」というイメージはすでに過去のものになりつつあります。国税庁の統計(令和4年度)によれば、相続税が課される割合は全国平均で9.6%──約10人に1人が対象になっています。「普通の家庭なのに、いざ相続となったら数百万円単位の税金」という現実は、多くのご家族にとって切実な問題です。

こんな人におススメ

  • 相続税について知りたい
  • 相続税の節税対策について知りたい
  • 相続税がいくらになるのか知りたい

相続税の課税割合と現状:10人に1人が対象

国税庁が公表した最新の相続税申告実績(令和4年分)によると、死亡者数約144万人のうち課税対象となったのは13万8,000人余りで、課税割合は9.6%でした。つまり全国平均でおおむね「10人に1人」が相続税の申告をしている計算になり、もはや限られた富裕層だけの税金ではありません。

課税割合は地域によって大きく異なります。例えば2022年の都道府県別データを整理すると次のような傾向が読み取れます。東京都16.4%、神奈川県12.8%、愛知県11.5%、大阪府11.1%と、都市部ほど高水準です。一方で、秋田県や鳥取県は4〜5%台にとどまり、二極化が鮮明になっています。相続税は全国一律の制度ですが、地価と金融資産の集中度が都市圏で高いほど課税対象者が増える仕組みです。

遺産規模別に見ると、遺産総額5,000万円未満では課税割合2%前後なのに対し、5,000万円超1億円以下で15%前後、1億円超3億円以下で50%近くに跳ね上がります。基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人」のハードルを超えた瞬間に、累進税率が待っている構造が数字の上からも見えてきます。

自分が課税対象になり得るかを簡易チェックしてみましょう。以下のいずれかに該当すれば“要注意ゾーン”です。
・都市部に固定資産税評価額5,000万円超の自宅を所有している
・上場株式や投資信託の評価額が1,000万円を超える
・預貯金と生命保険金の合計が1,500万円を超える
・収益不動産や別荘を持っている。
複数該当する場合、相続税対策を先送りすると課税リスクが一気に高まります。

相続税の発生タイミングと申告期限

相続開始の定義とその後の流れ

民法882条は「相続は被相続人の死亡によって開始する」と明言しており、この瞬間を境に遺産の所有権が遺族へ移行するスタートラインが引かれます。法律上のカウントダウンはここから始まり、申告期限や各種手続きの締め切りもこの日を基準に設定されます。そのため「亡くなった日」を正確に記録し、戸籍や医師作成の死亡診断書など根拠資料を早期にそろえることが最初の動きとなります。

実務上の流れはおおむね
①死亡届の提出(7日以内)
②遺言書の有無・内容確認
③法定相続人の確定
④遺産調査・財産目録作成
という順序で進みます。死亡届は役所へ提出しないと火葬許可証が発行されず葬儀日程にも影響しますし、遺言書が発見されれば家庭裁判所の検認や公証役場での開封が必要です。相続人確定では被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式を収集しますが、改製原戸籍や除籍謄本が遠隔地に散在しているケースも多く、郵送請求だけで数週間かかることも珍しくありません。

遅延が起こりやすいのは戸籍収集と財産目録作成です。戸籍は“取り寄せたと思ったら改製前のものが足りない”“養子縁組が抜けていた”などのミスで再請求となりがちです。財産目録では名義預金やネット証券、暗号資産といった“見えない資産”が漏れやすく、後日発覚すると申告漏れ扱いで加算税が発生するリスクがあります。早めに銀行残高証明、固定資産評価証明、証券会社の年間取引報告書などを集め、Excelやクラウド管理ツールでリスト化しておくと抜け漏れ防止に役立ちます。
 

相続税申告の期限:10ヶ月以内に注意

相続税法第27条は、相続税の申告書を「相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に税務署へ提出しなければならないと明記しています。被相続人が亡くなった日そのものではなく、“死亡を知った日”を起算点にする点がポイントですが、実務ではほとんどのケースで死亡日と同一とみなされるため、実質的に10ヶ月しか猶予がありません。

10ヶ月が短いとされる理由は二つあります。第一に、相続税は原則“現金一括納付”であるため、相続人は申告書作成だけでなく納税資金を同時に用意しなければならず、預貯金が少ない場合は不動産売却や金融機関からの融資を検討する時間が必要です。第二に、税務署側も課税権を確実に行使する必要があるため、申告期限と同時に納付期限を設定し、資産の散逸や隠匿を防いでいます。

10ヶ月間にこなす主なタスクを時系列で並べると、
①死亡届提出・葬儀対応(0〜2週間)
②遺言書の有無確認・法定相続人確定(〜1ヶ月)
③財産目録作成と資産評価(1〜4ヶ月)
④遺産分割協議および書面化(4〜7ヶ月)
⑤申告書ドラフト・専門家レビュー(7〜9ヶ月)
⑥申告書提出・納税資金準備(10ヶ月目)
といった流れになります。特に③と④が遅れると雪崩式に後工程が圧迫されるため、スタートダッシュが不可欠です。

期限内に遺産分割がまとまらない場合は“未分割申告”と呼ばれる暫定申告が可能ですが、この方法には落とし穴があります。

例えば兄弟間で不動産の帰属を巡り協議が長期化し、未分割申告で一旦相続税を納付したA家では、1年後にやっと分割が決定。しかし配分が変わったことで配偶者控除や小規模宅地特例が適用できなくなり、追って修正申告をした結果、当初納税額より120万円の追加税額と延滞税を負担する羽目になりました。

未分割申告は時間稼ぎに過ぎず、特例が使えなくなるリスクがある点を覚えておきましょう。

相続税の支払いに遅延した場合のペナルティと対策

申告期限を過ぎてしまうと、相続税そのものに加えて各種ペナルティが課され、最終的な支払額が想像以上に膨らむ危険があります。
代表的なペナルティは
①無申告加算税
②延滞税
③重加算税
の3つです。家計に直撃する追加コストを把握することで、期限を守る重要性が実感できます。

まず無申告加算税ですが、税務署からの指摘前に自主的に申告した場合は5%、指摘後に申告した場合は原則15%、さらに50万円を超える部分については20%が課されます。延滞税は納付期限の翌日から2ヶ月までは年7.3%、2ヶ月経過後は年14.6%(2023年度基準)と、クレジットカードのリボ払い並みの高利率です。重加算税は故意の隠蔽や仮装があったと認定されると本税の最大40%に達し、悪質と判断されれば刑事告発の可能性もゼロではありません。

具体例でインパクトを確認してみましょう。課税額500万円で期限内に納税した場合は500万円のみですが、指摘後に無申告加算税15%と延滞税7.3%(6ヶ月分)を合わせると、500万円+75万円+約18万円=約593万円まで膨らみます。わずか半年の遅延で約93万円の余計な支出となり、教育費や老後資金に充てられるはずのキャッシュが失われる計算です。

ただし、期限を過ぎてもペナルティが軽減されるケースがあります。たとえば自主的に修正申告した場合は無申告加算税が5%に軽減されますし、地震や水害など災害による遅延は「災害減免法」に基づき加算税・延滞税が免除または猶予されることがあります。

リスクを抑えるための実務的な対策としては、①延納(最長5年・年利約0.9%)や物納(不動産や株式で納付)の利用条件を事前に確認しておく、②金融機関の「相続税納税ローン」を活用して資金を確保し、申告だけは期限内に済ませる、③遺産分割協議がまとまらない場合は未分割のまま暫定申告を提出し、後日更正で調整する、などが挙げられます。どの方法も「まず申告期限を死守する」ことが前提になる点は共通です。

ペナルティは「知らなかった」「忙しかった」という理由では一切軽減されません。逆に、期限前の段階で税理士に相談し、延納・物納・融資を含む資金計画を立てておけば、家計へのダメージを最小限に抑えられます。専門家に依頼する費用は十数万円〜数十万円かかりますが、加算税や延滞税を防げる金額と比べれば十分に投資価値があるといえるでしょう。

ポラスでは信頼できる税理士をご紹介できます。お気軽にお声掛けください。

相続税の計算に必要な基本用語

基礎控除額の計算式:「3,000万円 + 600万円×法定相続人の数」

基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」というシンプルな計算式で決まります。例えば法定相続人が3人なら、3,000万円+600万円×3=4,800万円が非課税ラインです。この金額を超えた部分だけが課税遺産総額に加算されるため、まずは自分の家族構成に当てはめて基礎控除額を把握することが相続税対策の第一歩になります。

ここで言う「法定相続人」は、①必ず入る配偶者、②被相続人の子、③子が先に亡くなっている場合は孫が入る代襲相続、④直系尊属や兄弟姉妹など民法で定められた順位に従う人たちを指します。

家族構成別に基礎控除額を一覧で並べると次のとおりです。
・配偶者のみ(法定相続人1人)…3,600万円
・配偶者+子1人(2人)…4,200万円
・配偶者+子2人(3人)…4,800万円
・配偶者+子3人(4人)…5,400万円
・子2人のみ(2人)…4,200万円
このように法定相続人が1人増えるごとに控除額が600万円増える点に注目してください。数字を一覧で確認すると、自分のケースでどこまで非課税枠が広がるか直感的に理解できます。

課税遺産総額

課税遺産総額は「実際に相続税の計算に使うベース金額」で、式にすると『遺産総額 −(債務+葬儀費用) − 基礎控除』となります。遺産総額には現金・預貯金・不動産・株式などすべてのプラス財産の相続税評価額が含まれます。一方、マイナス財産としてカウントできるのは被相続人が死亡日時点で負っていた借入金や未納の公共料金などで、これを差し引いた後に基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引いたものが課税遺産総額です。

課税遺産総額を自分で試算するフォーマット例を示します。
①プラス財産合計:例 9,200万円
②債務合計:例 1,000万円(住宅ローン700万円+未払い医療費300万円)
③葬儀費用:例 200万円
④基礎控除:法定相続人3人の場合 4,800万円
計算式 9,200万円 −(1,000万円+200万円) − 4,800万円 = 3,200万円
この3,200万円が課税遺産総額となり、以後の税率表や控除適用計算はすべてこの金額を起点に進めます。

課税遺産総額は「相続税額を決める土台」です。ここで過大に出れば税額が膨らみ、過小ならペナルティのリスクが高まります。資産・債務・控除の三つの引き算を正確に行うことが、納税負担を適正化する第一歩だと覚えておいてください。

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評価額の算出方法と注意点

不動産の相続税評価額

不動産の相続税評価額の算出は、土地と建物に分けて計算します。土地に関しては、国税庁が毎年発表する「路線価」を用いる路線価方式が基本です。市街地の宅地であれば道路ごとに1㎡あたりの価格が定められているため、土地面積を掛け合わせるだけでおおまかな評価額が得られます。郊外など路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額に一定倍率を掛ける倍率方式を採用するのが一般的です。不動産の形状が不整形だったり、崖地を含む場合は補正率を掛けて減額できる可能性があります。一方建物に関しては固定資産税評価額が基準となります。賃貸アパートなどの借家の場合は別途別の計算式で算出することになります。
 

株式の相続税評価額

上場株式は、被相続人が亡くなった日の終値とその前後2ヵ月を含む計4ヵ月の終値平均のうち最も低い価格を使います。たとえば相場が下落基調であれば、平均値が自然と低くなるため節税効果が期待できます。評価日に大幅な急落があった場合でも、平均値を採用すれば適正かつ低めの評価に落ち着くケースが多いです。一方で未上場株式や貸付金などの特殊資産は、評価方法の選択だけで税額が大きく変動します。中小企業の株式なら、会社の純資産を基準にする純資産価額法と、将来キャッシュフローを割り引くDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法が代表的です。

相続税率の仕組み:累進課税の詳細

相続税は課税遺産総額の大きさに応じて10%から55%まで7段階で税率が上がる累進課税制度になっています。1,000万円以下は10%、1,000万円超〜3,000万円以下は15%、3,000万円超〜5,000万円以下は20%、5,000万円超〜1億円以下は30%、1億円超〜2億円以下は40%、2億円超〜3億円以下は45%、3億円超は55%という階段状の構造です。金額が一段上がるたびに一気に税率が跳ね上がるため、境界線付近の家庭ほど対策の効果が大きくなります。
 

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10% -
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

累進課税では「超過分だけ」に高い税率がかかるイメージを持ちやすいですが、相続税の場合は簡便化のため控除方式が採用されています。具体的には「税額 = 課税取得金額 × 税率 − 控除額」という数式で計算し、税率と控除額は先ほどの区分にあわせて定められています。例えば課税取得金額が4,000万円なら税率20%、控除額200万円が該当し、4,000万円 × 0.20 − 200万円 = 600万円が一次税額になる仕組みです。

この控除方式を正しく理解しないと計算ミスが起こりやすくなります。早見表で税率だけを見て掛け算し、控除額を差し引くのを忘れるケースが典型例です。税務署への提出後に更正された場合、追徴税額に加えて無申告加算税が加わることもあるため、数字の取り扱いは慎重さが求められます。

相続税の節税対策①:配偶者控除の特例とその適用条件

配偶者控除(正式名称は「配偶者の税額軽減」)は、相続税法第19条の2で定められた特例で、配偶者が受け取る遺産について①1億6,000万円まで、または②法定相続分までのいずれか大きい金額まで相続税がかからない仕組みです。極端に言えば、配偶者が1億5,000万円の遺産を取得しても税額は0円になるケースが多く、一次相続(最初に亡くなった方の相続)では“税金ゼロ”を実現しやすい強力なルールといえます。

ただし、この特例を利用するにはいくつかの要件があります。主な要件は次のとおりです。1) 配偶者であること(内縁関係や離婚届提出予定者は対象外) 2) 実際に相続または遺贈で財産を取得すること 3) 相続税申告書を期限内(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)に提出すること―の三点です。

メリットが大きい一方、注意しなくてはならないこともあります。デメリットとしては二次相続の税負担増加が挙げられます。
例えば【ケースA】配偶者が遺産2億円をほぼ全取得→一次相続の税額は0円。しかし10年後に配偶者が亡くなり、子どもが相続する際には配偶者控除が使えず、基礎控除も「3,000万円+600万円×子の数」だけになります。その結果、課税遺産総額が1億6,000万円を大幅に超え、高税率帯(40%・45%)が適用されることもあります。【ケースB】一次相続時に子へ5,000万円を先渡しし、配偶者は1億5,000万円に抑えた場合、一次の税額はゼロのままでも二次相続の課税ベースが圧縮され、総合的な税負担が数百万円単位で下がるケースがあります。

控除を最大限活用しつつ将来の税金も抑えるには、遺産の内訳に着目した分割がキーになります。たとえば「自宅(土地建物評価1億円)+預貯金5,000万円」という家計なら、自宅を配偶者、預貯金は子へ均等配分といった組み合わせが有効です。配偶者は住まいを確保しつつ1億6,000万円の枠内に収まり、子は現金を受け取ることで納税資金を自前で用意できるメリットがあります。逆にすべてを配偶者が取得すると、二次相続時に自宅評価額がそのまま課税対象になり、納税原資の確保が難しくなる恐れがあります。

配偶者控除は「一次相続で税金ゼロ」を実現できる一方、二次相続を無視すると負担が膨らむリスクをはらんでいます。自宅・現金・株式など資産の種類と家族構成を分析し、配偶者の生活保障と全体最適のバランスを取る設計が不可欠です。遺産の分け方によって、負担金額が大きくなりがちな相続税なので、税理士とチェックすることを強くおすすめします。

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相続税の節税対策②:小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、自宅や事業用など被相続人が生活・経営の拠点として使っていた土地について相続税評価額を大幅に圧縮できる強力な制度です。たとえば特定居住用宅地等であれば最大330㎡まで評価額を80%減額できるため、路線価評価額が6,000万円の宅地でも課税価格は1,200万円へと一気に縮小します。都心部で地価が高い家庭ほどインパクトが大きく、相続税率30%のゾーンでは減額前後で税負担が1,440万円→240万円と1,200万円も差が生まれる計算です。

適用要件の要となるのは「被相続人が死亡時点で居住していたこと」「相続人が取得後も居住を継続すること」「330㎡以内であること」の3点です。居住継続は原則3年超が目安とされ、途中で賃貸や売却に転用すると特例が取り消されるリスクがあります。

ちなみに、控除同士の優先順位を整理すると、①小規模宅地等の特例→②基礎控除→③障害者控除などの人的控除→④配偶者控除の順に適用するのが原則です。配偶者控除は最終段階で「1億6,000万円または法定相続分」のいずれか低い額まで税額をゼロにできるため、小規模宅地等の特例で土地評価を圧縮しておくほど配偶者控除でカバーすべき課税価格はさらに減ります。結果として二次相続で控除枠が不足するリスクも低減でき、長期的には家族全体の税負担を最小化できる可能性が高まります。

なお、小規模宅地等の特例は誤適用による否認事例はよくあるようです。たとえば相続発生後に相続人が賃貸へ転居してしまい「居住継続要件」を満たさなくなったケースでは、80%評価減が取り消され、加算税と延滞税あわせて多額の相続税を追徴された事例があります。こうした落とし穴は申告時点でのチェックだけでは防ぎきれないため、税理士など専門家によるレビューは欠かせません。

相続税の節税対策③:暦年贈与の非課税枠

暦年贈与とは、毎年1月1日から12月31日までの間に行った贈与額を合計し、そのうち110万円までは贈与税がかからない制度です。例えば父親が子どもに100万円の現金を手渡した場合、贈与税はゼロ円で済みます。ただし子ども名義の口座に父親が入金し続け、通帳や印鑑を父親が管理していると「名義預金」と見なされる可能性があります。税務署に否認されると、本来非課税となるはずだった110万円も相続財産に加算され、追加で相続税や過少申告加算税が課される恐れがあるため要注意です。

毎年110万円を確実に非課税にするためには、①贈与契約書をその都度作成し、贈与者(贈与を行う人)と受贈者(贈与を受ける人)が日付入りで署名・押印する、②110万円以下でも贈与税の申告書を提出しておく、という2つのポイントが効果的です。贈与税申告は不要とされていますが、申告書を税務署に届けることで“贈与の事実”が公式に記録され、連年贈与(れんねんぞうよ)と疑われにくくなります。また受贈者自身が通帳と印鑑を管理し、ATMで入金履歴を残すことも実務上の信頼度を高めます。

仮に毎年110万円の暦年贈与を20年間継続すると、トータルで2,200万円を相続財産から先に切り離すことができます。相続税率が仮に15%層に該当する家庭なら、相続税だけで約330万円(2,200万円 × 15%)の軽減効果が期待できます。実際の効果は課税財産総額や税率区分により上下しますが、給与のように毎年コツコツと非課税枠を使うことで「将来の税負担を平準化できる」というメリットは共通です。

但し、注意しなくてはならない点もあります。それは、相続開始7年以内の暦年贈与は、遺産に戻すというルールがあります。よって、亡くなる5年前から暦年贈与で110万円ずつ渡していっても、相続時に遺産として換算されます。2024年(令和6年)の法改正によって、3年以内⇒7年以内となりましたので特に注意が必要です。

相続税の節税対策④:教育資金贈与や結婚・子育て資金贈与の特例

教育資金贈与の特例は、30歳未満の子や孫に対し、最大1,500万円までを一括で贈与しても贈与税がかからない制度です。ここでいう教育資金とは、入園料・授業料・塾や習い事の月謝・留学費用・通学定期券代など、学校や教育に直接要する支出を幅広く指します。ただしパソコン購入費や制服以外の衣服代などは対象外となるため、領収書の内容確認が欠かせません。税理士に相談すると安心です。

一方、結婚・子育て資金贈与の特例では、20歳以上50歳未満の子や孫に対して最大1,000万円(うち結婚関連費用は300万円まで)が非課税となります。結婚式場費用、披露宴会場費用、新生活に必要な住宅取得費用やベビー用品、さらには不妊治療費・出産費・保育料までカバーされるため、ライフイベントごとの大きな出費を一気に軽減できる点が魅力です。

もし資金を私的に流用した場合、その時点で用途外支出として贈与税が課税されるだけでなく、ペナルティとして延滞税や加算税が発生することがあります。特に金額が大きい場合は重加算税(最高40%)が適用されるリスクもあるため、使途管理と領収書保管は徹底する必要があります。

ただし両制度とも時限措置であり、現行法では2026年3月31日(令和8年3月末)贈与分までが対象期間とされています。今後の税制の動きにも注意していきましょう。

相続税の節税対策⑤:相続時精算課税制度

相続時精算課税制度(そうぞくじ せいさん かぜい せいど)は、60歳以上の父母・祖父母から20歳以上の子・孫へ財産を贈与する際に選択できる特例です。累計2,500万円までは贈与税が一切かからず、2,500万円を超えた部分については一律20%で課税されます。そして贈与者が亡くなった時点で、それまでの贈与総額を贈与時の価額で相続財産に加算し、相続税を再計算するしくみになっています。

イメージとしては「いったん簡易的に贈与を済ませ、最終的な精算は相続時に行う」です。たとえば株式を贈与した場合、贈与時点で評価額が2,500万円以内なら贈与税ゼロ。しかも相続発生時には贈与時点の株価で合算されるため、その後に株価が大幅に上昇しても追加の相続税は発生しません。値上がり資産を早めに移転したい家庭にとって強力な節税手段になり得ます。

一方、株価や不動産価格が下落するリスクがある場合や、2,500万円を大きく超える贈与を前提とする場合は注意が必要です。超過部分に20%の贈与税がかかったうえ、相続時にも再計算されるため二重負担感が生まれます。また値下がりすれば、贈与時価で相続財産に加算されるため結果的に税負担が割高になる可能性があります。価格変動が読みにくい資産や下落リスクが高い資産には向きません。

制度を利用するためには、贈与を行った年の翌年3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」と「贈与税の申告書」を税務署へ提出します。届出は一度選択すると撤回できない点が最大の特徴です。以後の贈与はすべて通常の暦年課税に戻れないため、長期的な贈与計画を立ててから届出を行うことが不可欠です。

税理士や専門家による相続税計算のサポート

上記の、相続税の節税①~⑤以外にも未成年者控除や障害者控除などの特例や、生命保険の非課税枠などの制度がありますので、ぜひ税金のプロ=税理士をご活用ください。依頼料を払ってでも相続税の支払いが安くなることはよくあることです。

相続税申告をプロに任せる場合、まず理解しておきたいのが「誰に、何をお願いできるか」という役割分担です。税理士は相続財産の評価と税額計算、税務署への申告書作成・提出までを一貫して担当します。司法書士は不動産の名義変更や遺産分割協議書の作成を担い、登記の専門家として機能します。弁護士は遺産分割協議そのものが紛糾したとき、法的交渉や調停・訴訟を代理する立場です。

専門家へ依頼した場合に受け取る成果物も、事前に把握しておくと安心です。税理士からは〈財産評価書〉(路線価や取引相場で評価した詳細内訳)、〈相続税申告書ドラフト〉(提出用と控え用の2部)、加えて〈節税提案書〉(小規模宅地特例や生前贈与活用プランを数値比較したもの)が提出されます。司法書士からは〈登記申請書類一式〉と〈権利証〉、弁護士からは〈和解案〉や〈調停調書案〉など、各自の専門領域に応じた書面が揃います。これらの書類が揃うことで、金融機関での名義変更や納税資金の確保がスムーズに進むメリットがあります。

専門家選びで失敗しないためのチェックリストも用意しておきましょう。1) 実績件数:直近3年間で20件以上の相続税申告経験があるか。2) 専門分野:不動産評価に強い、事業承継を多く扱うなど、自分の資産構成とマッチしているか。3) フィー報酬体系:成功報酬型か定額型か、追加料金の発生条件は明示されているか。4) コミュニケーション:メール返信の速度や説明のわかりやすさを面談で確認。5) セカンドオピニオン歓迎か:他の専門家にも資料共有を許可してくれるか。この5項目を面談時に質問すれば、相性と費用対効果を客観的に判断できます。

第三者を介入させたことで対立が解消した実例もあります。遺産総額1億2,000万円、相続人は兄と妹の2名というケースでは、兄が自宅不動産を希望し妹が預金の多くを求めたため協議が膠着していました。税理士が財産評価書を用いて「不動産評価5,800万円、小規模宅地特例適用後3,480万円、預金6,200万円」と客観データを提示し、さらに節税シミュレーションで兄妹それぞれの納税額を算出。結果として当初試算よりも合計税額が320万円減少し、兄妹間の合意形成までの期間も想定6ヶ月→2ヶ月に短縮されました。専門家が数値と手続きの両面で中立的に示すことで感情的対立が和らぎ、金銭的にも時間的にも大きなメリットを享受できた好例です。

相続税計算の具体例・シミュレーション

ケース:配偶者と子供2人の場合 遺産総額5,000万円の計算例

配偶者と子供2人のご家庭を想定し、遺産総額は5,000万円とします。被相続人が残した財産内訳は、自宅不動産2,800万円、預貯金1,500万円、上場株式700万円というイメージです。まずは基礎控除額を差し引き、課税対象になる金額を確定させます。

基礎控除の計算式は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。法定相続人は配偶者1名と子2名の合計3名なので、控除額は3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円となります。よって課税遺産総額は、5,000万円 − 4,800万円 = 200万円です。

次に、課税遺産総額200万円を法定相続分で按分し、「いったん」各相続人が負担する税額を計算します。法定相続分は配偶者1/2、子2人が各1/4ずつなので、按分結果は配偶者:100万円 長男:50万円 長女:50万円です。この按分額に対し、相続税率表の10%(控除額0円)が適用されるため、一次計算の税額は配偶者:10万円 長男:5万円 長女:5万円 合計:20万円となります。

ここから実際の取得割合で再按分しますが、今回は遺産を法定相続分どおりに分割する前提なので、金額は変わりません。ただし配偶者には配偶者控除(1億6,000万円または法定相続分まで)があるため、配偶者の税額10万円はそっくりそのままゼロにできます。最終的な納税額は長男:5万円長女:5万円合計:10万円となり、配偶者控除を使わなかった場合の20万円から半減した結果です。

配偶者控除がいかに強力かが分かりますが、「税額がゼロでも申告書は提出必須」「二次相続では控除が使えない」といった落とし穴も忘れがちです。一次相続で配偶者が多額の財産を受け取れば、次にその配偶者が亡くなった際の課税ベースが膨らみ、子供たちの負担が急増するケースが少なくありません。

もう一つ注意したいのが預金の名義問題です。被相続人名義の預金を生前に家族が自由に引き出していた場合、相続開始後に「名義預金」と指摘され、課税遺産総額が増えることがあります。また、自宅土地について小規模宅地等の特例を適用すれば最大80%評価減が狙えますが、今回のケースのように評価額2,800万円のまま計算すると、本来払わなくてよい税金まで負担してしまう可能性があります。

相続税に関するよくある質問

「相続税 計算 シュミレーション」はどこで利用できる?

インターネット上には相続税を概算できるシミュレーションツールが多数公開されており、代表的なものだけでも国税庁ホームページ、メガバンクや信託銀行の特設サイト、そして税理士事務所やファイナンシャルプランナー(FP)サイトが提供する無料フォームがあります。国税庁のツールは公式データベースに準拠しているため計算根拠が明確ですが、評価額や控除額を自分で入力する必要があり慣れていないと時間がかかります。金融機関のツールは画面が見やすく、家族構成を選ぶだけで結果が得られるものが多い一方、細かな特例を反映できない簡易型が中心です。税理士事務所のフォームは小規模宅地等の特例や配偶者控除まで考慮した精度が売りで、入力完了後に無料相談へ誘導されるケースが一般的です。
 

相続税の基礎控除はどのように計算する?

相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」というシンプルな式で算出できます。例えば配偶者と子ども2人なら法定相続人は3人なので、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が控除額になります。この金額までは課税されないため、まずは自宅の評価額や預貯金を合計した遺産総額が4,800万円を超えるかどうかを確認することが最初の関門です。
 

相続税率はどのように決まる?

相続税率は累進課税方式と呼ばれ、課税遺産総額が大きくなるほど税率が段階的に高くなる仕組みです。具体的には10%から始まり、最大55%まで7段階に区分されています。これにより、遺産規模が同じでも負債控除や贈与の有無によって適用される税率帯が変わり、最終的な税額が大きく動きます。

まとめ

相続は「タイムリミットがあるプロジェクト」です。資産が大きいほど、家族構成が複雑なほど準備期間が必要になります。「まだ先の話」と思った瞬間から時計は進み始めています。初回相談だけなら無料または数万円で済む事務所が多いので、気になる点があれば早めに扉を叩き、複数見積を比較しながら納得できる専門家を選定しましょう。

監修者

コラム監修者 岩本大介
岩本 大介(いわもと だいすけ)

相続診断士(一般社団法人 相続診断協会)
不動産終活士・不動産終活アドバイザー(一般社団法人 不動産終活支援機構)
終活セミナー講師認定資格(一般社団法人終活協議会)
福祉住環境コーディネーター2級
不動産営業及びマーケターとして20年以上従事。
シニアやその子世代に寄り添い、
不動産のエキスパートとして
不動産の相続・空き家問題に取り組む。

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