この記事では、抵当権について詳しく解説していきます。
また、抵当権が行使されるとどうなるのか、抵当権と不動産の取引、抵当権を抹消方法についても説明します。
目次
抵当権とは一体何?
抵当権とは、銀行や金融機関から住宅ローンを借り入れるときに、購入した不動産(土地や建物)に設定される権利のことです。
この権利をもつのは銀行や金融機関で、住宅ローンの返済がなかった場合、購入した不動産を担保にすることができます。
抵当権は登記簿の権利部の乙区欄に設定されます。また、対象となった不動産は「抵当物件」と呼ばれます。
抵当権と根抵当権の違いとは?
「抵当権」とは別に、「根抵当権」と呼ばれるものもあります。その違いはどこにあるのでしょうか。根抵当権は不動産の担保としての価値を計算し、「極度額」と呼ばれる貸し出せる上限額の範囲内で、何度でもお金の貸し借りができるもののことを言います。
抵当権との大きな違いは、
・根抵当権は多くの場合、企業が融資を受けたり、企業が所有する不動産に設定される
・根抵当権の借入額は、極度額内であれば何度でも借り入れできる
・根抵当権は、当事者の合意がないかぎり消滅しない
などです。
■関連リンク:
「根抵当権とは? 抵当権との違いも解説!」
抵当権が設定されるとどうなる?
抵当権が設定されると、どうなるのでしょうか。まず、抵当物件には住み続けることができるのでしょうか。
答えは「できます」。
債務者(お金を借り入れた人)は、担保となった物件を明け渡す必要はありません。
次に、ローンの支払いについてです。銀行や金融機関などの抵当権者は、「債務者の弁済を受ける権利」を持っています。そのため債務者は、これまでどおりローンを支払うことになります。
抵当権が設定されてもローンを支払い続けている限りは問題ありません。
抵当権のメリット・デメリットは?
抵当権を設定することで、メリット・デメリットの双方が存在します。お金を借りる債務者、お金を貸す金融機関、両方のメリット・デメリットをみていきましょう。
債務者 | 金融機関 | |
メリット | ・住宅ローンを利用できる ・金利を低く抑えられる ・ローンの上限額を引き上げられる |
・担保を確保して融資できる ・返済が滞っても住宅を売却して債務に充当できる |
デメリット | ・返済が滞ると所有権を失う可能性がある ・抵当権付きの不動産は売却しにくい ・抵当権設定・抹消に手間とコストがかかる |
・物件を競売にかけても全額返済が可能とは限らない ・抵当権の順位によっては弁済が十分に受けられない |
債務者・金融機関における抵当権のメリット・デメリットは上記の通りです。
住宅ローンを組む債務者にとって最も大きなメリットは、担保を提供することで住宅ローンを利用しやすくなり、上限額も無担保に比べて引き上げられることです。
また、金融機関にとっても有担保のほうが安心感があり、返済が滞った場合にも差押えや競売の権利を行使できるため、高額の融資もしやすくなります。
デメリットもありますが、抵当権を上手く使えば理想のマイホームを手に入れやすいでしょう。
抵当権を設定するタイミングはいつ? 手続きの流れは?
物件に抵当権を設定する場合、タイミングは主に次の2つに分かれます。
・住宅ローン契約を結んだとき
・住宅ローンの借り換えを行ったとき
どちらのパターンでも、契約時に抵当権が設定される点は同じです。
そして、抵当権設定から登記までの流れは次のようになります。
①金銭消費貸借契約締結
②抵当権設定(住宅ローン)契約を締結
③必要書類の準備
④債務者と金融機関による共同申請
⑤登記事項証明書の発行
⑥登記事項証明書を金融機関に送付
抵当権設定は、基本的にどの金融機関であっても上記の流れで進みます。
抵当権の設定に必要な書類
抵当権の設定に必要な書類は、次の3点です。・抵当権設定契約書
・不動産の権利証
・不動産所有者の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)
抵当権設定の際には、不動産所有者の実印も必要となるため忘れないようにしましょう。
抵当権行使とは?
債務者が住宅ローンを返済できない状態が続くと、抵当権が行使されます。
抵当権が行使された物件は裁判所から差し押さえられ、競売開始となります。
このとき、競売で落札されると優先的に住宅ローンへと充当されますが、それでもローンが残れば返済を続けなければなりません。
売却益のほうが住宅ローンの債務額より多ければ、残った分は債務者に返還されます。
抵当権を行使される前にできることはある?
金融機関に抵当権を行使される前に、債務者にできることは以下の通りです。・滞納分を一括で返済する
・毎月の返済額を減額してもらう
・金融機関の許可を得て任意売却やリースバックを利用する
住宅ローンは滞納してすぐに抵当権が行使されるわけではなく、6か月程度の猶予があります。
その間に滞納した金額を一括返済すれば、抵当権の行使を避けられます。
次に、住宅ローン返済の負担が大きい場合は、金融機関に相談して返済額を減らしてもらうのがよいでしょう。
例えば、事情を話して1年間だけ返済額を半額にしてもらえば、金融機関からも承諾を得やすいです。
最後に住宅ローンの返済を目的として、物件を売却するか、不動産会社のリースバックを利用する方法もあります。
新築物件なら資産価値が高いため、高く売却できる可能性が高いです。
また、不動産会社に物件を売却し、賃貸物件としてそのまま同じ住宅に住み続けるリースバックもよいでしょう。
ただし、任意売却もリースバックも金融機関からの許可が必要ですから、事情を説明してしっかりと話し合うことが重要です。
抵当権付きの物件でも売買できるのか?
抵当権付きの物件を売買することはできるのか、どんなリスクがあるのか一覧でみていきましょう。
抵当権付き物件を 「売る」 |
抵当権付き物件を 「買う」 |
|
リスク | ・債権者・連帯保証人の同意が得にくい ・売却によって最大10年間クレジットカードが作れなくなる ・住宅ローンが組めなくなる ・相場より6~7割ほど売却価格が下がる |
・住宅ローンの審査が通りにくい ・返済が滞っており、抵当権が行使されて競売にかけられる可能性がある |
抵当権付きの物件は相続可能?
住宅ローンの返済が残っている抵当権付き物件を相続できるかという問いへの答えは「できる」です。ただし住宅ローンの返済義務を一切負わずに、物件のみを相続することはできません。
抵当権付きの物件を相続するときには、必ず住宅ローンの返済義務も引き継ぐことになるため注意してください。
住宅ローンの返済義務を負いたくない場合は、相続そのものを放棄しなければなりません。相続そのものを放棄するということは、物件だけでなく、すべての遺産の相続を放棄することです。
なお、住宅ローンの返済が残っている抵当権付き物件を相続することになった場合には、被相続人(亡くなった方)が団体信用生命保険に加入していたかどうかを確認しましょう。
被相続人が団体信用生命保険に加入していた場合は、住宅ローンの残債は死亡時に完済されます。よって、相続の際に住宅ローンの返済義務を負う必要がなくなります。
抵当権は自動的に抹消される?
住宅ローンの返済が完了したら、抵当権の登記は自動的に抹消されるわけではありません。
抹消登記をしない限り、登記簿上はいつまでも抵当権付き物件として扱われます。
そのため、所有者が自ら抵当権を抹消しない限り、次の住宅ローンも組みにくくなり、売却価格も低くなる可能性があります。
面倒に感じても、金融機関から発行された「抵当権解除証書」や借入の完済を証明する書類も添えて、抵当権抹消登記を行うことが重要です。
抵当権を抹消する具体的な方法
抵当権を抹殺する方法の代表的なものは3つあります。1つ目は、売主に手持ち資金でローンを全額返済してもらい、抵当権抹消手続きをしてもらう方法です。この抵当権抹消手続きが完了してから、不動産を購入すると安心です。
2つ目は、同時抹消を行う方法です。場合によっては、売主にローンを全額返済する資金がないかもしれません。その場合は「同時抹消」を行います。同時抹消とは、以下の一連の手続きを同日に行うことです。
・買主が支払う代金をローンにあてて返済する
・その後、売主に抵当権抹消手続きを行ってもらう
・完了したら、売主から買主へ不動産の所有権移転登記を行う
この同時抹消を行うことで、買主のリスクを避けることが可能です。
3つ目の方法は、別の物件を担保にすることです。買主が支払う代金をローンにあててもなお、全額返済できない場合もあるでしょう。
・不足分を売主の手持ち資金から支払う
・ほかの物件に担保を設定する
などにより、金融機関の了解を得られることもあります。
抵当権を抹消しないリスク
抵当権を抹消できる状態でそのまま放置すると、さまざまなリスクが考えられます。・抵当権付き物件のままになり、不動産を担保にしたローンが組みにくくなる
・抵当権解除証書などを紛失し、再発行が必要になる
・必要書類が複雑化し、登記にかかる費用が高くなる
・不動産の売却で買主が見つかりにくくなる
・売却しようとしても相場より安くなりやすい
抵当権を抹消しないままだとリスクばかりが残ってしまうため、早期に抹消登記手続きを進めましょう。
抵当権を抹消する手順
抵当権を抹消する際は、まず必要書類が揃っていることを確認しましょう。・抵当権解除証書または抵当権放棄証書
・委任状(抵当権者となっている銀行のもの)
・登記済権利証または登記識別情報通知
上記の書類を揃えて、以下の手順で申請を行います。
①法務局で登記事項証明書を発行してもらう
②氏名が変更されているなら戸籍謄本、住所が変更されているなら住民票を取得する
③登記申請書を作成して法務局に申請する
④後日、印鑑・本人確認書類を持参して法務局に完了後の書類を受け取りに行く
抵当権の抹消に必要な書類・費用
抵当権の抹消に必要な書類と費用を見ていきましょう。登記簿上の抵当権情報を抹消するために必要な書類は次のとおりです。
□弁済証書:
借入金が完済されたことを証明する書類
□登記済証または登記識別情報:
抵当権を設定した時、抵当権者に交付される書類
□登記事項証明書:
借入先の金融機関の登記事項証明(発行から3か月以内のもの)
□委任状:
債権者である金融機関が、抵当権抹消に関する手続きを委任するもの
抵当権の抹消登記に必要な費用は「登録免許税」と「登記事項証明書」の発行手数料に加え、「司法書士への報酬」の費用がかかります。
登録免許税の発行手数料は、不動産1件(土地と建物がある場合は別々)につき1,000円です。登記事項証明書の発行手数料は、500~600円程度となっています。
また、抵当権の抹消登記の手続きを司法書士に依頼する場合は、上記とは別に設定された抵当権1件につき、1~2万円程度の報酬額を支払います。
まとめ
抵当権は住宅ローンを組む際に、金融機関からの信頼を得て、高額の融資を受けることができる有効な方法です。
しかし、抵当権には便利な面もある一方で、抵当権の行使や売却の難しさなどの注意すべきデメリットもあります。
金銭トラブルを避けるためにも、自分の返済能力を考慮してローンを組み、ローンを完済したら早期に抵当権抹消手続きを行いましょう。
監修者
大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。