
相続した不動産、売却すべきかお悩みの方へ。
- メリット・デメリット、手続き、税金、注意点、期限まで網羅。
- 専門用語もわかりやすく解説し、名義変更、費用、控除、流れも解説し、安心して進める知識でサポートします。
一方で、売却には時間や費用、感情的なハードルも伴います。そこで本記事では、「相続した不動産を売却するべきかどうか」の判断に役立つ典型的な4つのケースを紹介するとともに、売却のメリット・デメリット、必要な手続き、注意点まで網羅的に解説します。
目次

相続によって不動産を受け継いだ際、活用方法は相続人様の状況や意向によってさまざまです。必ずしも売却が最善とは限りませんが、税金や管理の負担、あるいは相続人間の公平な分割といった観点から、売却が最も合理的で、将来的な安心につながる選択肢となることがあります。
ここでは、相続した不動産の売却が具体的にどのような場合に検討されるのか、代表的な4つのケースをご紹介します。
ケース① 利用する予定がないとき
相続した不動産を売却するケースとして、まず挙げられるのが「利用する予定がない」場合です。例えば、親の自宅を相続した子がすでにマイホームを所有していたり、遠方に住んでいる親の家を相続することになったりするケースなどです。不動産を保有しているだけで、固定資産税や都市計画税といった税金に加え、維持管理費や修繕費などの費用が発生します。利用予定がないにもかかわらず負担を続けることは、経済的な重荷となりかねません。
将来的な負担を避けるためにも、利用予定のない不動産は早めに手放すことを検討したほうが良いでしょう。
ケース② 換価分割をするとき
換価分割(かんかぶんかつ)とは、相続した不動産などの遺産を売却して現金に換え、相続人間で分配する方法です。不動産は現金と違い、物理的に分割することは困難です。特に複数の相続人がいる場合、誰がどの部分を相続するかで意見が分かれ、トラブルに発展するケースも少なくありません。換価分割を選択すれば、売却代金を1円単位で正確に分割できるため、相続人間の不公平感をなくし、円満に遺産分割しやすくなります。また、不動産の管理や維持といった手間からも解放されます。ただ、換価分割を行うには、相続人全員の合意が必要です。
ケース③ 清算型遺贈が行われるとき
「清算型遺贈」が行われるケースも、不動産を売却する一例として挙げられます。清算型遺贈とは、遺言に基づいて財産を代表者がまとめて受け取り、その後、ほかの相続人と清算・調整を行う遺贈の方法です。清算型遺贈は、遺産の大部分が不動産など分けにくい資産である場合や、遺言者が「まずは代表者に一任し、あとで適切に分けてほしい」と希望する場合に選ばれます。一般的な流れとしては、代表者が不動産を売却して現金化し、資金を遺言の内容に沿って相続人や受遺者に分配します。
ケース④ 相続税の納税が必要なとき
相続税は、亡くなった方の財産を受け継いだ際に課される税金です。原則として、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に現金で一括納付する必要があります。しかし、相続財産の多くが不動産で、納税資金となる現金が手元に不足することは少なくありません。このような場合、相続した不動産を売却して現金化し、支払いに充てるという方法が考えられます。
ただし、不動産の売却には時間がかかります。10ヶ月という期限内に売却を完了させるには、早期に専門家へ相談し、計画的に手続きを進めることが不可欠です。
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相続した不動産を売却するメリット
相続した不動産の売却は、相続人にとって多くのメリットをもたらす可能性があります。特に、利用する予定がない場合や、複数の相続人で公平に分けることが難しい場合には、売却が現実的な解決策となる可能性があるでしょう。
ここでは、不動産を売却することで得られる主なメリットを3つの観点から解説します。
メリット① 遺産が分配しやすい
不動産は現金と異なり、物理的に分割することが困難です。そのため、複数の相続人がいる場合、「誰が不動産を取得するか」あるいは「どのように分けるか」で意見が対立し、トラブルに発展するケースが少なくありません。土地であれば「分筆(土地を複数の区画に分けること)」して分ける方法もありますが、資産価値が下がったり、分筆のための費用がかかったりするデメリットもあります。
不動産を売却して現金化すれば、正確かつ公平に分割できるため、相続人間の不公平感をなくし、円満な遺産分割協議を進められます。
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メリット② 税金や管理費の負担がなくなる
不動産は所有しているだけで、毎年1月1日時点の所有者に固定資産税や都市計画税が課されます。マンションの場合は管理費や修繕積立金、戸建ての場合も経年劣化による修繕・維持費用が継続的に発生します。たとえ住んでいなくても、このようにさまざまな費用の負担は避けられません。
空き家にしておくと建物の傷みが早まるだけでなく、更地にしても住宅用地の軽減措置が適用されなくなり、かえって税金が高くなることもあります。利用予定のない不動産を売却することで、このような経済的な負担を軽減できます。
メリット③ 近隣トラブルが回避できる
相続した家が空き家となり、管理が行き届かない状態が続くと、近隣トラブルを引き起こす可能性があります。例えば、建物の老朽化によって屋根や外壁が飛散し、隣家や通行人に被害を与えた場合、所有者として損害賠償責任を問われる恐れがあります。景観の悪化や不法投棄、害虫・害獣の発生なども近隣からの苦情の原因となります。
さらに、管理不全な空き家は「特定空家」に指定され、税金の優遇措置が解除されたり、罰金や行政指導を受けたりするリスクもあります。不動産を売却することは、こうしたトラブルや法的なリスクも未然に防ぐ有効な手段です。
相続した不動産を売却するデメリット
相続した不動産の売却にはメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。売却を決定する前にこれらの点を十分に理解し、慎重に検討することが重要です。
ここでは、主なデメリットを3つの観点から解説します。
デメリット① 所有権を失う
不動産を売却すれば、所有権が完全に失われます。もし賃貸に出していた場合、家賃収入はなくなります。将来的に収益が見込める物件であれば、維持費と比較して長期的な視点で判断が必要です。また、相続した不動産が思い出深いご実家などの場合、売却は精神的な負担となることもあります。一度手放してしまうと、同じ不動産を買い戻すことは極めて難しく、価格が高騰している可能性も考えられます。売却に迷いがある場合は、後悔しないよう慎重に検討することが大切です。
デメリット② 譲渡所得税が課税される場合がある
相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、譲渡所得税(所得税・住民税など)が課税される可能性があります。譲渡所得は、売却価格から不動産の取得費や売却にかかった譲渡費用を差し引き、さらに適用できる特別控除額を引いて計算されます。計算式は次のとおりです。【 譲渡課税所得=売却価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額 】
計算の結果、利益が残る場合には納税が必要です。特に、相続した不動産がマイホーム以外の場合や、購入時より高く売れた場合などは税負担が発生しやすくなります。事前に税額のシミュレーションを行い、利用できる控除や特例がないかを確認しておきましょう。
デメリット③ 手続きに手間や費用がかかる
不動産の売却には、さまざまな手続きが必要となり、多くの時間と手間がかかります。また、不動産会社への仲介手数料、登記費用、印紙税といった諸費用も発生します。手間や費用の負担は、売却を検討する上でのデメリットといえるでしょう。特に相続人が複数いる場合は、誰が中心となって手続きを進めるのかを明確にしないと、話が進まず、売却のタイミングを逃してしまう恐れもあります。相続登記や遺産分割協議など、売却以前の相続手続き自体も複雑なため、売却を決める前に、手間や費用を十分に理解しておく必要があります。
相続した不動産の売却前に必要な相続登記(名義変更)について
相続によって受け継いだ不動産を売却しようとする場合、避けて通れない手続きが「相続登記」です。
ここでは、売却の第一歩となる相続登記の基本から具体的な手続きまでを解説します。
相続登記(名義変更)とは
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際に、不動産の権利を法的に相続人へ移し、登記簿に公示する手続きです。相続登記を行わないと、第三者に対して自分が所有者であることを主張できず、売却や担保設定ができません。手続きは管轄の法務局で行います。2024年4月1日より、相続登記は義務化されました。相続を知った日から3年以内の申請が必須となり、怠ると10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
すぐに登記できない事情がある場合は、自分が相続人であることを申し出る「相続人申告登記」制度も利用できます。ただし、相続人申告登記だけでは不動産の売却はできない点に注意が必要です。
相続登記(名義変更)の仕方
相続登記を行う方法は、主に相続の形態によって異なります。代表的なものとして、以下の3つのパターンが挙げられます。方法 | 概要 | 登記の名義 | 主な特徴・注意点 |
法定相続 | 遺言がなく、遺産分割協議もしない場合に適用される | 法定相続人全員の共有名義 | 相続分は法律に従う。 手続きは比較的簡易。 |
遺言による 分割 |
遺言書の内容に従って特定の人が相続する | 遺言で指定された人の単独名義 | 遺言書の形式により家庭裁判所の「検認」が必要な場合あり。 |
遺産分割協議に よる分割 |
相続人全員で話し合い、遺産分割協議書を作成する | 協議で決まった人の単独名義 | 合意が必要。 不動産の取得者は1人でもよい。 |
どの方法で相続登記を行うかによって、手続きの進め方や必要となる書類が異なります。ご自身の状況に合わせて適切な方法を選択することが重要です 。
相続登記(名義変更)の流れ
相続登記(名義変更)の手続きは、一般的に以下の流れで進められます。1. 必要書類を収集する
2. 申請書を作成する
3. 法務局で相続登記の申請をする
4. 登記識別情報通知書を受け取る
まず戸籍謄本や住民票、遺言書、遺産分割協議書などを、上述した相続パターンに応じて集めます。特に被相続人の出生から死亡までの戸籍集めは煩雑になりがちなので、注意が必要です。
次に、書類を基に登記申請書を作成します。そして、不動産を管轄する法務局へ申請書と書類一式を提出し、登録免許税を納付します。申請は窓口、郵送、オンラインで可能です。審査を経て登記が完了すると、権利証に代わる「登記識別情報通知書」が交付されます。
相続登記はご自身で行うことも可能ですが、必要書類の収集や申請書の作成は専門的な知識を要し、ケースによって手続きが複雑になることもあります。そのため、司法書士などの専門家に依頼することも検討すると良いでしょう。
相続登記(名義変更)に必要な書類
相続登記(名義変更)に必要な書類は、相続のパターンによって異なります。以下に、それぞれのパターンで一般的に必要となる主な書類をまとめました。相続登記の方法 | 必要書類 |
法定相続の場合 | ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 ・被相続人の除住民票 ・相続人全員の戸籍謄本 ・相続人全員の住民票 ・固定資産税評価証明書 ・相続関係説明図(任意) |
遺言による 分割の場合 |
・遺言証書 ・遺言者の死亡事項の記載がある除籍謄本 ・遺言で不動産を取得する人の住民票 ・固定資産税評価証明書 ・受遺者の戸籍謄本 ・相続関係説明図(任意) |
遺産分割協議による 分割 |
・遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印・印鑑証明書) ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 ・被相続人の除住民票 ・相続人全員の戸籍謄本 ・相続人全員の住民票 ・固定資産税評価証明書 ・相続関係説明図(任意) |
被相続人の「戸籍謄本類」は、相続関係を確定するために不可欠であり、出生から死亡までの連続したものをすべて揃える必要があります。本籍地を何度か変更している場合は、それぞれの市区町村役場から取り寄せます。
書類の用意は煩雑で時間を要することが多いため、早めに準備を開始するか、司法書士などの専門家に依頼することを検討しましょう。特に、相続人が多数いる場合や、相続関係が複雑な場合には、専門家のサポートが有効です。
相続した不動産を売却する流れ

相続した不動産の売却は、相続の開始から買主への引き渡しまで、多くの段階があります。
ここでは、相続不動産売却の具体的なステップを順に詳しく解説します。
①相続の発生
不動産の相続は、所有者(被相続人)が亡くなったときに始まります。最初に行うのは、遺言書の有無の確認です。遺言書には次の3種類があります。遺言の種類 | 特徴 | 検認 | メリット | デメリット |
自筆証書 | 本文・日付・氏名をすべて自筆で記入し、押印 | 必要 | 手軽・費用がかからない | 不備で無効となるリスクが高い |
秘密証書 | 内容はパソコン等で作成可。封をして公証役場で手続き | 必要 | 内容を秘密にできる | 作成手続きが複雑 |
公正証書 | 公証人が口述に基づき作成。公証役場に原本を保管 | 不要 | 原本保管のため紛失や改ざんの心配なし | 証人2名が必要 |
このうち、「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」については、遺言書を発見してもすぐに開封してはいけません。家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。公正証書遺言の場合は検認不要です。
②財産と相続人の確認
次に、亡くなった方が遺した財産全体を調査します。財産調査では、不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて把握します。財産目録があればそれを参考にします。同時に、戸籍謄本などを収集し、法定相続人を特定します。離婚歴や認知した子がいる場合は、相続関係が複雑になることもあるため、慎重な調査が必要です。調査した財産と相続人の情報は、相続人全員で共有します。
③遺産分割協議
遺言書がない場合や、遺言とは異なる分け方をしたい場合は、相続人全員で「遺産分割協議」を行います。この話し合いで、誰がどの財産をどのように相続するかを決めます。遺産分割の方法は、主に次の4つです。
(1)現物分割:
個々の財産をそのままの形で相続人が取得する
(2)代償分割:
特定の相続人が不動産など評価額の高い財産を取得する代わりに、ほかの相続人に対して自己の資金で代償金(差額分の現金)を支払う
(3)換価分割:
不動産などの財産を売却して現金に換え、相続分に応じて分配する方法
(4)共有分割:
不動産などの財産を、相続人複数名の共有名義で相続する
全員が合意したら、内容を「遺産分割協議書」にまとめ、全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付します。
④相続登記(名義変更)
上述した「相続登記」を済ませます。相続登記を完了させなければ、法的にその不動産の所有者として認められず、売却活動を進めることができません。相続登記は2024年4月から義務化されており、相続を知った日から3年以内に行わないと過料が科される可能性があります。前述の「相続登記(名義変更)について」で解説した流れと必要書類に従って進めましょう。
⑤不動産の売却準備
相続登記の手続きが進んだら、売却に向けた準備を始めます。まずは、複数の不動産会社に物件の査定を依頼し、売却見込み額や販売戦略を比較検討します。査定は相続登記完了前でも可能です。査定結果を参考に売却価格を決定し、売却活動を任せる不動産会社を選び、「媒介契約」を結びます。媒介契約には「専属専任」「専任」「一般」の3種類があり、それぞれ不動産会社の義務や売主の制限が異なります。契約内容をよく理解し、自分の希望に合った契約形態を選ぶことが大切です。
⑥売買活動の実施
不動産会社と媒介契約を結ぶと、本格的な売却活動が始まります。不動産会社は物件の詳細調査(権利関係、法令制限など)を行い、Web広告やチラシ、オープンハウスなどを通じて購入希望者を探します。内覧希望があれば、日程を調整して物件を案内します。購入を希望する人が現れると、「買付証明書」が提出されます。買付証明書をもとに、売主と購入希望者の間で価格や引き渡し時期などの具体的な交渉がスタートします。
⑦売買契約の締結
購入希望者との間で価格や引き渡し条件などが合意に達したら、「不動産売買契約」を締結します。契約時には、売主と買主が契約内容を確認し、売買契約書に署名・押印します。通常、このときに買主から売主へ手付金が支払われます。契約書は法的な効力を持つ重要な書類です。物件の状況や解除条件など、細部までしっかり確認し、不明点は必ず契約前に解消しておきましょう。
売主は、登記識別情報(権利証)や印鑑証明書などの必要書類を準備します。一般的に、相続登記から引き渡しまでは半年程度を見込むとよいでしょう。
⑧残金決済・引き渡し
売買契約後、通常1ヶ月ほどで「残金決済」と「物件の引き渡し」が行われます。決済日には、売主と買主、不動産会社の担当者、司法書士が金融機関などに集まります。買主は売買代金の残額を支払い、売主が受領します。同時に、固定資産税・都市計画税の日割り精算や、仲介手数料の支払いなども行われることがあります。金銭の授受が確認されると、司法書士が法務局に所有権移転登記を申請します。売主が買主へ物件の鍵を引き渡せば、すべての取引は完了です。
相続した不動産を売却する際に発生する費用
相続した不動産を売却する際には、売却代金がそのまま手元に残るわけではなく、税金や不動産会社への仲介手数料などさまざまな費用が発生します。
ここでは、相続した不動産を売却する際に発生する費用について具体的に解説します。
譲渡所得税(住民税・復興特別所得税)
相続した不動産を売却して利益が出た場合、利益に対して「譲渡所得税」が課税されます。譲渡所得税は所得税、住民税、そして復興特別所得税を合わせたものです。譲渡所得の計算式は以下の通りです。
【 譲渡課税所得=売却価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額 】
売却価格には物件価格のほか、買主から受け取った未経過の固定資産税に相当する金額の精算金額も含めます。また、取得費には物件価格のほか、購入時の仲介手数料、測量費、造成費用、改良費を加えることが可能です。
譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって異なり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下か5年超かで判断されます。
■短期譲渡所得(所有期間5年以下):
税率 約39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)
■長期譲渡所得(所有期間5年超):
税率 約20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
相続した不動産の場合、所有期間は取得した日から計算されます。そのため、被相続人が長期間所有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得の税率が適用されるケースが多く、税負担が軽減される可能性があります。
登録免許税
登録免許税は、不動産の名義変更など登記手続きを行う際に国に納める税金です。相続不動産売却では、相続登記を行う際に必要となります。税額は「固定資産税評価額 × 税率」で計算され、相続登記の場合は税率0.4%です。例えば評価額2,000万円なら8万円です。登録免許税は、不動産の名義変更を行ううえで必ず発生する費用です。相続登記を司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬と合わせて支払うのが一般的です。なお、売買による所有権移転登記の登録免許税は、通常買主が負担します。
印紙税
印紙税は、不動産売買契約書などの経済取引に関する文書に課される税金です。納税は、契約書に定められた金額の「収入印紙」を貼り付け、消印することで行います。不動産売買契約書の場合、印紙税額は契約金額に応じて決まっています。例えば1,000万円超5,000万円以下の契約では、軽減措置により令和9年3月31日までは1万円です(本則2万円)。契約書を2通作成し売主・買主がそれぞれ保管する場合は、各自が負担するのが一般的です。契約書作成時には忘れずに対応しましょう。
不動産を売却する際にかかる費用
税金以外にも、不動産売却にはさまざまな費用がかかります。代表的なものは不動産会社への「仲介手数料」で、売買価格に応じて上限額が定められています。他にも、状況によっては遺品整理費用、ハウスクリーニング費用、リフォーム費用などが発生することもあります。売却活動を始める前に、どのような費用がどれくらいかかるのか、不動産会社とよく相談し、資金計画を立てておきましょう。
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相続した不動産を売却する際に使える特別控除
相続した不動産を売却すると譲渡所得税がかかることがありますが、条件を満たせば税負担を軽減できます。
ここでは、相続不動産の売却時に利用できる主な制度を解説します。ただし、適用要件は細かく、税制も変わるため、必ず税理士などの専門家にご相談ください。
居住用財産の3,000万円特別控除
ご自身が住んでいるマイホームを売却した際、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。相続した家に相続人が居住し、一定期間内に売却すれば適用できます。家を取り壊して土地だけ売る場合も、条件を満たせば対象です。ただし、親子間売買など特別な関係者への売却や、住宅ローン控除など一部の特例とは併用できません。また、特例目当ての一時的な居住と判断されると適用されないため注意が必要です。
取得費加算の特例
適用するための主な条件は以下の通りです。1. 相続や遺贈により財産を取得した者であること
2. その財産を取得した人に相続税が課税されていること
3. その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日(つまり、相続開始から3年10ヶ月以内)までに譲渡(売却)していること
実際に相続税を納めた方でなければ利用できません。相続財産の総額が基礎控除額以下で相続税が発生しなかった場合には、適用対象外です。売却期限を過ぎてしまったときも特例は受けられません。
「小規模宅地等の特例」(相続税の特例)の適用を受けるために相続税の申告期限まで不動産を保有した場合など、ほかの特例と併用する場合は、税効果を比較検討する必要もあります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、亡くなった方が住んでいた土地などの相続税評価額を最大80%減額できる「相続税」の制度です。譲渡所得税を直接減らすものではありませんが、相続税の負担を大幅に軽くできる可能性があります。適用条件は非常に複雑で、誰が相続し、その後どう利用するかで変わります。また、原則として相続税の申告期限まで土地を保有する必要があるため、早期に売却したい場合は特例の適用が難しくなります。
相続空き家の3,000万円の特別控除
亡くなった方が一人で住んでいた旧耐震基準(昭和56年5月31日以前建築)の空き家を、耐震リフォームするか、取り壊して土地として売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。正式名称を「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。主な適用要件は以下の通りです。
・昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(旧耐震基準の建物)
・区分所有建物(マンションなど)でないこと
・相続開始直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
・売却する家屋が一定の耐震基準を満たすか、または家屋を取り壊して土地のみを売却すること
・売却代金が1億円以下であること
・相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
2024年1月1日以降は、相続人が3人以上いる場合、1人あたりの控除額が2,000万円に減額されました。相続人が1人または2人の場合は従来通り3,000万円です。
マイホームを売却した時のその他の特例
相続した家をマイホームとして利用し、その後売却する場合、3,000万円控除以外にも特例があります。主な特例としては、以下のものがあります。■所有期間10年超の居住用財産の軽減税率の特例:
売却したマイホームの所有期間が10年を超えている場合に、軽減税率が適用される
■特定の居住用財産の買換え特例:
一定期間内に買い換えた場合、売却時の譲渡益に対する課税を、買い換えたマイホームを将来売却するときまで繰り延べることができる
■居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除:
マイホームを売却して損失が出た場合に、ほかの所得と相殺したり、翌年以降3年間にわたって繰り越して控除したりすることができる
適用を受けるためには細かな要件を満たす必要があり、確定申告が必須です。ご自身の状況がどの特例に該当する可能性があるか、専門家に相談することをおすすめします。
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相続した不動産を売却する際の注意点

相続した不動産の売却は、法的な手続きや税金、相続人間の調整など、多くの複雑な要素が絡み合います。そのため、円滑に売却を進め、後々のトラブルを避けるためには、いくつかの重要な注意点を事前に理解しておくことが不可欠です。
ここでは、相続不動産を売却する際に特に気をつけるべきポイントを解説します。
相続の各手続の期限を把握しておく
相続が発生するとさまざまな手続きに追われますが、それぞれに期限が設けられているため注意が必要です。まず、相続税の申告と納税は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から「10か月以内」に行う必要があります。相続により不動産を取得したことを知った日から「3年以内」には、登記申請も行わなければなりません。被相続人に所得があった場合、相続人が代わりに「4ヶ月以内」に準確定申告を行う必要もあります。
また、「居住用財産の3,000万円控除」などの節税特例は、基本的に「相続開始から3年10か月以内」の要件となっていることが多いです。不動産売却は時間を要する場合もあるため、全ての期限を念頭に置き、余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが重要です。
不動産会社を見極める必要がある
相続不動産の売却を成功させるためには、信頼できる不動産会社を選ぶことが重要です。不動産会社と一口に言っても、得意とする分野や地域、顧客層はさまざまです。不動産相続の場合、相続案件の取り扱い経験が豊富で、関連する法律や税務にも詳しい不動産会社を選びましょう。不動産会社を選ぶ際には、まず複数の会社に物件の査定を依頼し、提示された査定価格だけでなく、根拠や販売戦略、担当者の対応などを比較検討しましょう。特に相続の場合、相続登記の手続きや税務に関する知識を持った担当者がいると、安心して任せることができます。
また、地域密着型の不動産会社であれば、地域の市場動向や買主のニーズを熟知しているため、的確なアドバイスや販売活動が期待できるでしょう。実績はもちろん、親身になって相談に乗ってくれるか、分かりやすい説明をしてくれるかといった点も重要です。
共有名義は全員の名前が必要になる
相続した不動産を複数の相続人の共有名義で相続した場合、売却するには、原則として全員の同意と実印による署名・押印、そして印鑑証明書の提出が必要です。一人でも売却に反対する共有者がいたり、連絡が取れない共有者がいたりすると、手続きを進めることができません。共有名義での不動産売却は手間と時間がかかるうえに、意見が対立し、売却が頓挫してしまうケースもあります。希望売却価格や売却時期などについて事前に話し合い、方向性を一致させておくことが重要です。
遺産分割協議の段階で、売却を前提として代表者一人の名義にするか、換価分割を選択するなど、売却しやすい形にしておくことも有効な対策の一つです。
単独登記型には贈与のリスクがある
換価分割の際に注意しなければならないのが「贈与税」のリスクです。状況によっては、「ほかの相続人から代表者へ不動産が贈与された」と税務署にみなされる可能性があります。贈与と判断されると、代表者は相続税とは別に贈与税(最大55%の累進課税)を課される恐れがあるため注意が必要です。このような事態を避けるためには、遺産分割協議書に換価分割の旨を明確に記載し、相続人全員が同意していると示すことが重要です。税務署に対して、あくまで遺産分割の一環としての手続きであることを説明できるように、適切な書類作成と証拠の保管を心がけましょう。
不動産の売却に係る税金は相続人全員で負担する
相続不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、譲渡所得税と住民税が課税されます。登記名義人が代表者一人であっても、実質的に複数の相続人の共有財産である場合、売却によって生じる税金や諸費用は、相続人全員で負担するのが原則です。特に換価分割を選択し、代表相続人が売却手続きを行った場合、売却によって得た代金は相続人の間で分配されます。譲渡所得税や売却にかかった諸費用も、相続分などに応じて相続人全員で公平に負担するのが一般的です。
負担割合について事前に取り決めをしておかないと、売却代金の分配後に税金や費用の清算で揉める可能性があります。遺産分割協議書を作成する際に、譲渡所得税や諸費用の負担割合について明記しておきましょう。各相続人が利用できる特別控除なども異なる場合があるため、税理士などの専門家にも相談しながら、公平な負担方法を検討するとよいでしょう。
故人が締結した売買契約書を探しておく
相続不動産を売却する際に重要となるのが、被相続人(故人)が不動産を購入したときの「売買契約書」や「領収書」などです。不動産を売却した際にかかる譲渡所得税は、売却価格から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いた金額に対して課税されるからです。相続の場合、相続人は被相続人の取得費と所有期間を引き継ぐことになります。つまり、故人がいくらで、いつ購入したかを示す書類が、税額を計算する上で不可欠なのです。
もし、書類が見つからないと、正確な取得費が分からず、後述する「概算取得費」を用いることになり、税金が高額になる可能性があります。まずは遺品の中から、不動産関連の書類を注意深く探すことが第一歩となります。
取得費が不明な場合は代替資料を探す
故人が購入した時の売買契約書が見つからない場合でも、諦める必要はありません。不動産を購入した当時の仲介会社や売主、あるいは登記を依頼した司法書士などに問い合わせて、契約書の写しなどが残っていないか確認してみましょう。例えば、以下のような資料が証拠となることもあります。
・購入当時の不動産会社のパンフレットやチラシ
・住宅ローン関連書類
・登記事項証明書(登記簿謄本)
・固定資産税評価証明書や固定資産税の課税明細書
・市街地価格指数や標準的建築価額表
最終手段として、売却価格の5%を「概算取得費」として申告することも認められています。しかし、取得費が非常に低く見積もられるため、譲渡所得が大きくなり、結果として税金が高額になるケースがほとんどです。
できる限り、客観的な証拠を探し出す努力をすることが節税につながります。
確定申告が必要な人は忘れずに行う
相続した不動産を売却して利益が出た場合には、原則として、売却した年の翌年に確定申告を行い、譲渡所得税を納付する必要があります。前述した各種税制優遇措置を利用する場合にも、たとえ計算の結果として納税額がゼロになったとしても、確定申告の手続きは必要です。特例は、確定申告をすることによって初めて適用が認められるものがほとんどです。
確定申告の期間は、原則として売却した年の翌年2月16日から3月15日までです。期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があるため、忘れずに手続きを行いましょう。
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まとめ
相続した不動産の売却は、法的な手続き、税金の計算、そして何よりも相続人間の調整など、多岐にわたる知識と対応が求められます。不動産の維持や税金の負担、遺産分割の難しさといった問題から解放されるメリットがある一方で、所有権の喪失や譲渡所得税の発生、手続きの煩雑さといったデメリットも存在します。
相続不動産の売却は、専門的な知識が求められる場面が多く、また、精神的な負担も大きいものです。ポラスの仲介では、地域に根差した不動産の専門家として、無料査定はもちろんのこと、相続手続きに関するアドバイスや提携する司法書士・税理士のご紹介など、トータルでサポートいたします。
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監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。