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家族信託の危険性を回避する方法|メリット・デメリットから手続きまで徹底解説

家族信託は、認知症などによる資産凍結を防ぎ、円滑な財産管理・承継を実現する有効な手段として近年注目されています。しかし、そのメリットの裏には「危険」と表現されるほどのデメリットや注意点も存在します。この記事では、家族信託の基本的な仕組みやもたらされるメリットを詳しく解説するとともに、費用面、人間関係、税金面で起こりうる様々なトラブルなどのデメリットと、その具体的な回避策を徹底的に掘り下げていきます。
こんな方におススメ
- 家族信託の契約方法を知りたい方
- 家族信託と成年後見人・遺言との違いを知りたい方
目次
そもそも家族信託とは?財産管理を家族に託す仕組み
家族信託とは、ご自身の財産を、信頼できるご家族に託し、ご自身の目的や特定の人のために管理・運用してもらうための法的な契約です。これは、認知症などによりご自身の判断能力が低下した場合に備え、元気なうちに将来の資産管理方法を決めておく「生前の対策」として注目されています。
この仕組みでは、財産の所有者である「委託者」が、財産の管理を任せるご家族である「受託者」に財産の管理権を移します。受託者は、信託契約の内容に従って、財産から生じる利益を受け取る人、すなわち「受益者」のために、その財産を適切に管理・運用する役割を担います。
例えば、ご自身が所有する不動産や預貯金といった大切な財産が、将来、認知症など用に充てられたり、ご希望通りに次世代へと引き継がれたりするよう、事前に準備できるのが家族信託の大きな特徴です。
登場人物は3人!「委託者」「受託者」「受益者」の役割
家族信託の仕組みを理解する上で、不可欠な3つの主要な役割があります。それが「委託者」「受託者」「受益者」です。
「委託者」とは、ご自身の財産を信託し、家族信託の契約を設定する方、つまり財産の元の所有者のことです。次に「受託者」は、委託者から財産の管理を託され、信託契約の内容に従ってその財産を管理・運用する責任を負う方を指します。そして「受益者」は、信託された財産から生じる利益(例えば、不動産の家賃収入や預貯金の利息、生活費など)を受け取る方です。多くの場合、家族信託を設定した当初は、財産を託したご本人(委託者)が、その財産から利益を受け取るご本人(受益者)を兼ねるケースが一般的です。
具体的な例を挙げましょう。お父様(委託者)が所有するアパートを、信頼できる長男(受託者)に託し、そのアパートから得られる家賃収入をお父様(受益者)ご自身の生活費や介護費用に充てる、といったケースです。このように、三者の役割が明確に分担されることで、ご家族の状況に合わせた柔軟な財産管理・承継が可能になります。
信託できる財産の種類(不動産・預貯金・株式など)
家族信託の対象となる「信託財産」には、非常に多岐にわたる種類の財産を含めることができます。主な対象となるのは、土地や建物といった「不動産」、銀行の「預貯金」、そして株式や投資信託などの「有価証券」です。これらが信託財産の中心となることがほとんどです。
これら以外にも、金銭的な価値を持つものであれば、信託財産とすることが可能です。例えば、非上場会社の株式や、知的財産権なども信託に含めることができる柔軟性があります。ただし、中には農地や年金受給権のように、法律上の制約により信託できない財産も存在しますので注意が必要です。
信託する財産の種類によって、手続きにも違いが生じます。預貯金を信託する場合には、受託者名義で通常の口座とは異なる専用の「信託口口座」を開設する必要があります。また、不動産を信託する際には、法務局で「信託登記」を行い、所有権が受託者に移転したことを公的に記録する必要があります。これらの手続きは、財産の適切な管理と透明性を確保するために非常に重要です。
他の制度とどう違う?成年後見・遺言との比較
財産管理や承継に関する制度として、家族信託の他にも「成年後見制度」や「遺言」がよく知られています。これらの制度は、それぞれ異なる目的や機能を持っているため、ご自身の状況や目的に応じて最適な手段を選ぶことが重要です。
このセクションでは、家族信託とこれらの制度がどのように違うのかを詳しく比較検討していきます。ご自身の財産をどのように管理し、誰に承継させたいのか、具体的な状況を思い浮かべながら読み進めてみてください。
家族信託と成年後見制度の違い
家族信託と成年後見制度の最も大きな違いは、「財産管理の柔軟性」と「制度の開始時期」にあります。成年後見制度は、ご本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任し、あくまでご本人の財産を「保護・保全」することを目的としています。そのため、一度後見人が選任されると、資産の売却や活用(例えば、新たな不動産投資など)には家庭裁判所の許可が必要となり、手続きが厳格で時間もかかります。これは、ご本人の財産が不当に処分されることを防ぐための仕組みではありますが、積極的な資産運用や相続対策には不向きな側面があります。
一方、家族信託は、ご本人が元気なうちに、将来に備えて契約内容を自由に設計できる点が特徴です。受託者は、信託契約で定められた範囲内で、不動産の売却や建て替え、新たな投資などを柔軟かつ迅速に行うことが可能です。例えば、将来的に施設へ入居する費用を賄うために自宅を売却する必要が生じた場合、成年後見制度では家庭裁判所の許可が必要となり数ヶ月かかることもありますが、家族信託であれば、受託者が契約内容に基づき、速やかに売却手続きを進めることができます。このように、家族信託は「積極的な資産活用」を可能にする点で、成年後見制度とは大きく異なります。
家族信託と遺言の違い
家族信託と遺言の決定的な違いは、「効力が発生するタイミング」と「承継先の指定範囲」の2点です。遺言は、書いた方が亡くなった後に初めて効力を生じる「死後の財産承継」の手段です。ご自身の死亡を条件として、誰にどの財産をどれだけ渡すかを指定できます。
これに対し、家族信託は契約締結後すぐに効力が生じます。そのため、ご本人が認知症などで判断能力を失った際の「生前の財産管理」にも対応できる点が、遺言との大きな違いです。財産の管理権限が受託者に移っているため、たとえご本人の判断能力が低下しても、受託者が信託契約に基づいて滞りなく財産を管理・運用し、生活費や医療費を支払うことができます。
また、遺言では原則として、ご自身が亡くなった際の財産の行き先(一次相続)しか指定できません。しかし、家族信託では「自分が亡くなった後は妻に、妻が亡くなった後は長男に」というように、二次相続以降の承継先(後継受益者)まで指定できる「受益者連続型信託」という機能があります。これにより、「先祖代々の土地を長男の家系に確実に引き継がせたい」といった、数世代にわたる財産承継の意思を法的に確定させることが可能になります。この点で、家族信託は遺言よりもはるかに広範囲な財産承継の意思を実現できる、強力な手段といえるでしょう。
家族信託を活用する6つのメリット

家族信託は、単に財産を管理するだけでなく、超高齢社会におけるご家族のさまざまな課題を解決する力を持っています。このセクションでは、認知症対策から事業承継まで、家族信託を活用することで得られる主要な6つのメリットについて、一つずつ詳しくご説明します。
メリット1:認知症などによる資産凍結を防げる
家族信託の最も大きなメリットの一つが、認知症などで判断能力が低下した場合に生じる「資産凍結」を未然に防げることです。口座名義人が認知症になると、銀行は口座からの高額な引き出しや定期預金の解約を制限し、事実上、預貯金が使えなくなってしまいます。また、不動産についても、売却や賃貸契約の締結ができなくなり、結果として介護費用や医療費などの必要な資金が確保できないという事態に陥るリスクがあります。
家族信託をあらかじめ組んでおくことで、財産の管理・処分権限は元気なうちに受託者(ご家族など)に移転します。これにより、委託者ご本人の判断能力が低下した後も、受託者が信託契約に基づき、必要な資金の引き出しや不動産の売却、賃貸契約の更新などを滞りなく行うことが可能です。これにより、ご本人の生活費や医療費、介護費用などを途切れることなく支え続けられるという、実用的な安心を得ることができます。
メリット2:成年後見制度より柔軟な財産管理ができる
家族信託は、成年後見制度に比べて格段に柔軟な財産管理を実現できる点も大きなメリットです。成年後見制度では、家庭裁判所の監督下で後見人が本人の財産を「保護・保全」することが最優先されます。そのため、収益性を高めるための不動産の組み換えや新たな投資、あるいは相続税対策としての生前贈与などは、原則として裁判所の許可が必要となり、厳格な審査と手続きに時間と手間がかかります。
一方、家族信託では、信託契約を組成する際に、ご家族の状況に合わせて管理・運用・処分に関する具体的な指示を自由に設定できます。例えば、「受託者は、受益者の生活・介護・医療に必要な資金を確保するため、信託不動産を売却できる」「相続税対策として、年間110万円の範囲で受益者の子に贈与できる」といった条項を盛り込むことができます。これにより、信託財産を状況に応じて積極的に活用したり、将来を見据えた柔軟な承継対策を実行したりすることが可能となります。
メリット3:遺言のように二次相続以降の承継先も指定できる
遺言書では一次相続(ご自身が亡くなった後の財産の承継先)しか指定できませんが、家族信託には「受益者連続型信託」という機能があり、二次相続以降の資産承継先まで指定できるという、非常に強力でユニークなメリットがあります。これは、ご自身の想いを数世代にわたって実現できる画期的な仕組みと言えます。
例えば、「自分が亡くなった後、財産の受益権は配偶者に渡し、その配偶者が亡くなった後は、前妻との間の子に承継させたい」といった複雑な希望も、家族信託であれば法的に実現できます。また、「先祖代々受け継がれてきた土地を、長男の家系に確実に引き継がせたい」といった願いも、受益者連続型信託によって具体的な形で実現することが可能です。これにより、ご自身の財産に関する確かな意思を、長期にわたって法的に確定させ、ご家族間のトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
メリット4:不動産の共有化によるトラブルを回避できる
相続が発生すると、不動産が兄弟姉妹などの間で「共有名義」となるケースは少なくありません。しかし、共有名義の不動産は、売却や大規模なリフォーム、あるいは担保設定といった重要な決定をする際に、共有者全員の同意が必要となります。共有者の一人でも反対すれば、何も決められずに不動産が「塩漬け」の状態になってしまうことがよくあります。
家族信託を活用すれば、このような共有名義特有のトラブルを未然に防ぐことができます。例えば、父(委託者)が所有する不動産を、長男を単独の受託者として信託します。これにより、不動産の管理や処分に関する権限は長男に一本化され、迅速な意思決定が可能になります。その一方で、他の兄弟姉妹は信託の「受益者」として、その不動産から生じる賃料収入などの利益を公平に受け取ることができます。このように、意思決定の迅速化と公平な利益分配を両立させることで、共有名義による将来のトラブルを回避し、ご家族間の良好な関係を維持することに役立ちます。
メリット5:障がいを持つ子の「親なき後問題」に備えられる
障がいを持つお子さんのいらっしゃる親御さんにとって、ご自身の死後、誰が子のために財産を管理し、生活を支えてくれるのかという「親なき後問題」は、尽きることのない大きな不安です。家族信託は、この問題に対する有力な解決策となり得ます。
例えば、親御さん(委託者)が、信頼できる親族(お子さんのご兄弟など)や専門家を受託者に指定し、ご自身の財産を信託します。信託契約には、「受託者は、受益者である長男(障がいを持つ子)の生活費として毎月〇万円を支払い、必要な医療費や施設利用料も信託財産から支出する」といった具体的な内容を定めます。これにより、親御さんが亡くなった後も、受託者が信託財産を適切に管理し、お子さんの生活を長期にわたって安定的に支える仕組みを構築できます。親御さんの願いを確実に実現し、お子さんが安心して暮らせる環境を整えることが可能になります。
メリット6:スムーズな事業承継を実現できる
中小企業のオーナー経営者にとって、家族信託は事業承継を円滑に進めるための強力なツールとなります。特に自社株式の承継は、経営権の行方に関わる重要な課題です。
現経営者(委託者)が、後継者(ご子息など)を受託者として自社株式を信託することで、株式の議決権を後継者に速やかに移し、経営に参加させることができます。一方で、株式から生じる配当を受け取る権利(受益権)は、当面の間、現経営者が持ち続けることが可能です。これにより、現経営者は引退後の生活資金を確保しつつ、生前のうちに後継者への経営権の移行をスムーズに進めることができます。さらに、現経営者が認知症などで意思決定能力を失った場合でも、後継者たる受託者が滞りなく会社経営を続けられるため、経営リスク管理の観点からも大きなメリットがあります。
【危険?】家族信託に潜む6つのデメリットと回避策

家族信託は、超高齢社会における財産管理や円滑な資産承継を実現するための非常に有効な手段として注目されています。しかし、その設計や運用を誤ると、「危険」とまで表現されるような様々な問題を引き起こす可能性もはらんでいます。家族信託を成功させるためには、そのメリットだけでなく、潜在するデメリットを正しく理解し、適切な対策を講じることが何よりも重要です。
このセクションでは、家族信託に潜む具体的なデメリットについて、「費用・手続き」「人間関係」「制度・税金」という3つのカテゴリーに分けて、それぞれ詳しく解説していきます。それぞれの問題点に対して、どのようにすれば回避できるのか、具体的な策も提示しますので、ぜひご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
費用・手続きに関するデメリットと回避策
家族信託の組成は、将来の安心を買うための投資とも言えますが、当然ながら費用が発生します。専門家への依頼費用や登記費用など、ある程度のまとまったコストがかかることは、家族信託を検討する上でまず知っておくべき点です。また、手続き自体も複雑で、自分一人で行うにはハードルが高いと感じる方も少なくないでしょう。このセクションでは、費用と手続きに関する具体的なデメリットと、それらを乗り越えるための回避策について詳しく解説します。
■デメリット1:専門家への依頼費用が高額になることがある
家族信託を組成する際には、信託契約書の作成や信託口口座の開設、不動産の信託登記など、専門的な知識と手続きが必要になります。そのため、多くの方が司法書士や弁護士といった専門家に依頼することになりますが、この専門家への報酬が高額になる可能性がある点がデメリットの一つです。
費用の目安としては、信託する財産の価額や契約内容の複雑さによって大きく変動しますが、一般的には30万円から100万円以上かかるケースも珍しくありません。特に、財産の種類が多岐にわたる場合や、複雑な承継の希望がある場合は、その分専門家の作業量も増えるため、費用も高くなる傾向にあります。
【回避策】このデメリットを回避するためには、まず複数の専門家から見積もりを取り、料金体系を比較検討することが重要です。単に費用が安いという理由だけで選ぶのではなく、家族信託の実績が豊富で、かつ自身のケースに専門性を持っているかどうかも見極める必要があります。また、専門家によっては費用体系が不明瞭な場合もあるため、事前に何にどれくらいの費用がかかるのか、明確な説明を求めるようにしましょう。家族信託にかかる費用を、将来的な資産凍結による機会損失や、家族間のトラブルを未然に防ぐための「保険」として捉える視点も大切です。
■デメリット2:手続きが複雑で自分で行うのは難しい
家族信託の手続きは、単に契約書に署名すれば良いという単純なものではありません。非常に多岐にわたる専門的なステップを踏む必要があり、ご自身だけで全てを滞りなく行うのは極めて難しいと言えます。
具体的な手続きとしては、まず家族の状況や将来の希望を細かくヒアリングし、それに合わせた信託契約書をオーダーメイドで設計する必要があります。次に、その契約書を公証役場で「公正証書」として作成する手続きがあり、金融機関での専用口座(信託口口座)の開設、さらには不動産を信託財産に含める場合には、法務局での「信託登記」も必要です。
【回避策】これらの複雑な手続きをミスなく、かつ法的に有効な形で行うためには、やはり専門家のサポートが不可欠です。インターネットや書籍で得た情報だけで自己判断し、安易にDIY(自作)しようとすると、信託契約が無効になったり、内容に不備があって後々家族間でのトラブルの原因になったりするリスクが非常に高くなります。専門家は法律や税務の知識はもちろん、実務経験も豊富ですので、安心して手続きを任せることができます。費用はかかりますが、長期的な視点で見れば、専門家に依頼することこそが最も確実で安全な回避策と言えるでしょう。
人間関係に関するデメリットと回避策
家族信託は、大切な財産を扱う制度であるがゆえに、家族間の感情的な対立や不信感を生み出すリスクも潜んでいます。財産の管理を任される受託者にかかる負担や、他の親族との間で生じる軋轢など、金銭的な問題だけでは測れないデメリットも考慮しなければなりません。ここでは、そうした人間関係に関する家族信託の注意点と、その回避策について解説します。
■デメリット3:受託者(財産を託される人)の負担が大きい
家族信託において、財産の管理・運用を任される「受託者」は、非常に大きな責任と精神的・時間的な負担を負うことになります。受託者は、信託契約の内容に従って財産を適切に管理・運用する「善管注意義務」や、受益者のために忠実に業務を遂行する「忠実義務」を負います。具体的には、信託財産の収支計算や記録の保管、不動産に関する各種手続き、さらには場合によって確定申告などの事務作業も発生します。これらの業務は専門知識を要することも多く、受託者が本業を持つ傍らでこなすのは決して容易ではありません。
【回避策】としては、まず信託を始める前に、受託者候補となる方へ家族信託の仕組み、受託者の役割と責任について十分に説明し、納得した上で引き受けてもらうことが不可欠です。また、信託契約に、受託者に対して信託財産から相応の報酬を支払う「受託者報酬」の条項を設けることも有効です。これにより、受託者の労力に報いるだけでなく、責任感を持って任務にあたってもらう動機付けにもつながります。さらに、万が一受託者が病気や事故などで任務を継続できなくなった場合に備え、あらかじめ信託契約で次の受託者となる「第二受託者」を定めておくことで、信託が滞りなく継続できるようにする対策も重要です。
■デメリット4:家族・親族間でトラブルになる可能性がある
家族信託は、家族の協力があってこそ成り立つ制度ですが、その設計や運用方法によっては、かえって家族間の不和の種になってしまうリスクも存在します。例えば、委託者と受託者だけで話を進め、他の兄弟姉妹など、特に将来相続人となる可能性のある親族に十分な説明や理解を得ないまま信託を組成した場合、「なぜ自分だけが知らされなかったのか」「特定の誰かだけが財産を自由にしているのではないか」といった疑念や不満が生じ、親族関係が悪化するケースは少なくありません。このような感情的な対立は、一度生じると解決が困難になりがちです。
【回避策】として最も重要なのは、「事前の情報共有と合意形成」を徹底することです。信託を組成する目的や内容、財産の管理・運用方針、そして各親族の役割や期待されることについて、関係する家族・親族が全員参加する場で時間をかけて丁寧に説明し、理解と納得を得るプロセスを絶対に省略しないでください。透明性を確保するため、信託契約に受託者が他の親族へ定期的に財産状況を報告する義務を盛り込むことも有効な対策です。また、第三者である専門家を交えて話し合いを進めることで、感情的になりがちな議論を客観的な視点で整理し、円滑な合意形成を促すことも効果的です。
■デメリット5:受託者による財産の使い込みリスクがある
家族信託では、受託者に信託財産の管理・運用に関する大きな権限が集中します。そのため、もし受託者が悪意を持っていた場合、信託財産を私的に流用したり、使い込んだりするリスクがゼロではありません。成年後見制度のように、家庭裁判所のような公的な監督機関が日常的に受託者の業務を監視するわけではないため、受託者の倫理観や良識に委ねられる部分が大きいのが家族信託の脆弱性と言えます。
【回避策】としては、制度的なチェック機能を設けることが非常に重要です。具体的には、信頼できる他の親族や専門家(弁護士、司法書士など)の中から、受託者の業務を監督し、不正がないかをチェックする「信託監督人」や、受益者の代理人として受託者の行為を監視する「受益者代理人」を選任し、信託契約に明記する方法が有効です。これらの監督役を置くことで、受託者への牽制となり、使い込みのリスクを低減できます。また、信託財産と受託者個人の財産を明確に区別するための「信託口口座」を利用し、財産を分別管理することも、使い込み防止の基本中の基本となります。これらの対策を講じることで、受託者の権限集中によるリスクを最小限に抑え、信託の安全性を高めることができます。
制度・税金に関するデメリットと回避策
家族信託のデメリットの3つ目のカテゴリーとして、制度上の制約や税金に関する注意点を見ていきましょう。家族信託は万能な節税策ではないことや、特有の税務上のルールがあることは、専門的で誤解されやすいポイントです。これらの点を正しく理解して、家族信託を検討することが大切です。
■デメリット6:直接的な相続税の節税効果はない
「家族信託をすれば相続税が安くなる」という誤解をされている方がいらっしゃいますが、家族信託を設定しただけでは、相続税の節税効果は直接的にはありません。信託財産は、委託者(当初受益者)が亡くなった時点で、通常の財産と同じように「相続財産」とみなされ、相続税の課税対象となります。
家族信託の主な目的は、あくまでも委託者の方の判断能力が低下した場合の「資産凍結の防止」や「円滑な資産承継」にあります。節税を目的とする場合は、家族信託とは別に、贈与税の非課税枠を活用した生前贈与を信託契約の中に盛り込むなど、他の相続税対策と組み合わせることで、結果的に節税につながる可能性があります。家族信託を検討する際は、その本来の目的と、節税策ではないことを正しく理解しておくことが重要です。
【判断基準】あなたの家は家族信託をすべき?具体的なケースで解説
ここまで家族信託のメリットやデメリット、そして他の制度との違いについて詳しく解説してきました。これらの情報を踏まえて、ご自身の家族にとって家族信託が本当に必要なのかどうか、具体的なケースで検討していくセクションです。家族信託が有効に機能する状況と、そうでない、あるいは他の制度の方が適している状況を比較しながらご紹介します。この情報を通じて、自身の状況を客観的に見つめ直し、最適な財産管理・承継の選択肢を見つけるきっかけとなれば幸いです。
家族信託の利用がおすすめなケース
家族信託は、すべての人にとって万能な制度ではありません。しかし、特定の状況下ではそのメリットが最大限に発揮され、非常に有効な解決策となります。具体的に、家族信託の活用が特に推奨されるのは、次のようなケースです。
まず、認知症になった後の資産凍結が心配な方で、不動産や預貯金などを一定額以上お持ちの方におすすめです。家族信託により、ご自身の判断能力が低下した後も、受託者が滞りなく財産を管理・運用できるようになります。次に、アパートや駐車場など、管理が必要な収益不動産を所有している方にも有効です。受託者が集金や修繕、契約更新といった日常的な管理業務を担うことで、安定した収益確保と不動産価値の維持が期待できます。
また、事業を経営しており、後継者への円滑な事業承継、特に自社株の承継を考えている中小企業のオーナー経営者にも家族信託は強力なツールとなります。経営権と受益権を分けることで、円滑な世代交代と現経営者の生活保障を両立できます。さらに、「自分の死後は妻に、妻の死後は子に」というように、二次相続以降の財産の行き先まで細かく指定したい方には、「後継受益者指定」という家族信託ならではの機能が役立ちます。そして、障がいを持つお子様の将来の生活を守るための財産管理の仕組みを作りたい親御様にとっても、家族信託は「親なき後問題」の確実な解決策となります。このように、家族信託は多様なニーズに対応できる柔軟性を持っています。
【事例で見る】家族信託の活用例
ここでは、家族信託が実際にどのように活用されているのか、具体的な事例を通じて見ていきましょう。
【事例1】収益アパートを持つAさんの認知症対策
70代のAさんは、都内に賃貸アパートを所有しており、その家賃収入を生活費に充てていました。長男と長女はどちらも独立していますが、Aさんは将来、自分が認知症になった場合にアパートの管理ができなくなることや、介護費用捻出のために売却が必要になった際に手続きが滞ることを心配していました。そこでAさんは、信頼できる長男を受託者、ご自身(Aさん)を受益者とする家族信託契約を締結しました。これにより、アパートの管理・運用権限は長男に移り、Aさんの判断能力が低下した後も、長男が滞りなくアパートを管理し、家賃収入をAさんの生活費や介護費用に充てることが可能になりました。もし将来、アパートの売却が必要になったとしても、受託者である長男が単独で手続きを進められるため、迅速に対応できるという安心感を得ることができました。
この事例のように、家族信託は、高齢化社会において不動産オーナーが抱える将来への不安を解消し、財産を有効活用するための有力な手段となります。家族が協力し合うことで、より安心で豊かな老後生活を送れる道が開けるのです。
家族信託が不要・他の制度を検討すべきケース
家族信託には多くのメリットがありますが、場合によっては大げさであったり、他の制度の方が適していたりするケースも存在します。不要なコストや手間を避けるためにも、次のような場合は家族信託以外の選択肢を検討することをおすすめします。
まず、財産が預貯金のみで、その金額もそれほど多くない場合です。このケースでは、遺言書を作成したり、生前贈与を活用したりする方が、手続きも費用もシンプルで十分な可能性があります。次に、財産管理を任せられる、信頼できる家族・親族がいない場合も、家族信託の利用は難しいでしょう。家族信託は受託者の善意と信頼関係の上に成り立つ制度であるため、適切な受託者が見つからない場合は、成年後見制度や専門職後見の利用を検討する必要があります。
また、家族・親族間の仲が悪く、信託の組成について合意形成が極めて困難な場合も、家族信託はトラブルの元になりかねません。家族間の不和がある状態で無理に信託を進めると、かえって亀裂を深めてしまうリスクがあります。最後に、すでに判断能力が低下してしまっている場合も、家族信託の組成はできません。家族信託は委託者が契約内容を理解し、判断できる「意思能力」があるうちにしか結べないため、この場合は成年後見制度の利用を検討することになります。
これらのケースでは、無理に家族信託を選択するのではなく、遺言、任意後見契約、成年後見制度など、ご自身の状況に合った別の制度を視野に入れることが重要です。
家族信託の始め方|手続きの6ステップと費用の目安
家族信託の利用を具体的に検討されている方に向けて、実際に手続きを開始するための実践的なガイドをここからご説明します。最初の相談から信託の開始までを、分かりやすく6つのステップに分けて解説いたします。また、各ステップで発生する費用の目安についても触れますので、家族信託全体の費用感を把握するための参考にしてください。
ステップ1:家族で話し合い、目的と内容を決める
家族信託の手続きにおいて、最初の、そして最も重要なステップは「家族会議」です。「なぜ家族信託を検討したいのか」「誰に、どのような財産を託したいのか」「最終的に財産をどのように承継させたいのか」といった、委託者となる方の想いや目的を、受託者候補となるお子さんや、その他相続人となる可能性のあるご家族全員で共有することが何よりも大切です。
この段階での率直な話し合いは、後に生じる可能性のある人間関係のトラブルを未然に防ぐための最大の防御策となります。ご自身の考えをしっかりと伝え、ご家族の意見にも耳を傾けながら、全員が納得できる形で進めていくことが成功の鍵となります。
ステップ2:専門家に相談し、信託契約書を作成する
家族での話し合いで基本的な方針が固まったら、次のステップとして司法書士や弁護士などの専門家に相談します。専門家は、ご家族の希望が法的に実現可能かどうか、税務上の問題は発生しないかなどを多角的に検討し、お客様にとって最適な信託の形を提案いたします。
専門家によるヒアリング内容に基づいて、ご家族の状況に合わせたオーダーメイドの「信託契約書」の案が作成されます。契約書の草案ができあがった際には、内容に漏れや誤りがないか、そしてご家族全員が改めてその内容を理解し、納得しているかを十分に確認することが重要です。
ステップ3:公正証書で信託契約を締結する
作成された信託契約書は、「公正証書」として作成することをおすすめします。私的な契約書でも家族信託は有効ですが、公証人が作成に関与する公正証書にすることで、いくつかの大きなメリットがあります。
まず、契約内容の法的な有効性が高まり、後々の争いを防ぐことができます。次に、公正証書の原本は公証役場に保管されるため、契約書の紛失や改ざんのリスクがありません。さらに、信託口口座の開設や不動産登記の手続きがスムーズに進むことが多いです。委託者と受託者が公証役場に出向いて手続きを行うのが一般的です。
ステップ4:信託口口座を開設し、金銭を移す
信託財産の中に預貯金が含まれる場合は、信託口口座を開設する手続きが必要になります。受託者は、信託契約書(公正証書)を金融機関に提示し、「委託者 〇〇 受託者 △△ 信託口」といった名義の専用口座を開設します。この口座を「信託口口座」と呼びます。
信託口口座に信託する金銭を移すことで、受託者個人の財産と信託財産が明確に区別(分別管理)され、財産の透明性が確保されます。ただし、すべての金融機関が信託口口座の開設に対応しているわけではないため、事前に確認が必要です。
ステップ5:不動産がある場合は信託登記を行う
信託財産に土地や建物などの不動産が含まれる場合には、法務局での信託登記が必要です。この登記では、不動産の所有権を委託者から受託者に移転し、その目的が「信託」であることを公示します。
この「所有権移転および信託登記」を行うことで、登記事項証明書(登記簿謄本)の所有者欄は「受託者 △△」と記載され、第三者に対しても信託の事実を主張できるようになります。この手続きは複雑なため、通常は司法書士に依頼するのが一般的です。
ステップ6:信託財産の管理・運用を開始する
金銭の信託口口座への移動や不動産の信託登記など、信託財産に関する名義変更の手続きがすべて完了した時点で、家族信託は正式にスタートします。この瞬間から、受託者は信託契約書に定められた権限と義務に基づき、受益者(当初は委託者ご本人である場合が多いです)のために信託財産の管理・運用を開始することになります。
具体的には、信託したアパートの家賃収入を信託口口座で受け取り、固定資産税などの支払いもそこから行い、財産の収支を記録していくといった業務が始まります。受託者としての責任をもって、しっかりと管理を行うことが求められます。
家族信託にかかる費用の内訳と相場
家族信託を組成するためには、いくつかの費用が発生します。ここでは、費用の内訳とその目安について具体的にご説明します。
- 専門家への報酬(コンサルティング・契約書作成料):信託財産の価額や契約内容の複雑さによって異なりますが、30万円~100万円以上が目安です。
- 公正証書作成費用:公証人手数料令に基づき、信託財産の価額に応じて数万円~十数万円程度かかります。
- 登録免許税(不動産の信託登記):土地の固定資産税評価額の0.3%(※期間限定の軽減措置。通常は0.4%)、建物の固定資産税評価額の0.4%です。
- 司法書士への登記手数料:不動産の信託登記を司法書士に依頼した場合、10万円~15万円程度が相場です。
これらの合計額が、家族信託を始める際の初期費用となります。ご自身の予算感を把握し、事前に専門家に見積もりを依頼することをおすすめします。
失敗しないための重要ポイント|信頼できる専門家の選び方

家族信託は、技術的な側面で法的に有効な契約書を作成するだけでなく、ご家族の関係性という人間的な側面で、皆様の合意を得て初めて成功すると言えるでしょう。特に、その両方をサポートしてくれる「信頼できる専門家」をいかにして見つけるかが、家族信託を円滑に進める上でのカギとなります。このセクションでは、信頼できる専門家を見極めるための具体的な選び方に焦点を当てて解説していきます。
最重要!家族・親族間で目的を共有し合意を得る
家族信託を成功させる上で最も重要なのは、ご家族・ご親族間での目的共有と合意形成です。どんなに優れた専門家が完璧な契約書を作成したとしても、ご家族の中に不満や疑念を持つ方が一人でもいれば、その家族信託は「失敗」に終わってしまう可能性が高いでしょう。
「なぜ家族信託をするのか」「誰に財産を託し、どのように管理・運用してほしいのか」「最終的に財産をどう承継させたいのか」といった委託者様のお気持ちや目的を、受託者候補となる方だけでなく、将来的に財産を承継する可能性のあるすべてのご親族に対して、時間をかけて丁寧に説明し、理解と納得を得るプロセスを絶対に省略しないでください。この事前の話し合いこそが、将来起こりうる人間関係のトラブルを避けるための最も確実なリスク回避策となります。
相談先はどこ?司法書士・弁護士・銀行など専門家の特徴
家族信託の相談先となる主な専門家や機関は、それぞれ特徴や得意分野が異なります。ご自身の状況や目的に合わせて、最適な相談先を選ぶことが大切です。
司法書士は、不動産の信託登記までワンストップで対応できるため、信託組成実務の中心的存在として多くの実績を持つ専門家がいます。弁護士は、ご親族間に争いの可能性がある場合や、契約内容が極めて複雑な場合に頼りになります。紛争の予防・解決のプロとして、法的な側面から手厚いサポートが期待できるでしょう。税理士は、家族信託に関わる税務(相続税、贈与税、所得税など)の相談に不可欠ですが、信託契約書の作成自体は司法書士や弁護士と連携して行うことが多いです。
一方、銀行や信託銀行は、商品化された信託サービスを提供しており、手軽に利用できるメリットがあります。ただし、オーダーメイドの自由度は低い場合もあります。また、資産管理会社が受託者になる商事信託を扱うケースもあります。これらの特徴を比較検討し、ご自身の状況に合った相談先を選びましょう。
家族信託に精通した専門家を見つけるのが成功のカギ
家族信託の相談先を選ぶ際は、単に司法書士や弁護士であれば誰でも良いというわけではありません。その専門家が本当に家族信託に精通しているかを見極めることが、成功へのカギとなります。
家族信託は比較的新しい分野であり、すべての専門家が詳細な知識や豊富な経験を持っているわけではないのが実情です。信頼できる専門家を見極めるポイントとしては、まずウェブサイトで家族信託を専門分野として大々的に掲げているかを確認しましょう。次に、具体的な取扱実績や解決事例を豊富に掲載しているか、そして家族信託に関するセミナーの開催や書籍の執筆実績があるかなども参考になります。
「相続専門」と「信託専門」は似ているようで異なる場合があるため、家族信託に関する専門知識と経験があるかをしっかりと確認することが重要です。
無料相談を活用して複数の専門家を比較検討する
最終的に依頼する専門家を決めるための具体的なアクションとして、まずは無料相談を積極的に活用することをおすすめします。多くの専門家事務所が初回無料相談を実施していますので、最低でも2~3か所の専門家と実際に会って話を聞いてみましょう。
その際にチェックすべきポイントはいくつかあります。第一に、専門家からの説明が分かりやすいかどうか。専門用語を並べるだけでなく、ご自身の状況に合わせて丁寧に解説してくれるかを確認しましょう。第二に、ご自身の話を親身に聞いてくれるか、そして人柄や相性が合うかどうかです。信頼関係を築ける相手でなければ、長期にわたる家族信託を任せるのは難しいでしょう。第三に、リスクやデメリットについてもきちんと説明してくれるかどうかも重要です。メリットばかりを強調するのではなく、起こりうる問題点も包み隠さず話してくれる専門家は信頼できます。最後に、明確な料金体系を提示してくれるかどうかも確認し、費用の透明性を確認してください。複数の専門家を比較検討することで、ご自身にとって最も信頼でき、安心して任せられるパートナーを見つけられるはずです。
家族信託に関するよくある質問(Q&A)
家族信託について、これまでの解説を踏まえてもなお残る具体的な疑問点に、Q&A形式でお答えします。家族信託は、一度組成すると長期にわたる制度となるため、運用中に発生する可能性のある疑問を解消しておくことは非常に重要です。ここでは、特に多く寄せられる質問を取り上げ、それぞれの疑問に対して簡潔かつ分かりやすく回答することで、皆さんが抱える不安の解消と、家族信託への理解をより一層深めるお手伝いをいたします。
Q. 受託者が先に亡くなったり、認知症になったらどうなりますか?
受託者に万が一の事態が起こった場合、信託の継続性が懸念されるのは当然です。このリスクに備えるため、家族信託の契約書には「第二受託者(後継受託者)」を定めておくことが非常に重要となります。第二受託者が適切に指定されていれば、最初の受託者が亡くなったり、認知症などで判断能力を失ったりした場合でも、信託財産の管理はスムーズに引き継がれ、信託の目的が損なわれることなく継続されます。信託契約を設計する際には、必ずこの後継受託者の指定について検討し、信頼できる人を指名しておくようにしましょう。
もし信託契約書に第二受託者の定めがない場合は、信託は当然には終了しませんが、新たな受託者を立てるための手続きが必要になります。具体的には、委託者と受益者全員の合意を得て新たな受託者を選任するか、それが困難な場合は家庭裁判所に受託者の選任を申し立てることになります。しかし、このような手続きは時間と費用がかかり、場合によっては関係者間の新たなトラブルに発展する可能性も否定できません。したがって、事前の備えがいかに重要であるか、ご理解いただけたかと思います。
Q. 一度結んだ信託契約は変更できますか?
家族信託契約は、一度締結した後でも原則として変更することは可能です。ただし、その変更には一定の条件が伴います。通常、信託契約の内容を変更するには、信託の当事者である「委託者」「受託者」「受益者」の三者全員の合意が必要とされます。これは、信託契約がこれら三者の信頼関係に基づいて成り立っているためです。
したがって、委託者である親御さんがお元気で、判断能力が明確にあるうちは、家族の状況の変化や法改正などに応じて契約内容を見直すことができます。例えば、信託財産の運用方針を変更したり、受益者を変更したりすることも、全員の合意があれば可能です。しかし、委託者が認知症などで判断能力を失ってしまった後は、委託者自身の意思表示ができなくなるため、契約の変更は極めて困難になるか、場合によっては不可能となることを理解しておく必要があります。このため、最初の信託契約を設計する段階で、将来を見越した柔軟性を持たせつつ、後悔のないよう慎重に内容を検討することが非常に重要です。
Q. 受託者に報酬を支払う必要はありますか?
受託者に報酬を支払うことは、必須ではありませんが、契約で定めることで支払うことが可能です。家族信託において、受託者が委託者の配偶者や子などの家族である場合、多くのケースでは無報酬とすることが一般的です。家族だからこそ、無償で財産管理の労を担うという考え方があるためです。
しかし、受託者となる家族は、信託財産の管理や運用に関して、法律に基づいた重い責任と多大な労力を負うことになります。預貯金の管理、不動産の賃料収入の管理、場合によっては確定申告まで、その負担は決して軽いものではありません。そのため、その労に報いる意味で、信託財産の中から受託者に対して報酬を支払う旨を信託契約書に定めることができます。報酬額は当事者間で自由に設定できますが、あまりにも高額な報酬を設定すると、税務上贈与とみなされたり、他の相続人から不当な財産移転であると疑われたりするリスクがあるため、社会通念上妥当な範囲に設定するのが賢明です。また、司法書士や弁護士などの専門家が受託者となる「法人受託者」や「専門職受託者」の場合は、当然ながら所定の報酬が発生します。
まとめ:リスクを正しく理解し、家族で納得のいく財産管理を
これまで家族信託について、その仕組みからメリット、そして「危険」と表現されるようなデメリットと回避策まで詳しく見てきました。
家族信託は、超高齢社会を迎える現代において、認知症などによる資産凍結を防ぎ、ご自身の想いを反映した財産管理や円滑な資産承継を実現するための非常に有効な手段です。特に、収益不動産をお持ちの方、事業承継を考えている方、障がいを持つお子様の将来に備えたい方など、特定のニーズを持つ方にとっては、他の制度では得られない柔軟性と確実性をもたらします。
しかし、その一方で、費用や手続きの複雑さ、受託者への負担、そして何よりも家族・親族間でのトラブルリスクや税務上の注意点など、無視できない「危険性」も確かに存在します。これらのリスクを事前に正しく理解し、適切な対策を講じることが、家族信託を成功させるための絶対条件と言えるでしょう。
家族信託を検討するにあたって最も大切なのは、ご自身の財産状況や家族構成、そして「将来、家族にどう生きてほしいか」というご自身の想いを明確にすることです。そして、その想いを信頼できる専門家とともに法的な形に落とし込み、何よりも家族全員で十分に話し合い、全員が納得できる合意を形成することです。このプロセスこそが、将来の「安心」と「家族の和」を守る最大の鍵となります。
本記事が、皆さんがご自身の状況に合わせた最適な財産管理・承継方法を見つけ、家族の未来のために前向きな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。


















