
この記事では、都市部と地方都市に増え続ける空き家問題について解説します。
また、不動産所有者を悩ませる空き家と税金についてや、空家を増やさないための解決方法もご紹介します。
深刻化する空き家問題の現状
空き家問題とは、日本中で増え続けている空き家にどう対応すべきかという問題です。
空き家問題には、具体的に次の2つの問題があるとされています。
①所有者の高齢化
②管理・活用方法の決まっていない空き家
日本では高齢化社会の進行とともに、今後空き家がますます増加していくと予想されています。
総務省の調査によると、現在のペースなら2028年には1,608万戸、2033年には1955万戸まで空き家が増加するとの予測です。
さらに問題となるのは、高齢化した所有者が亡くなった後、相続した所有者が空き家の管理・活用を考えなければならない点です。
空き家を放置すれば損傷が激しくなり、近隣の民家も巻き込んだ倒壊につながりかねません。
今後も空き家の増加が予想される中で、空き家問題を解消する根本的な解決手段をどう生み出していくかが課題です。
■参考リンク①:
総務省「平成 30 年住宅・土地統計調査」
■参考リンク②:
「【空き家問題の解決法】原因と対策、家をたたむ方法を解説」
■参考リンク③:
「空き家対策の実態は?活用方法や自治体が取り組む最新事例もご紹介」
そもそも空き家の定義とは
空き家の定義については、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家等対策特別措置法)によると、次の条件のどちらかに当てはまるものとされています。・1年以上人が住んでいない
・1年以上にわたって使われていない
2つの条件を判断する基準には、人の出入り、電気・水道・ガスの使用状況、物件の管理状況、所有者の利用実績などが加味されます。
さらに上記の条件を満たしたうえで、著しく危険な空き家、衛生上問題のある空き家、景観を損なう空き家、放置が不適切な空き家は「特定空家等」として認定されることがあります。
■参考リンク:
「空き家の定義とは?判断基準や特別措置、活用方法などをわかりやすく解説!」
空き家の種類について
空き家には、借り手が見つからない賃貸住宅や、買い手がいない売却用住宅なども含まれます。一般的に空き家というと老朽化した建物を想像しがちですが、実際には、
①賃貸用住宅 ②売却用住宅 ③二次的住宅(避暑・保養目的) ④その他の住宅 の4種類に分類されます。
総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、空き家のうち50.9%が「①賃貸用住宅」、41.1%が「④その他の住宅」となっており、賃貸用が最も多いことが分かります。売却用住宅や別荘などの二次的住宅よりも、空き家として残る賃貸用住宅が課題となっています。
空き家問題は過疎地域だけでなく、都市部でも深刻化しています。
地価が上昇している地域では売却が比較的容易ですが、そうでない地域では買い手がつかず、空き家として残りやすい傾向があります。特に、築年数が古くなるとリフォーム費用がかかるため、そのまま放置されることも少なくありません。
地方都市では空き家率がさらに高く、山梨県や長野県、高知県、徳島県などが特に多い地域として挙げられます。これは、地方では新築住宅が比較的安価で購入できるため、空き家を活用するよりも新築を選ぶ傾向が強いためと考えられます。
また、人口減少により空き家が増え続けているのも大きな要因です。
空き家問題が深刻化している要因
① 高齢化・人口減少
日本では少子高齢化が進み、高齢になった方は老人ホームなどの介護施設や高齢者住宅に移り住むケースが増えています。これによって、それまで高齢の方が暮らしていた家が空き家として残ってしまうことがあります。また、子どもの数も減っているため、親が高齢者住宅に移った後、その自宅で暮らす子どもがいないことも原因となります。
また空き家になるケースには、所有者が亡くなるパターンもとても多くあります。所有者が亡くなると、その人が所有していた土地や建物は子どもなどの相続人が相続することとなります。
しかし、子どもにはそれぞれの自宅や家庭がある場合、相続した家はそのまま放置することもあるようです。
② 相続問題
空き家問題の大きな要因のひとつが相続です。所有者が亡くなると、その家は相続人に引き継がれます。しかし相続人がすでに別の場所に住んでいる場合、空き家となってしまうことが少なくありません。また相続人が複数いると、誰が管理するのか、売却するのかそれとも賃貸に出すのかといった合意が得られず、放置されるケースもあります。
さらに相続登記をしないまま放置すると、相続人が増え続け、後に権利関係が複雑になり、売却や管理が困難になります。
2024年4月から相続登記の義務化が始まり、相続した不動産を速やかに登記しなければならなくなりました。空き家の管理や活用を円滑に進めるためにも、相続時に家の活用方法を早めに検討し、適切な対応を取ることが重要です。
③ 空き家の管理・活用をする難しさ
空き家の放置には税金が関係しており、建物がある土地は固定資産税等の優遇を受ける一方、解体後の更地は税負担が増えるためです。しかし2015年施行の「空き家対策特別措置法」により、特定空き家と判断される場合は優遇措置が適用されなくなりました。
固定資産税や都市計画税は空き家にも課税され、市街化区域では両税が義務となります。
住宅用地は特例で税負担が軽減されますが、健全な住宅が必要条件です。特定空き家の放置で優遇が失われ、課税額が約6倍に増える場合があるのです。
空き家問題の将来予測
空き家問題は、今後さらに深刻化すると予測されています。
国土交通省の推計では、2018年に349万戸だった「その他の空き家」が、2030年には470万戸に増加すると見込まれています。
この問題に対し、政府は「空家等対策の推進に関する特別措置法」を改正し、特定空き家への指導・勧告を強化。税制優遇の解除や行政代執行の仕組みを整え、空き家の適正管理を促しています。
また相続した空き家の売却時に3,000万円の特別控除を適用し、空き家放置を防ぐ施策も実施しています。
個人でできる対策として、早めの相続登記や不動産会社・自治体への相談が重要です。空き家バンクの活用、賃貸・売却の検討、リフォームや解体を視野に入れた土地活用なども有効な手段となります。
空き家を放置せず適切に管理・活用することで、資産価値を守るとともに、地域の空き家問題の解決にも貢献できるでしょう。
空き家を増やさないための7つの解決方法
もし自分が空き家を所有することになったとしたら、それを放置せずに活用する方法はないのでしょうか?
空き家問題がクローズアップされることで、各自治体でも空き家を増やさないためのさまざまな取組みが行われています。
解決法① 空き家対策特別措置法
この「空き家対策特別措置法」の具体的な内容として、自治体(市町村)による「空き家などについての情報収集」が挙げられます。たとえば、法律で規定する限度の中で、空き家などの調査をおこない、必要ならば、所有者などを把握するため、固定資産税情報の内部利用が可能になりました。また「空き家及びその跡地の活用」も施策のひとつです。
市町村による空き家やその跡地に関する情報の提供をはじめ、所有者に対しての適切な管理の促進、これらの空き家やその跡地を活用するための対策も実施しています。さらに、空き家などに関するデータベースの整備や法定協議会の設置なども「空き家対策特別措置法」の施策概要です。
このような空き家などの対策計画の策定状況などは、国土交通省のホームページに記載されています。以下、国土交通省・総務省による平成30年3月31日時点での調査報告を見てみましょう。調査対象は47都道府県、1741市区町村の1788団体、その回収率は100%です。
1.空家等対策計画の策定状況

上記の数字からもわかるように「既に策定済み」や「策定予定あり」を合計すれば、空家等対策計画の策定状況が全体の90%に上っています。市区町村の多くが空き家対策に尽力している証拠です。
2.特定空家等に対する措置の実績

この数字は、特定空き家などに対し、市区町村が実際に「助言・指導」「勧告」「命令」など、何らかの措置をおこなったものです。措置の対象物としては、主に住宅や非住宅、門や塀などの附属工作物、立木や擁壁などになります。
3.法定協議会の設置状況

「空き家対策特別措置法」における法定協議会とは、空き家対策の計画策定や変更、実施する集まりです。地域の空き家が「特定空き家」に該当するか否かの判断する場合、その情報提供や技術的なアドバイス、必要な援助を求めるといった協議をおこないます。
基本的に自治会や町内会の役員などを含む地域住民で構成されていますが、市区町村の議会議員や職員、司法書士や弁護士、建築士や宅地建物取引士、学識経験者など、さまざまな立場や職業の人たちが参加していることが大きな特徴です。
解決法② 空き家バンクの利用
空き家を活用する取り組みの中でもメジャーなのが「空き家バンク」です。これは、空き家を所有している人と空き家を利用したい人をマッチングさせるサービス。自治体が運営しており、登録料や利用料も無料なのが一般的です。また、リフォームが必要な場合は、その費用を補助する制度を設けている自治体も多くあります。
解決法③ 空き家管理サービスの利用
空き家は、管理する人が不在で長期間放置されることが問題です。そこで低料金で管理を任せられるのが、NPO空家・空地管理センターの「100円管理」です。月額100円という破格の金額で、月に1度、空き家を巡回してくれる良心的なサービスです。
同センターでは、さらに細かく管理をお願いしたい方のためのプランもありますし、その他民間の管理業者を利用するという選択肢を選んでもいいでしょう。
解決法④ 空き家の売却
空き家を所有しても、その建物や土地を使う予定がないのなら、売却するという方法もあります。不動産の売却は不動産会社とのやりとりが生じて面倒と感じるかもしれませんが、一度売却してしまえば、固定資産税などの税金の支払い義務もなくなります。また、買い手がつきづらい物件なら、空き家バンクを利用して売却することもできます。売却価格は低くなってしまいますが、そのまま空き家を放置していると生じる税金の支払いのような煩わしさから解放されることができます。
解決法⑤ NPO法人などによる活用サービスを利用する
空き家で困っているなら、NPO法人などのサービスを活用する方法もおすすめです。空き家問題に取り組むNPO法人にはさまざまなものがあり、住宅に合わせた解決方法を提案してくれることが期待できます。例えば、空き家を活用したい人と活用してほしい人をマッチングするサービスや、空き家に関する相談窓口、相続・税制・売却などのサポートをしてくれるサービスもあります。
また、賃貸用の住宅としての活用を提案してくれることもあり、何らかの形で空き家を活用したい方にも最適です。
自分の目的に合わせて、空き家問題専門のNPO法人などのサービスを活用しましょう。
解決法⑥ 空き家を解体する
空き家を売却する場合、老朽化の進んだ空き家と一緒に土地を売るより、解体して更地にして売った方が買い手がつきやすいです。購入者の立場になって考えたとき、購入後に空き家を解体するのは金銭的にも時間的にも大きな負担です。新築住宅を建てるにしても、解体費用が高くなれば、思うように建築を進められない可能性もあります。
そのため、空き家を増やさないように売却するには、所有者があらかじめ空き家を解体しておくことをおすすめします。更地にすれば高値でも購入者が早期に見つかりやすく、結果的として得になることが多いからです。
解決法⑦ 空き家の売却
住宅が比較的新しい場合は、空き家のままで売却する方法もよいでしょう。住宅は老朽化するほど価値が下がり、築20年を超えれば資産価値はほぼゼロになります。むしろ解体費用がかかる分、購入価格が下がる可能性が高いです。しかし比較的新しい建物であれば、一定の資産価値が期待できることに加え、購入者がリフォームを行うことも考えられます。
そのまま住むかリフォームするかは購入者の判断になるため、売ることそのものは障害になりません。
購入者のためにハウスクリーニングをしたり、不用品の廃棄をしたりする必要はありますが、空き家のまま売却するのも有力な選択肢になります。
まとめ
空き家を放置し続けると、さまざまなリスクがあることをご紹介しました。
万が一、自分が所有している空き家で火事や犯罪が起きてしまったら一大事。面倒だからと放置したままでは、いつそんなトラブルに巻き込まれてしまうかわかりません。
今は空き家を減らそうと各自治体が支援制度などを設けていますので、それらを利用することも検討してみてはいかがでしょうか。
売却を検討したり、手離す場合いくらで売れるのかなどが気になる場合は、信頼できる不動産会社に相談したり、査定を依頼してみるのもおすすめです。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。