今回は、借地権付き建物をはじめとして借地権について、メリットとデメリットを解説します。問題になることの多い借地権の対抗要件についても併せて解説していきます。
目次
借地権とは一体何?
借地権とは、建物を所有するために土地を借りて使用する権利です。
借地権における最大の特徴は、購入した土地と比較した場合、その土地や建物に対する権利や自由度にさまざまな制限がかかる点です。そもそも借地の権利は、地主が持っています。
地主とは土地の所有者を指し、借地人と呼ばれる土地の借主は、賃借契約で定められた地代を地主に払わなければなりません。
借地に建物を立てた際、建物の権利は借地人にありますが、土地の権利は地主のままです。そのため、建物を建設するときや立て替えるときは、地主の許可や連絡が必要になります。
また借地に建てた建物を売却するときも、地主の承諾が必須です。さらに借地には、契約期間が設けられており、借地権の契約を更新しなければ、土地を更地に戻し、地主へ返却する義務が生じます。
借地権の契約更新は可能?
地主から土地を借りることで得た借地権には、契約期間があります。前述したとおり、賃借の契約期間が満了し、契約更新をおこなわないときは、該当する土地を更地に戻した状態で地主へ返還しなければなりません。しかし、地主と借地人の双方に問題がなければ、借地権の契約更新が可能です。1992年以前の借地法(旧法)で土地を借りている場合、地主に正当な理由がある以外、基本的に契約が半永久的に自動更新されます。
1992年以降に施行された普通借地権や定期借地権などの借地借家法で土地を借りている場合、契約期間が法律で定められているため、それぞれ借地権の種類に応じた契約の更新が必要です。
借地権の種類について
借地権は1992年に成立した借地借家法に基づく契約か、それともそれ以前の旧借地法に基づく契約かによって内容が大きく変わります。さらに借地借家法に基づく借地権は5つに細分化されています。
①借地法(旧法/旧借地権)
1992年8月より前からも土地を借りている場合は旧借地法に基づく借地権となります。旧借地法においては、借地上に立つ建物の構造によって借地権の存続期間が変化します。借地上の建物が木造などであれば20年、鉄骨造や鉄筋コンクリート造など堅固な建物では30年存続します。この期間は最低存続期間となります。これを下回る期間を定めた場合、その定めは無効となり、最低存続期間を定めたこととなります。
契約時に存続期間を定めなかった場合、木造などでは30年、鉄骨造などでは60年が存続期間とされます。
賃借権は更新することができます。しかし、貸主の側から契約の更新を拒絶するには正当な事由が必要となります。これにより原則として借主が拒絶しない限り借地権は更新されていくものになります。
②借地借家法(新法)
1992年8月以降に土地を借りている場合の借地権は、借地借家法の適用を受けます。借地借家法に基づく借地権は次の5つに分けられます。②-1 普通借地権
普通借地権とは、旧借地法の内容をベースとした借地権です。旧借地法に基づく借地権との最も大きな変更点は存続期間にあります。存続期間は構造にかかわらず最低30年とされ、更新後の期間は1回目の更新で20年以上、2回目以降では10年以上とされています。更新も貸主に正当事由がない限り拒否できませんし、契約の終了時には賃借人が土地上に建てた建物の買い取り請求も可能です。
②-2 定期借地権(一般定期借地権)
定期借地権とは、更新のない借地権です。その中でも一般定期借地権は更新がない代わりに存続期間が50年以上と長期になります。ただし、契約の終了時土地上に残った建物を買い取ってくれと請求することができず、土地は更地にして返還することになります。なお、一般定期借地権は書面によってしなければ契約が成立しません。
②-3 事業用定期借地権
事業用定期借地権は、専ら事業に供する目的で建物を所有する場合の定期借地権です。居住用としては利用できません。存続期間は10年以上50年未満とされていますが、2007年12月31日までになされた契約の場合は10年以上20年以下の期間となります。事業用定期借地権は厳格な様式が要求されるため公正証書によって定めなければなりません。
②-4 建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権は、契約期間の満了時に土地上の建物を貸主が買い取るという特約を付けて結ばれる借地権です。契約期間は30年以上とされています。契約方式については特に定めがないため書面でする必要もありません。②-5 一時使用目的の借地権
一時使用目的の借地権とは、工事のために仮設のプレハブ小屋を建設するなど一時的に土地を使用する場合に利用される借地権になります。あくまで一時的なものなのでおおむね10年以下という短期間でのみ認められており、契約の更新もありません。契約方式についても制約はありません。
借地権の特徴
土地の所有者から土地を借りる権利が借地権です。具体的な特徴には、どのような点が挙げられるのでしょうか?
また、契約更新ができるか否かも気になるポイントになります。ここでは、借地権の特徴や契約更新について見ていきましょう。
借地権の特徴とは
借地権における最大の特徴は、購入した土地と比較した場合、その土地や建物に対する権利や自由度にさまざまな制限がかかる点でしょう。そもそも借地の権利は、地主が持っています。地主とは、土地の所有者を指し、借地人と呼ばれる土地の借主は、賃借契約で定められた地代を地主に払わなければなりません。
借地に建物を立てた際、建物の権利は借地人にありますが、土地の権利は地主のままです。そのため、建物を建設するときや立て替えるときは、地主の許可や連絡が必要になります。
また、借地に建てた建物を売却するときも、地主の承諾が必須です。さらに借地には、契約期間が設けられており、借地権の契約を更新しなければ、土地を更地に戻し、地主へ返却する義務が生じます。
借地権付き建物のメリットとは?
【メリット①】土地に関する税金を払わなくてもよい
借地権が付いた建物の場合、固定資産税や都市計画税といった土地に関する税金を支払う必要はありません。都心部になれば土地の税金が高くなるため、これが大きなメリットになります。土地の所有者は、借地権者(借主)に土地を貸している借地権設定者(地主)であり、土地に関する納税義務は借地権設定者にあるからです。
【メリット②】購入するよりも安い
借地権付き建物は、土地の所有権が付いた建物と比較した場合、同じような条件の物件であっても割安で購入することができます。一般的に借地権付き建物の販売価格は、所有権付き建物の70%~80%程度が相場です。都心や駅前などの地価が高い人気エリアの物件を相場以下で購入できる点は、魅力的なメリットといえるでしょう。
【メリット③】法律によって保護されている
借主が持つ借地権は、法律によって手厚く保護されています。これは借主が建物を所有することが目的で土地を借りた場合、旧借地法や借地借家法によって一定の権利が守られるものです。定期借地権を除き、地主の都合で借主に対して立ち退きを求めるならば、正当な理由が必要となるうえ、容易に認められることはありません。
【メリット④】長期間土地を借りられる
土地を長期間借りられることも、借地権付き建物のメリットです。借地権には存続期間が決められているため、将来的に返還しなくてはなりません。しかし旧借地権や普通借地権であれば、契約更新が可能です。地主に正当な理由がない限り、事実上半永久的に土地を借りられることから、所有権とあまり変わらないようになります。
借地権付き建物のデメリット・注意点
借地権付き建物は土地の部分が所有権ではなく借地権になります。そのため、所有権の場合とは異なったデメリットが生じます。
【デメリット①】銀行からの融資が受けづらい
不動産の購入にあたっては多くの方が金融機関から融資を受けることになります。その場合購入する土地や建物を担保にして融資を受けるのですが、借地権は担保的価値が小さく、思うように融資を受けられないこともあり得ます。【デメリット②】土地の所有者ではないので自由度が低い
借地権付き建物は、借主の自由に売却や増改築ができません。これは土地の所有権が地主のものであるため、事前に地主の承諾を得なくてはならないからです。増改築の規模によって、承諾費用が必要になることもあります。【デメリット③】常に地代がかかる
借地権は毎月地代が発生します。固定資産税等を負担する必要がないとはいえ、自分のものではない土地にお金を払い続けることに抵抗を感じる場合はこの点がデメリットに感じられることでしょう。【デメリット④】更新料が発生する場合がある
借地権付き建物は、借地権の更新時に更新料が発生する可能性もあります。本来、借地権の更新料に法的な支払い義務はありません。しかし「地主と借主が合意している」「地域の習慣」などから、賃貸借契約と同じく更新料を支払うことが一般的な考え方とされています。
更新料の金額は地主によって異なりますが、借地権価格の5%前後が相場です。更新料の支払いを拒否すれば、契約解除や延滞料金の請求といったリスクが生じます。
借地権によくあるトラブル
地主と借主が借地権を巡り、トラブルが起こることも少なくありません。
具体的には、どのような問題が発生するのでしょうか?
ここでは借地権の相続・売買・更新など、よくあるトラブルとその注意点をご紹介します。
【トラブル①】借地権相続に関するトラブル
法的に、借地権の相続に地主の承諾は不要です。しかし「名義変更料や承認料の要求」「立ち退きの要求」「地代の値上げ」など、地主が何らかの権利を主張してくることがあります。原則として、立ち退きの要求や地代の値上げに応じる必要はありません。名義変更料や承認料を要求された場合、状況に応じて地主と交渉しましょう。
【トラブル②】借地権の売買に関するトラブル
借主が借地権を譲渡する場合、必ず地主に事前承諾を得る必要があります。その際「譲渡承諾料が高すぎる」「承認してくれない」などのトラブルが生じる可能性があります。基本的に、地主としっかり話し合うことが解決の糸口です。しかし地主が理由もなく譲渡に反対するようであれば、裁判所に譲渡許可を求めることができます。
【トラブル③】借地権の更新に関するトラブル
一般的には借地権の契約満了に伴い、更新料を支払うことで契約が更新されます。しかし、地主の都合から契約更新を拒否される可能性も少なくありません。契約更新が認められている旧借地権や普通借地権と異なり、契約期間が定められた定期借地権の場合、法律上契約更新が認められていないため、十分な注意が必要です。
借地権の対抗要件とは?
不動産は対抗要件を備えていなければ他人に自己の権利を主張することができません。その際に必要な要件を対抗要件といいます。対抗要件が問題とされる主な場面は、地主が第三者へ土地を売却したときです。対抗要件を具備しておかなければ地主が別人となった場合、その土地の賃借権を新しい地主に主張することができなくなるのです。
基本的に不動産における対抗要件は登記となるのですが、建物所有を目的とする借地権の場合、土地上の建物について登記していれば、それをもって借地権についての対抗要件とすることができます。また、仮に建物が滅失しても、その土地上に掲示しておくことで2年間は対抗力が維持されます。
借地権の相続はできる?
借地権とは、地主と契約した借地人が土地を借りる権利です。しかし、借地権を持つ借地人が亡くなり、相続が発生した場合、この権利を相続人が引き継ぐことは可能なのでしょうか?
結論からいえば、借地権の相続は可能です。具体的には、被相続人(借地権を有していた亡くなった人物)の配偶者や子どもといった法定相続人であれば、土地の所有者である地主の許可を得なくても、借地権を引き継ぐことができます。原則的に地主へ相続の事実を連絡するだけで済み、複雑な手続きも必要ありません。
ただし、相続する人物が法定相続人以外であれば、話が変わります。それが遺贈によって、配偶者や子どもではない第三者が借地権を相続するケースです。この場合、第三者へ借地権を譲渡することになるため、地主の許可を取り、承諾料を支払う必要があります。
また、借地権の相続後、借りた土地にある建物を増改築するときなどは、地主の承諾を得なければなりません。さらに、財産価値がある借地権には、相続税の課税対象となるため、借地権を相続する際は、十分に注意しましょう。
地主が土地を売却した場合どうなる?
借地権付き建物が建つ土地の権利は、地主のものです。借主は旧借地権・普通借地権・定期借地権に基づき、土地を借りる権利と建物の所有権を持っていることになります。
それでは地主が借地権付きの土地を第三者へ売却した場合、借地権はどうなるのでしょうか?
原則的に借主の承諾を得なくても、地主は土地を第三者に売却できます。そのため借主が土地を譲渡された第三者に対し、借地権を主張できるか否かは、十分に揃えられた対抗要件の順序によって決まることが一般的です。
対抗要件とは、すでに当事者間で成立している法律関係や権利関係を当事者以外の第三者に対抗する法律的な要件であり、分かりやすく表現すれば、主張するための条件となります。
このケースにおける借主の対抗要件は「地上権あるいは賃借権設定登記の具備(民法177条、民法605条)」あるいは「借地上に登記されている建物を所有するか(借地借家法10条1項)」です。
また借地借家法が施行前に借地上に登記された建物を所有しても、借地借家法附則2条、4条の対抗要件として認められます。
借地権を取得する際はその性質を充分に理解するべき
借地権と所有権は土地を使用することができるという点では共通していますが、借り物の土地か、それとも自分の土地かという点で大きく異なります。
借地権には費用を抑えて土地を利用することができるなどメリットがある反面、一定の制約も存在しています。
借地権という選択をするのであれば、所有権を選択した場合とのそれぞれのメリットとデメリットを比較し、両者の違いについて理解しておくことが重要でしょう。
監修者
大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。