
そして、任意売却のメリット・デメリット、その具体的な流れを詳しく解説します。さらに、任意売却の主だった注意点と対処方法も集めてみました。
任意売却と競売
住宅ローンの返済が困難になった場合「任意売却」や「競売」を検討することがあります。そもそも任意売却や競売とは、どのような売却方法なのでしょうか?ここでは、それぞれの仕組みや必要条件など、概要を解説していきます。
任意売却とは
「任意売却」とは、一定の条件を満たした債務者(融資を受けた不動産所有者)が不動産を売却し、残りのローンを返済する方法です。主な必要条件には、債権者(融資した銀行など)の合意、共同名義人や連帯保証人の同意、売却活動の時間(期間)確保などが挙げられます。競売とは
「競売」とは、債権者が抵当権のついた債務者の不動産を売却し、強硬的にローンの残りを回収する法律に基づいた売却方法になります。抵当権とは、債務者が債権者から融資を受けるとき、土地と建物を担保に入れることです。つまり、債務者が住宅ローンを払えなくなった場合、債権者が担保とした該当の不動産を抵当権の実行によって売却することが競売になります。
任意売却にかかる費用
実際に任意売却をおこなう場合、どのような費用が、どれほど必要になるのでしょうか?ここからは、任意売却にかかる費用の内訳と計算方法をご紹介します。
費用の内訳
任意売却の費用は、基本的に通常売却とほぼ変わりありません。その主な内訳としては、不動産会社に支払う仲介手数料、抵当権の抹消費用、売買契約書に必要な印紙代です。また、別に引っ越し費用、不動産の解体費用や測量費用がかかることもあります。計算方法
任意売却によって、売値が2,000万円になった不動産を例に、その費用を計算してみましょう。あくまでも概算なのですが、仲介手数料(売却価格×3%+6万円+消費税10%)が726,000円、抵当権の抹消費用が20,000円、売買契約書に必要な印紙代が10,000円となるため、合計756,000円になります。
任意売却のメリット・デメリット

一般的な売却とさほど変わらない任意売却なのですが、検討するときに知っておきたい特徴があります。ここからは、任意売却のメリット・デメリットを見ていきましょう。
任意売却のメリット
任意売却をおこなえば、競売よりも売却価格が高くなる傾向にあります。競売の場合、市場相場の70%程度といわれていますが、任意売却の場合、市場相場と同様の金額で売却できることが大半です。また、債権者と交渉し、残ったローンの返済方法を決めることができます。さらに、交渉次第では、売却に必要な諸費用や引っ越し費用を融通してもらうことが可能です。任意売却は、通常売却とほぼ変わらないことから、ローン返済を滞った経済事情を近隣や職場などに知られる可能性も少ないでしょう。
任意売却のデメリット
債権者の合意(許可)を得られない限り、任意売却をおこなうことができません。売却価格の決定権は、抵当権を持った債権者にあるため、債務者が自由に売却価格を決めることもできないようになっています。債権者の合意と同じく共同名義人や連帯保証人の同意も必要です。また、任意売却の活動期間には、タイムリミットがあることから時間との勝負になります。さらに、詐欺を目的とした悪徳業者もいるため、依頼する不動産会社の選定には、細心の注意を払わなければなりません。
任意売却の流れとは
実際に任意売却をおこなう場合、その始まりから終わりまで、どのような手順になるのでしょうか?ここからは、任意売却の前に必要な準備、任意売却による販売手続きから売却完了までの具体的な流れをわかりやすく解説します。
任意売却前の準備
任意売却をおこなうためには、事前の準備が必要です。まずは、該当する不動産の価格査定をおこない、売却額を算出します。同時に融資を受けた金融機関などから住宅ローンの残高証明書を所得し、売却額と照らし合わせ「オーバーローン」か「アンダーローン」かを確認しなければなりません。オーバーローンとは、ローンの残高が売却額よりも多い状態を指し、アンダーローンとは、ローンの残高が売却額よりも少ない状態を指したものです。ここで、通常売却・任意売却・競売、どの売却方法を選択するのか、しっかりと検討します。任意売却をおこなうケースは、オーバーローンのときです。また、任意売却の前に一時的にローンの返済期間を延長し、月々の返済額を減らす「リスケジュール」という返済条件の見直し、実施があります。それでも返済が困難であれば、債権者に任意売却を打診することになるのです。
任意売却による手続き開始から売却完了まで
任意売却による手続き開始から売却完了までの大まかな流れは、以下のようになります。1.債権者との交渉~合意
2.該当物件の販売開始
3.買主が決まる
4.債権者による売買金額の承認~売却額の配分調整
5.売買契約の締結~該当物件の引き渡し
基本的に債権者との交渉は、該当物件の所有者と専任媒介契約を結んだ不動産会社がおこないます。債権者と該当物件の売却価格を協議し、債権者の同意を得ることができれば、該当物件の販売開始です。ここから買主が決まるまでの流れは、通常売却と変わりがありません。
買主が見つかり、債権者が売却額を承認すれば、その売却額の配分調整をおこないます。任意売却では、債権者が複数いる場合、売却額の配分を自分たちで決めなければならないからです。売却額の配分調整が決まれば、通常売却と同じ売買契約の締結を済ませ、該当物件を買主の引き渡したら任意売却の完了となります。
任意売却の注意点と対処方法
任意売却をおこなうときに、債権者との交渉難航、該当物件が売れない、売却後の残債といった問題が考えられます。ここからは、そんな任意売却の注意点と対処方法を見ていきましょう。
債権者から合意が得られない
債権者の合意が容易に得られないことが考えられます。主な理由としては、債権者の立場からすると、少しでもリスクを避けたいため、該当物件をできるだけ高い価格で売却したいからです。任意売却において、債権者との交渉が最大の鍵となることから、知識と経験、交渉術に長けた信頼できる不動産会社を選ぶようにしましょう。
売却価格の設定の問題で売れない
債権者の希望から売却価格の設定が高すぎるため、該当物件が売れ残るケースもあります。もしも期限内に売れない場合、任意売却が不成立になる可能性も否めません。債権者には、信憑性のある査定価格や市場相場の妥当性をしっかりと訴え、現実的な価格設定を認めてもらうことが重要です。任意売却で残債が残る場合がある
該当物件が任意売却できたとしても、住宅ローンが残ってしまう場合があります。いわゆる「残債(ざんさい)」と呼ばれるものです。この残債も支払う義務があるため、その返済方法を債権者と協議しなければなりません。基本的に月々無理のない返済額を設定してくれます。交渉のときには、債権者に対し、誠意ある対応を心がけてください。
任意売却の秘訣は注意点と対処方法を知ること
今回の記事では、任意売却の概要や流れを解説しました。住宅ローンの返済が滞り、一定期間を過ぎてしまえば、債権者が抵当権を実行し、該当物件を競売にかけます。競売にかけられてしまえば、市場相場よりも低い価格で売却される可能性が高いうえに、残債の一括返済を要求されるなど、かなり苦しい状況に立たされるかもしれません。
最悪の場合、自己破産も検討しなければいけなくなります。そのような事態を回避するためにも、任意売却のメリットとデメリット、注意点と対処方法を踏まえ、信頼できる不動産会社を選定し、早めの準備、手続きをおこなうようにしましょう。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。