
はじめて委任状を目にした際は、記載方法がわからず戸惑うことでしょう。
この記事では、抵当権抹消登記の申請に用いる委任状について解説します。
目次
そもそも抵当権抹消登記とは?
抵当権の抹消登記とは、その名の通り抵当権を抹消させるための登記です。
住宅ローン等を借り入れするために設定した抵当権はそのローンを完済したあとも自動では消えないため、抵当権抹消登記が必要となるのです。
すでに役割を終えた抵当権を放置していてもローンが復活することはありませんが、権利関係が複雑化するなど問題の発生する可能性があります。
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抵当権抹消登記とは? 必要書類や自分で手続きする方法、費用について徹底解説!
手続きを司法書士に依頼する
司法書士へ抵当権抹消登記依頼する場合、委任状が必要になります。司法書士に依頼することで、申請書の作成と法務局への提出といった面倒な手続きをすべて任せることができます。
また、登記は厳格な手続きが要請されており、添付書類に不備などがあると登記が受理されなかったり、正しい登記ができないこともあります。
そういった諸問題の発生を防止することができるのも、司法書士へ依頼するメリットです。ただ、司法書士へ登記を委任した場合には報酬の支払いが生じます。
抵当権抹消登記に委任状が必要な理由とは?
抵当権抹消登記には基本的に委任状が必要となります。
なぜ委任状が必要かといえば、行った登記が本当に本人の意思に基づくものであるかを証明するためです。
もし、抵当権抹消登記の申請に委任状が不要とされてしまうと、第三者がいたずらに他人の抵当権を抹消してしまうことができますし、債務者が債権者に無断で抵当権抹消登記をしてしまう可能性もあるからです
【手続きをする人別】抵当権抹消登記に用いる委任状の書き方・注意点
それでは、本題ともいえる抵当権抹消登記に必要な委任状の書き方について確認していきます。
基本的に委任状に難しい部分はないため、ルールを理解し、落ち着いて作成すれば間違いなく正しい委任状が作成できます。
まずはローンの完済時に金融機関から受け取る委任状を確認してください。このとき特に重要なのが記入欄の確認です。
銀行から送付される委任状には、あらかじめ記入されている項目と、手続き者が記載しなければならない空欄が存在します。
例えば「委任者の名称」「住所」「登記申請日」などが空欄のままになっているケースも多く、記入漏れや記載ミスがあると、法務局での手続きがスムーズに進まないおそれがあります。
そのため、送付された書類を受け取ったら必ず、空欄の有無、委任者名の正確性、押印の有無、日付の記載状況を確認しましょう。特に金融機関が記入済みの内容に誤りがある場合は、自分で修正せず、必ず銀行側に問い合わせて差し替えてもらう必要があります。
委任状の内容が適切に整っていると確認できれば、その後の記載方法は、自分で登記を行うか司法書士に依頼するかによって異なります。
1:自分で登記抹消手続きをする場合
自分で抵当権抹消登記の手続きを行う場合、委任状は「金融機関→自分」という形式になります。金融機関が委任者、自分が受任者となるため、基本的に自分の名前や住所を記入し、登記申請日や申請する法務局の情報を記載します。このとき、金融機関が押印した印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)が添付されているかも忘れず確認しましょう。記載ミスや記入漏れがあると法務局で受付されないため、慎重に記載することがポイントです。
また法務局に提出する際は委任状の原本を添付しなければならないため、コピーではなく原本を使用してください。
2:司法書士に手続きを依頼する場合
司法書士に手続きを依頼する場合、委任状は「金融機関→司法書士」の形式になります。金融機関から渡される委任状には、すでに司法書士の名前が記入されていることもありますが、記載がない場合は司法書士の氏名・住所などを記入する必要があります。また依頼者である自分が司法書士に対して委任する形式の委任状(私→司法書士)を別途用意する必要が出てくることもあります。
どちらの書類も不備があると手続きが滞るため、金融機関と司法書士の両方に確認をとることが大切です。書類が揃えば、以降の手続きは司法書士が代理で進めてくれるため安心です。
3:配偶者に手続きを依頼する場合
配偶者に手続きを依頼する場合、委任状は「金融機関→配偶者」となります。書き方は基本的に自分で手続きをする場合と同様で、配偶者が受任者として記入します。このとき注意すべき点は、配偶者の氏名・住所を正確に記入すること、また受任者が誰かがはっきりわかるようにしておくことです。
さらに金融機関が用意する委任状以外に「本人→配偶者」の委任状を追加で作成する必要があるケースもあるため、念のため金融機関に確認しましょう。
法務局では、受任者(この場合は配偶者)の本人確認書類が必要になる場合もあるため、事前に準備しておくと安心です。
抵当権抹消登記の委任状にかかる費用はいくら?
登記は、申請すると登録免許税という手数料が発生します。抵当権抹消登記にかかる登録免許税は1件につき1,000円です。
たとえば、土地と建物それぞれに抵当権が設定されている場合は合計2,000円となります。
抵当権の抹消登記だけであればそこまで高い費用が発生するわけではないため、金融機関から書類が届いたらすぐに抵当権抹消登記を行うようにしてください。
なお、司法書士へ依頼する場合はそこへ司法書士への報酬が発生するため、1万円から2万円前後の費用が余分にかかります。
抵当権抹消登記における委任状に関するポイント

抵当権抹消登記の手続きでは、金融機関(抵当権者)からの委任状が重要な書類のひとつです。この委任状がなければ、登記申請を進めることができません。
委任状は一見シンプルに見えますが、記載内容や印鑑、記入方法に注意を払わなければ手続きが滞るおそれがあります。ここでは、抵当権抹消登記における委任状の注意点や対応方法を解説します。
注意① 再発行できるが時間がかかる
委任状を紛失してしまっても、金融機関に依頼すれば再発行は可能です。ただし発行には数日〜1週間以上かかることもあり、書類の再送付には本人確認書類の提出が求められることがあります。
スムーズな登記申請を行うためにも、委任状は受け取った時点で大切に保管し、提出までの流れを見越して余裕を持って準備しておくことが大切です。
注意② シャチハタ印鑑は使えない
委任状に押印する印鑑は、シャチハタのような簡易印では無効とされます。登録された実印または銀行届出印など、公的に認められた印鑑である必要があります。また印鑑証明書が添付されている場合は、その印鑑と委任状の印影が一致していることが重要です。印影が不鮮明な場合や不一致が見られる場合、法務局で受理されないこともあるため、押印には十分注意しましょう。
注意③ 記載内容が現在と異なる場合は変更登記が必要
委任状に記載されている住所や氏名が、登記簿上の情報と異なっている場合は、そのままでは登記が受理されない可能性があります。たとえば引っ越しや結婚などで住所や氏名が変わった場合には、抵当権抹消登記の前に「変更登記」が必要です。
変更登記には別途書類が必要になるため、事前に法務局または専門家に相談し、登記情報と一致しているか確認しておきましょう。
注意④ 共有不動産の変更登記には名義人全員の委任状が必要
対象不動産が共有名義の場合、抵当権抹消登記に関する委任状も名義人全員分が必要です。たとえ抵当権が共有者のうち1名に関するものであっても、法務局では全名義人の意思確認を求められるケースがあります。そのため委任状や印鑑証明書を全員分そろえる必要があり、関係者の協力が不可欠です。代表者1名に手続きを任せる場合でも、全員の委任状がそろっていなければ登記申請はできません。
書き方がわからない場合の相談窓口はある?
抵当権抹消登記の委任状や必要書類の書き方がわからない場合は、まずは最寄りの法務局にある「登記相談窓口」を活用しましょう。
法務局では無料で相談できる窓口を設けており、担当職員が書類の書き方や記載方法について丁寧に説明してくれます。事前予約が必要な場合もあるため、訪問前に電話で確認するとスムーズです。
また、自治体によっては、市役所や区役所で定期的に開催されている「法律相談」や「登記相談会」も利用できます。不動産の専門家や司法書士が相談に乗ってくれるケースもあります。
さらに登記手続きに不安がある場合は、司法書士へ直接依頼するのも選択肢のひとつです。費用はかかりますが、書類の作成から申請までを一任できるため確実で安心です。
不明点を自己判断で進めると手続きが滞る原因になるため、困ったときは積極的に専門機関を頼りましょう。
まとめ
抵当権の原因となったローンを完済すれば抵当権は消滅しますが、登記をしなければ正式には抹消されません。実務上、抵当権抹消登記がないと新たな融資を受けられず、売却もしにくくなります。そのため、物件の本来の価値を活かすには抹消登記が不可欠です。
また抵当権抹消登記を長期間放置すると権利関係が複雑化し、争いの原因となることもあります。手続き完了後は登記事項証明書を取得し、不動産査定やローン審査を受けることで有効活用につながります。
抵当権抹消登記においては、委任状が必須の添付書類になります。通常はローンの完済時に金融機関より送られてくるため、自身で用意する必要はなく準備に手間取ることもありません。
しかし、ごく稀に金融機関から送られてくる委任状に記載されている事項に不備があることもあります。委任状が送られてきた際は記載事項に漏れや間違いがないか確認したうえで、自身で必要事項の記載や押印を行うようにしてください。
抵当権抹消登記はさほど難しいものではありません。無用な争いを避けるためにも、速やかに抵当権抹消登記を行うようにしましょう。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。