
目次
相続不動産の売却で発生する税金とは?
相続不動産を売却する場合、通常の売却以外にも税金が発生します。
具体的には、相続不動産を売却すると次の税金がかかります。
・住民税
・譲渡所得税
・印紙税
・登録免許税
・消費税
不動産を売却すると、譲渡所得税と住民税が課されます。この点は通常の不動産売却と同様です。
ただし譲渡所得税は相続不動産の売却で利益が発生した場合のみ発生するため、必ずしも生じるとは限らない点を理解しましょう。
また印紙税は売買契約書に貼付する印紙の代金であり、取引金額によって税額も変わります。例えば不動産が2,000万円で取引される場合は、印紙税額は2万円となります。この点は国税庁のHPにも細かく記載されているため、売却前に一読しておくのがおすすめです。
登録免許税は不動産登記にかかる手数料です。不動産の場合、不動産評価額の2%(軽減特例適用なら土地は1.5%、建物は0.3%)が必要になります。
最後に消費税は売買代金に課されるわけではなく、不動産会社に支払う手数料や司法書士への依頼料などにかかります。不動産によって税額は大きく変わるため、自分の持つ相続不動産の売却にどのくらい税金がかかるかを把握しておくことが重要です。
【相続不動産を売却したときの特例・控除①】相続した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除
相続した空き家を譲渡したときの3,000万円控除の特例は、相続によって空き家を取得した場合に適用できます。具体的な対象者や対象物件、適用時期などについて解説します。
1:対象者
本特例の対象となるのは、相続または遺贈により被相続人居住用家屋とその敷地として利用された土地を取得した人です。つまり、原則として被相続人の親族として相続した人と遺贈を受けた人が適用できる特例となります。またこのほかにも以下の条件を満たすことで、特例の適用が受けられます。
・相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋を売るか、被相続人居住用家屋とともに敷地なども売ること
・相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取り壊しなどをした後に敷地などを売ること
・親子や夫婦、内縁関係にある人など特別の関係がある人に対して売っていないこと
このほかにも細かい要件があることから、詳しくは国税庁のHPで自分が対象となるかどうかを確認しておくことをおすすめします。
2:対象物件
本特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続開始直前まで被相続人の居住に供されていた家屋を指します。加えて、次の3つの要件すべてに当てはまることで対象物件として認められます。・昭和56年5月31日以前に建築されたこと
・区分所有建物登記がされている建物ではないこと
・相続開始直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
上記の要件に加え、例外的に要介護認定などを受けて老人ホームに入所するなど、特別な事情によって相続直前まで被相続人の居住に利用されなかった場合においても、一定の要件を満たせば被相続人居住用家屋(従前居住用家屋)として認定されます。
また被相続人居住用家屋の敷地等として、相続開始直前まで被相続人居住用家屋の敷地として利用されている土地も特例の対象です。ただし同じ敷地内に一体となる形で離れがある場合でも、被相続人居住用家屋の控除対象となるのは母屋のみという点に注意しましょう。
3:他の特例との併用の可否
本特例と他の特例との併用の可否を表にまとめると次のとおりです。特例 | 併用の可否 |
居住用財産を譲渡した場合の 3,000万円の特別控除 |
可 ※ただし、同年内に併用する場合は2つ合わせて上限3,000万円まで |
10年超所有軽減税率の特例 | 可 |
相続税の小規模宅地等の特例 | 可 |
1,000万円特別控除 | 不可 |
100万円特別控除 | 不可 |
相続財産譲渡時の取得費加算特例 | どちらかを選択 |
自己居住用財産の買換え特例 | 可 |
□参考:国土交通省 他の税制との適用関係
4:適用時期
本特例の適用時期は以下のように決められています。・平成28年4月1日から令和9年12月31日までの相続不動産の譲渡
・相続のときから相続開始日以降3年を経過する日の属する年の12月31日まで
上記を説明すると、令和6年12月1日に相続があった場合、この日から起算して3年後に当たる年の末日である令和9年12月31日までが特例の適用期限です。
【相続不動産を売却したときの特例・控除②】居住用不動産の3,000万円の特別控除(マイホームを売ったときの特例)

相続不動産を売却した際の特例として、居住用不動産の3,000万円の特別控除も有効です。
1:対象者
本特例の対象となるのは、相続不動産を自分が住む家屋として利用している人または住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した人が対象です。また親子や夫婦、内縁関係などの特別な関係にある人に対して売ったものではないことも重要な条件です。
2:対象物件
対象となる物件は、相続人が住んでいる、または住んでいた建物およびその土地が対象です。ただし、適用するには次の条件を満たしている必要があります。・売った年の前年および前々年に本特例またはマイホームの譲渡損失についての損益通算および繰越控除の特例を適用していないこと
・売った年の前年および前々年にマイホーム買換えやマイホームの交換の特例を適用していないこと
・売った家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例を適用していないこと
さらに、次の場合には家屋に対して本特例は適用できません。
・本特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
・居住用家屋を新築するまでの仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
・別荘などのように趣味や娯楽、保養を目的に所有する家屋
3:他の特例との併用の可否
本特例と他の特例との併用の可否を表にまとめると次のとおりです。特例 | 併用の可否 |
相続した空き家を譲渡した場合の3,000万円の特別控除 | 可 ※ただし、同年内に併用する場合は2つ合わせて上限3,000万円まで |
軽減税率の特例 | 不可 |
相続税の小規模宅地等の特例 | 可 |
1,000万円特別控除 | 不可 |
100万円特別控除 | 不可 |
相続財産譲渡時の取得費加算特例 | 可 |
自己居住用財産の買換え特例 | どちらかを選択 |
4:適用時期
本特例の適用時期は以下のように決められています。・以前住んでいた家屋の場合、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること(住まなくなってからの用途は問わない)
・家屋を取り壊した後の敷地では、その敷地の譲渡契約が家屋を取り壊した人から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・家屋が災害等で滅失した場合の敷地は、災害があった日または住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用途で利用していないこと
【相続不動産を売却したときの特例・控除③】取得費加算の特例
取得費加算の特例は、相続後の一定期間内に不動産や株式などの財産を譲渡した場合に、相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
本特例を利用することにより、譲渡所得計算時の取得費が大きくなり、節税効果につながります。
1:対象者
本特例の対象となるのは、次の条件を満たした人です。・相続または遺贈によって被相続人から財産を取得した人
・その財産を取得した人に相続税が課税されていること
上記の条件に当てはまる人であれば、誰でも取得費加算の特例を利用できます。
ただし、次の条件に当てはまると特例が適用できません。
・夫婦関係にある人
・譲渡所得以外で申告する場合
・法人が遺贈による財産を取得した場合
2:対象物件
本特例の対象となるのは、不動産や株式、金銭など相続税の対象となるもの全般です。取得費に加算する相続税額については次の式で計算します。【対象者の相続税 × 対象者の相続税の課税価格計算の基礎となった譲渡財産の価額 ÷(対象者の相続税の課税価額 + 対象者の債務控除額)】
上記の計算式を用いる際に注意すべき点として、あくまで譲渡した財産のみが特例の対象となるため、「対象者の相続税の課税価格計算の基礎となった譲渡財産の価額」には譲渡財産となった不動産の価格だけを計算することです。
また本特例を利用する場合には、次の書類も必要です。
・相続税申告書の写し
・取得費に加算される相続税の計算明細書
・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
3:他の特例との併用の可否
本特例と他の特例との併用の可否を表にまとめると次のとおりです。特例 | 併用の可否 |
居住用財産を譲渡した場合の 3,000万円の特別控除 |
可 |
相続した空き家を譲渡した場合の 3,000万円の特別控除 |
不可 |
相続税の小規模宅地等の特例 | 不可 |
1,000万円特別控除 | 不可 |
100万円特別控除 | 不可 |
相続財産譲渡時の 取得費加算特例 |
不可 |
特定居住用財産の 買換え特例 |
不可 |
4:適用時期
本特例を適用するには、相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年以内に譲渡を行う必要があります。相続税の申告は相続開始の翌日から10か月以内に行う必要があり、相続税の納付期限を終えた翌日から3年となります。この場合、相続税の申告期限までに確定申告の期限が訪れる可能性も高いです。その場合、相続税額が確定した後に本特例を適用し、更正の請求を行うことで払いすぎた所得税は還付されます。
【相続不動産を売却したときの特例・控除④】所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例(マイホームを売ったときの軽減税率の特例)
所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例(マイホームを売ったときの軽減税率の特例)は、所有期間が10年を超える居住用不動産を売却したとき、譲渡所得の6,000万円以下の部分に軽減税率を適用できる仕組みです。
居住用不動産の3,000万円の特別控除とも併用すれば、大幅な節税効果が期待できます。
1:対象者
本特例の対象者は次のとおりです。・現に自分が住んでいる家屋を譲渡すること
・以前に住んでいた家屋の場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
上記の条件に加え、次の条件に当てはまらないことも重要です。
・売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと
・売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと(例外的に居住用不動産の3,000万円の特例との併用は可能)
・親子や夫婦など特別の関係がある人に売ったものではないこと
上記の条件を満たしている人が対象となります。
2:対象物件
本特例の対象となる物件は、所有期間が10年を超える不動産です。また相続があった場合、被相続人が所有していた期間も加算されるため、相続人が第三者に売却したときに所有期間が10年を超えていれば、本特例の適用を受けられます。本特例を適用した場合の税率は以下のとおりです。
6,000万円以下の部分 | 6,000万円を超える部分 | |
所得税 | 10.21% | 15.315% |
住民税 | 4% | 5% |
合計 | 14.21% | 20.315% |
本特例を適用すると長期譲渡所得よりも低い税率となるため、条件に当てはまる物件を所有しているなら積極的に利用することをおすすめします。
3:他の特例との併用の可否
本特例と他の特例との併用の可否を表にまとめると次のとおりです。特例 | 併用の可否 |
居住用財産を譲渡した場合の 3,000万円の特別控除 |
可 |
相続した空き家を譲渡した場合の 3,000万円の特別控除 |
不可 |
相続税の小規模宅地等の特例 | 不可 |
1,000万円特別控除 | 不可 |
100万円特別控除 | 不可 |
相続財産譲渡時の 取得費加算特例 |
不可 |
特定居住用財産の 買換え特例 |
不可 |
4:適用時期
本特例の適用時期は次のとおりです。・売った年の1月1日において売った家屋と敷地の所有期間が10年を超えていること
所有期間が10年を超えていれば、基本的にいつでも適用を受けられます。
この場合の、「所有期間」とは「住んでいた期間」とは違う点に注意しましょう。所有期間とはその家を現在の所有者が所有権を取得してからの期間です。
簡単にいえば「マイホームを購入してから11回目の元旦を迎えていること」が条件となります。
まとめ
相続した不動産の売却について、利用できる特例と具体的な適用条件、対象者などを解説しました。
日本は高齢化が進み、不動産の相続と空き家の増加が全国で問題となっています。
相続不動産をそのまま放置して特定空家等に認定されてしまうと、固定資産税が高くなるだけでなく、地域で暮らす人の安全に関わる問題となります。
相続不動産の管理方法や売却にお悩みなら、不動産売買に豊富な実績を持つポラスにご相談ください。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。