本記事では、減価償却とはなにか、不動産の利用用途ごとの計算方法、取得時期によって異なる事業用不動産の減価償却方法、中古不動産を取得した際の減価償却方法を詳しく解説していきます。
そもそも減価償却とは
減価償却とはどのようなものなのでしょうか。まずは減価償却の意味、計算方法である定額法と定率法についてを知りましょう。不動産における減価償却ができるのは建物だけです。土地には減価償却はできませんので、このことを認識しておいてください。
定額法と定率法について
減価償却は「一定の方法によって費用として計上できる」と前述しましたが、この計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。定額法は、耐用年数の期間において、毎年一定の金額を減価償却していく方法です。税制改正によって平成19年(2007年)4月1日以降に取得した不動産に対しては、この定額法を基本に算出されています。金額を求める計算式は、
定額法による減価償却費 = 取得価格 × 耐用年数に応じた定額法の償却率
です。
たとえば、平成19年4月1日以後に取得した際の建物価格が1000万円で、耐用年数が20年の場合、定額法償却で計算すると
1000万円 × 0.05 = 50万円となります。
なお、定額法償却率は耐用年数によって変わります。国税庁のホームページに掲載されている「減価償却資産の償却率表」で確認してください。また、資産を取得した日が平成19年(2007年)3月31日以前であれば、旧定額法償却率を用いて計算します。
定率法は、固定資産の取得費から減価償却累計額を差し引いた未償却の残高を毎回一定の割合で減価償却していく方法です。償却方法を定率法を選択する場合は、事前に税務署へ届出をしなければ使用できません。金額を求める計算式は
定率法による減価償却費 = 未償却の残高 × 耐用年数に応じた定率法の償却率
となります。
たとえば、期首残存価額が1000万円で、耐用年数が20年の場合の初年度減価償却費は、1000万円 × 0.125=125万円となります。ただし、上記の金額が償却保証額に満たなくなった年分以後は、「改定取得価額×改定償却率」で計算します。
定率法償却率も耐用年数によって変わります。国税庁のホームページで償却率を確認し、計算してください。
不動産の利用用途ごとの計算方法
譲渡所得、事業用不動産、非事業用不動産といった、不動産の利用用途ごとの減価償却の計算方法を説明していきます。
譲渡所得の計算方法
個人が不動産売却する場合、譲渡所得を計算しなければなりません。これは、税金の発生の有無を確認するためです。計算結果で、譲渡所得がプラスであれば税金が発生し、マイナスなら税金は発生しません。譲渡所得の計算式は、譲渡所得 = 譲渡価額(売却価格のこと) - 取得費 - 譲渡費用となります。
所得費は、土地であれば購入額、建物であれば購入額から減価償却費を控除した額のこと。この所得費を算出するには、建物の減価償却計算が必要となるのがポイントです。譲渡費用は、売却時に必要となった仲介手数料や印紙税、測量費などの費用のことをいいます。
事業用不動産の減価償却方法
事業用不動産とは、収益を得ることを目的とした不動産を指し、具体的にはアパートや賃貸マンション、投資用の一戸建て、店舗や倉庫、事務所などの事業のための設備として利用する不動産が該当します。事業用不動産の減価償却方法は、取得年月によって異なります。
平成19年(2007年)3月31日以前に取得した資産で、定額法による減価償却費の計算方法は、以下のようになります。
減価償却費 = (建物購入価額-残存価額) × 償却率 × 業務に供された月数 ÷ 12
= 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 業務に供された月数 ÷ 12
残存価額は、取得価額の10%で算出します。また、償却率は旧定額法の償却率を用いて計算してください。
平成19年(2007年)4月1日以降に取得した資産で、定額法による減価償却費の計算方法は、
減価償却費 = 建物購入価額 × 償却率 × 業務に供された月数 ÷ 12
です。償却率は、新定額法の償却率を使って計算します。
非事業用不動産の減価償却方法減価償却は、税金の価格を決定する際に必要な手続きです。減価償却をすると課税される金額が少なくなり、減税対策になります。確定申告時には忘れずに、正しく計上しましょう。
非事業用不動産とは、居住用の建物のことです。具体的には、自分自身が住む一戸建てやマンション、セカンドハウスなどが該当します。
非事業用不動産の減価償却計算は、
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 です。
ポイントは事業用不動産のように月単位で計算するのではなく、「経過年数」と呼ばれる所有期間を年単位で計算するところです。経過年数は、6か月以上であれば1年と計算し、6か月未満であれば切捨てるのがルールとなります。たとえば、経過年数が25年7か月であれば、「26年」として計算します。
事業用不動産の減価償却方法は取得時期によって異なる
事業用不動産の減価償却方法は取得した時期によって異なります。これは、何度もルールが改正されているためです。所得時期の償却方法に準じて計算をしてください。
平成10年(1998年)4月1日以降:償却方法は旧定額法のみ
平成19年(2007年)4月1日以降:償却方法は旧定額法、1円まで償却可能
平成24年(2012年)4月1日以降:償却方法は新定額法
平成28年(2016年)4月1日以降:定率法が廃止され、償却方法は定額法のみ
中古不動産を取得した際の減価償却方法
中古で購入した不動産を取得した場合には、減価償却方法はどのようになるのか解説していきます。
中古の事業用不動産を取得した場合
中古の事業用不動産を購入した場合は、耐用年数がポイントとなります。耐用年数の求め方は、耐用年数の全部を経過しているか、一部を経過しているかで計算方法が異なるので注意してください。たとえば、築25年の木造アパートを購入した場合、木造アパートの耐用年数は22年ですから、耐用年数の全部を経過していることになります。また、築10年の木造アパートを購入したのであれば、耐用年数の一部を経過していることになるのを覚えておきましょう。
それぞれの耐用年数の計算方法は次のとおりです。なお、年数に1年未満の端数がある場合は端数切り捨て、2年に満たない場合は2年として計算します。
・法定耐用年数の全部を経過している場合
中古物件の耐用年数=法定耐用年数×20%
・法定耐用年数の一部を経過している場合
中古物件の耐用年数=法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2
それでは、平成19年4月1日以後に築10年の木造アパートを取得し、その建物購入価額が3,000万円、業務に供された月数が120か月だったケースで、減価償却費および建物取得費を計算してみましょう。
中古物件の耐用年数=法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2
=22年-10年+10年×0.2
=14年
新定率法の14年の償却率は0.072ですので、この償却率を用いて、
減価償却費=建物購入価額×償却率×業務に供された月数÷12
=3,000万円×0.072×120か月÷12
=2,160万円
建物取得費=建物購入価額-減価償却費
=3,000万円-2,160万円
=840万円
中古の非事業用不動産を取得した場合
非事業用不動産を中古で取得した場合は、耐用年数などの計算をする必要はありません。構造によって償却率が決まっています。減価償却費、建物取得費は以下の計算式で算出できます。
減価償却費=建物購入価額×0.9×償却率×経過年数
建物取得費=建物購入価額ー減価償却費
減価償却は減税対策になる!
減価償却は、税金の価格を決定する際に必要な手続きです。減価償却をすると課税される金額が少なくなり、減税対策になります。確定申告時には忘れずに、正しく計上しましょう。
監修者
大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。