「不動産を売って利益が出たら、税金はいくらかかるの?」そんな疑問や不安をお持ちではありませんか。
- この記事では、不動産売却益(譲渡所得)の基本的な仕組みから、具体的な計算方法、税金の負担を軽くするための特例制度まで、専門家が分かりやすく解説します。
- 売却益が出たときの確定申告についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
本記事では、不動産売却益の基本から、ご自身でできる計算シミュレーション、節税に役立つ6つの特例、そして確定申告の方法まで解説します。
不動産売却益とは?理解しておくべき基本
まずは、不動産売却益の基本的な考え方と、それに伴う税金について確認しておきましょう。不動産売却益とは、一般的に「譲渡所得」と呼ばれるもので、土地や建物といった不動産を売却して得た「利益」のことを指します。
どのような税金が発生するか
不動産を売却して利益が出た場合、「譲渡所得」として扱われ、所得税・住民税・復興特別所得税が課税されます。税率は所有期間によって大きく異なり、5年を超えて所有していた場合は「長期譲渡所得」となり、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)と住民税5%が課税され、合計で約20.315%です。一方、5年未満の所有で売却した場合は「短期譲渡所得」として課税され、所得税30.63%、住民税9%で、合計約39.63%もの税率が適用されます。
どのような計算方法なのか
譲渡所得は「売却価格-取得費-譲渡費用」という計算式で求められます。取得費とは、不動産を購入する際に支払った代金に加え、仲介手数料や登録免許税、不動産取得税、測量費、さらにはリフォームや改良にかかった費用などを合計したものです。一方の譲渡費用とは、不動産を売却するために要した費用を指し、仲介手数料や印紙税、測量費、広告費などのほか、借地権の名義変更料や立退料、建物の解体費なども含まれます。
どう確定申告すればよいか
不動産を売却して譲渡所得が出た場合は、給与所得者などであっても、原則として確定申告が必要です。確定申告は、売却した翌年の2月16日から3月15日までにおこなうのが基本です。申告には「確定申告書」のほか、「譲渡所得の内訳書」といった専門の書類が必要となります。 もし利益が出なかった場合でも、税金の還付が受けられる特例などがあるため、損失が出た場合でも確定申告をすることをおすすめします。
不動産の売却益を計算する一般的な方法は次のとおりです。
【STEP1】収入金額(売却価格)を確認する
【STEP2】取得費(買ったときの費用)を調べる
【STEP3】譲渡費用(売るためにかかった費用)を計算する
それぞれステップごとに見ていきましょう。
【STEP1】収入金額(売却価格)を確認する
まずは収入金額(売却価格)を確認します。ここで大切なのが、書類を揃えておくことです。購入時の契約書や領収書、リフォーム履歴や税金の納付書など、取得費や譲渡費用を証明する重要な証拠になります。これらが不足していると、税務署から追加資料の提出を求められたり、概算取得費で計算せざるを得ず、結果的に税負担が大きくなる恐れがあります。また、計算の過程では仲介手数料や印紙税といった売却時の諸費用を忘れずに計上することが重要です。漏れがあると利益が大きく見積もられ、余分な税金を支払うことになりかねません。
【STEP2】取得費(買ったときの費用)を調べる
次に確認すべきは「取得費」です。取得費とは、不動産を購入した際にかかった総費用を指します。土地や建物の購入代金だけでなく、仲介手数料や登録免許税、不動産取得税、測量費、リフォーム費用なども含まれます。特に建物の場合は「減価償却費」として経年による価値の減少分を差し引く必要があり、購入時の契約書や領収書が不可欠です。書類を紛失してしまった場合には、やむを得ず「概算取得費」を用いて計算することになります。概算取得費では、売却価格の5%を取得費としてみなすことが認められていますが、実額よりも低くなるケースが多く、その分税負担が重くなる可能性があります。
【STEP3】譲渡費用(売るためにかかった費用)を計算する
最後に、不動産を売却するために直接かかった「譲渡費用」を計算し ここまで見てきたステップを踏まえて、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。<条件>
・売却価格(収入金額):4,000万円
・取得費:3,000万円(土地1,500万円+建物1,500万円、建物の減価償却費300万円を控除後の金額)
・譲渡費用:150万円(仲介手数料、印紙税など)
・所有期間:8年(長期譲渡所得)
<計算式>
(1)課税対象の譲渡所得を計算:
4,000万円(売却価格)- { (3,000万円 - 300万円) + 150万円 } = 1,150万円
(2)税額を計算(長期譲渡所得:20.315%):
1,150万円 × 20.315% = 約233.6万円
このシミュレーションでは、納める税金は約233.6万円となります。
不動産売却益の税金を抑える6つの特例
不動産の売却では、税金の負担を大幅に軽減できるさまざまな特例制度が用意されています。
ご自身の状況に合うものがないか、ぜひ確認してみてください。
【特例①/マイホームなら】3,000万円の特別控除
マイホームを売却した際には、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「居住用財産の3,000万円特別控除」という制度があります。これは現在住んでいる住宅だけでなく、過去に居住していた住宅にも適用されるため、多くのケースで利用可能です。ただし、適用には条件があり、過去2年以内に同じ特例や買い換え特例、損益通算・繰越控除を利用していないことが求められます。また、この控除を使った結果、譲渡益がゼロとなる場合でも確定申告は必要になる点に注意が必要です。
【特例②/10年超保有なら】軽減税率の特例
マイホームを10年以上所有して売却する場合には、長期保有者に有利な「軽減税率の特例」が適用されます。課税譲渡所得が6,000万円以下であれば10%、6,000万円を超える部分については15%の税率が適用され、さらに600万円の控除が加えられます。通常の長期譲渡所得の税率は約20%であるため、大幅な節税効果が見込める点が魅力です。この特例は3,000万円控除との併用が可能で、長期にわたってマイホームを保有してきた人ほど恩恵が大きくなります。
【特例③/相続した空き家なら】空き家の3,000万円特別控除
相続によって取得した空き家を売却する場合に利用できるのが「被相続人居住用財産に関する3,000万円特別控除」です。対象となるのは、昭和56年5月31日以前に建てられた旧耐震基準の住宅で、かつ亡くなった方が一人で居住していた物件に限られます。相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
ただし、対象住宅には耐震改修を施すか、取り壊して更地にしたうえで売却することが要件となり、すべての条件を満たす必要があります。さらに、譲渡価格が1億円以下であることや、確定申告による手続きが必須であるなど、細かな制限も設けられています。
【特例④/買い換えるなら】特定の居住用財産の買換え特例
マイホームを売却して新たに居住用不動産を取得する場合、「特定の居住用財産の買換え特例」を利用することで、売却益に対する課税を将来に繰り延べられます。これは課税そのものが免除されるわけではなく、買い換えた物件を将来売却する際に、改めて課税される仕組みです。つまり、税金の支払いを後回しにできる制度といえます。ただし、適用を受けるには取得物件の床面積や居住要件など細かな条件を満たす必要があります。また、住宅ローン控除とは併用できないため、どちらを利用するかを事前に検討しなければなりません。
【特例⑤/損失が出たら】譲渡損失の損益通算及び繰越控除
不動産売却で利益ではなく損失が出た場合でも、税制上の特例を利用すれば負担を軽減できます。それが「譲渡損失の損益通算および繰越控除」です。まず、譲渡損失は給与所得や事業所得など他の所得と通算でき、所得税や住民税の軽減につながります。もし1年で損失をすべて通算できない場合でも、翌年以降3年間にわたって繰り越し、各年の所得から控除することが可能です。
ただし、利用するには確定申告を行うことが前提です。売却に関する契約書や費用の領収書といった証拠書類を揃えておきましょう。
【特例⑥/相続財産なら】取得費加算の特例
相続した不動産を売却する場合には「取得費加算の特例」が利用できます。これは、相続開始から3年10か月以内に売却した際に、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。取得費を大きくできる分、譲渡所得が圧縮され、課税額を減らす効果があります。ただし、この制度は「空き家の3,000万円特別控除」との併用ができないため、どちらを利用するのが有利かを比較検討する必要があります。適用にあたっては、相続税の申告書や納税証明書などの書類が求められるため、手続きも慎重に進めなければなりません。
不動産売却で税金がかからないケースとは?
条件によっては、不動産を売却しても税金が一切かからないケースもあります。ここでは税金がかからないケースを2つ紹介します。
【ケース①】 売却益が出なかった(マイナスになった)場合
不動産を売却しても利益が出ず、譲渡所得がゼロ以下(マイナス)になった場合には、譲渡所得税は課税されません。例えば、購入価格よりも低い金額で売却したケースや、購入後に多額のリフォーム費用や改良費がかさみ、結果として利益が残らなかった場合などです。この場合は「そもそも所得が発生していない」とみなされるため、税金の対象外となります。原則として確定申告も不要ですが、損失を他の所得と相殺できる「譲渡損失の損益通算」や、翌年以降に繰り越して控除できる特例を利用したい場合には、申告手続きを行う必要があります。
【ケース②】 売却益が3,000万円以下で、特別控除を適用した場合
マイホームの売却においては、「居住用財産の3,000万円特別控除」を利用することで、税金がかからないケースがあります。具体的には、譲渡所得が3,000万円以下であれば、この控除を適用することで課税対象額がゼロとなり、所得税や住民税が発生しません。たとえば、譲渡所得が2,300万円であれば、控除を適用することで所得は0円と計算され、実質的に非課税となります。
不動産の売却益が出たときの確定申告について
不動産を売却して譲渡所得が生じた場合は、会社員などの給与所得者であっても原則として確定申告を行う必要があります。
申告期間は売却した翌年の2月16日から3月15日までですが、2025年は土日祝日の関係で2月17日から3月17日が期限となります。期間内に申告を怠ると、後日加算税や延滞税が課される可能性があるため注意が必要です。
申告の際には、「確定申告書第一表~第三表」や「譲渡所得の内訳書(土地・建物用)」といった税務書類に加え、売買契約書、領収書、登記事項証明書などの関連書類を提出または提示します。税務署からの確認や調査に備えるためにも、関連資料は必ず保管しておきましょう。
提出方法は税務署窓口や郵送のほか、e-Taxを利用したオンライン申告も可能で、最近ではスマートフォンからの申告にも対応しています。自分にとって便利な方法を選び、必ず期限内に手続きを済ませることが大切です。
まとめ
不動産を売却して利益が出ると、所得税や住民税がかかりますが、その計算には様々な費用を差し引くことができ、さらに税負担を軽減するための多様な特例制度が用意されています。
特に、マイホームの売却で使える「3,000万円特別控除」は非常に効果が大きく、多くの方がこの制度を利用して税金の負担なく売却をおこなっています。
しかし、これらの計算や特例の適用は非常に複雑で、専門的な知識が求められるのも事実です。どの特例が自分にとって最も有利なのか、どの書類を準備すればよいのかなど、ご自身だけで判断するのは難しい場合も多いでしょう。
私たちポラスの仲介は、埼玉県・千葉県・東京都を中心に、地域に密着した不動産サービスを提供しております。不動産の売却はもちろん、こうした複雑な税金に関するご相談にも、お客様一人ひとりの状況に合わせて丁寧にアドバイスさせていただきます。安心して不動産売却を進めるために、ぜひ一度、ご相談ください。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。