共有名義の不動産売却は、名義人全員の合意が必要なため、トラブルが起きやすいのが実情です。
- この記事では、売却の基本的な方法から、揉め事を避けるための具体的なポイント、税金の注意点までを専門家が徹底解説。
- 円満な売却を実現するための知識を身につけ、安心して手続きを進めましょう。
本記事では、共有名義の基本から具体的な売却方法、トラブルを未然に防ぐためのポイント、そして代表的なトラブル事例と対処法まで網羅的に解説します。
共有名義とは
はじめに、「共有名義」とはどのような状態を指すのか、基本的な知識を確認しておきましょう。
「共有名義」とは、一つの土地や建物といった不動産を、複数の人の名義で共同で所有している状態のことです。例えば、ご夫婦や親子がそれぞれお金を出し合って家を購入した場合や、親が亡くなって複数の子供たちが一つの実家を相続した場合などが、共有名義の典型的なケースです。
共有持分とは
共有名義の不動産では、それぞれの所有者がその不動産に対して持つ権利の割合のことを「共有持分」と呼びます。持分の割合は、不動産を購入した際の出資額や、相続時の法律の定めなどによって決まります。例えば、5,000万円のマンションを夫が3,000万円、妻が2,000万円を出資して購入した場合、共有持分は夫が5分の3(60%)、妻が5分の2(40%)です。
共有名義の注意点
売却や建て替えといった大きな変更をおこなう際には、共有者全員の同意が原則として必要になることです。一人でも反対する人がいると、話を進めることができません。そのため、共有者間での意見の対立や「連絡が取りづらい人がいる」といった理由で意思決定が複雑になり、トラブルに発展しやすいという特徴があります。
共有名義の不動産を売却する方法
共有名義の不動産を売却するには、いくつかの方法があります。共有者同士の関係性や状況に応じて最適な選択肢は異なりますので、それぞれのメリット・デメリットを理解しておきましょう。
共有者全員が合意して不動産全体を売却する
最も一般的な方法が、共有者全員で売却に合意し、不動産全体を一つの物件として市場で売却する方法です。土地と建物を一体として売却できるため、買主を見つけやすく、市場価格に近い、高い価格での売却が期待できます。しかし、この方法は「全員の合意」が前提です。一人でも反対する共有者がいれば、売却手続きを進めることはできません。円滑に進めるためには、事前の話し合いによる意思統一と、実印や印鑑証明書といった必要書類の準備を早めにおこなっておくことが重要です。
ほかの共有者に自分の持分を買い取ってもらう
「自分は売りたいけれど他の共有者は売りたくない」といった状況であれば、ご自身の持分を他の共有者に買い取ってもらう方法があります。この方法であれば、外部の第三者と交渉する必要がなく、買主が身内であるため心理的なハードルも低く、交渉がスムーズに進みやすいというメリットがあります。また、持分を買い取ってもらった結果、不動産が一人の単独名義になれば、将来的にその人が売却したいと思ったときに、スムーズに手続きを進めることができます。ただし、持分の売買価格によっては贈与税や譲渡所得税などが課される可能性があるため、価格設定には注意が必要です。
自分の持分のみを第三者に売却する
他の共有者の協力が得られない場合に、ご自身の「共有持分」だけを売却して共有関係から抜け出すことも、法律上(民法第206条)認められています。この場合、他の共有者の同意は必要ありません。しかし、不動産の一部分の権利である「共有持分」だけを購入したいという買主は、非常に見つけにくいのが実情です。専門の買取業者などが買主になるケースが多いですが、その際の売却価格は、市場価格の5割~7割程度まで下がってしまうことが一般的です。
土地の場合は「分筆」して単独名義で売却する
共有している不動産が土地の場合、共有者全員の同意があれば、土地を物理的に分割する「分筆」という手続きをおこなうことができます。分筆してそれぞれの土地を単独の名義で登記すれば、その後は各所有者が自分の土地を自由に売却したり活用したりできるようになります。持分のみを売却するよりは高値で売れる可能性がありますが、土地の形状や場所によっては分筆後の価値が下がってしまうこともあります。また、測量費用や登記費用として数十万円程度の費用と時間がかかる点も考慮しなければなりません。
【最終手段】共有物分割請求訴訟を行う
どうしても共有者間での話し合いがまとまらない場合の最終手段として、裁判所に判断を委ねる「共有物分割請求訴訟」という方法があります。この訴訟を起こせば、共有者間の合意がなくても、裁判所の命令によって強制的に共有状態を解消できます。裁判所は、不動産を現物のまま分割する方法(現物分割)や、競売にかけてその売却代金を持分に応じて分配する方法(代金分割)などを命じます。ただし、訴訟には弁護士費用などがかかり、解決までに長い時間が必要です。
また、競売になった場合の売却価格は市場価格より低くなる傾向があるなど、多くのリスクを伴う手段です。
共有名義の不動産売却で失敗しないためのポイント
共有名義の不動産売却は、とにかく事前の準備と共有者間のルール作りが重要です。トラブルを未然に防ぎ、スムーズに売却を進めるために、必ず押さえておきたいポイントを解説します。
売却の主導権を握る「代表者」を決める
まず、共有者の中から、不動産会社との連絡窓口や手続きのまとめ役となる「代表者」を一人決めましょう。代表者が一人いることで、不動産会社からの報告や共有者への連絡が一元化され、情報の混乱や聞き間違いを防げます。また、価格交渉などの意思決定も、代表者を通じておこなうことで、スムーズに進められるでしょう。
売却価格や条件の「最低ライン」を全員で合意しておく
売却活動を始める前に、「売却価格は最低でも〇〇万円以上」「いつまでに売却する」といった売却の条件について、共有者全員で話し合い、最低ラインを決めておきましょう。そして、決まった内容は必ず書面に残しておくことが重要です。事前に共通のゴールを設定しておくことで、いざ買主が見つかったときに「思っていたより値段が安いから売りたくない」といった意見の対立が起こるのを防げます。
諸費用や税金の負担割合を明確にする
不動産の売却には、仲介手数料や印紙税などの諸費用、そして利益が出た場合には譲渡所得税といった税金がかかります。これらの費用や税金を、誰がどの割合で負担するのかを、持分割合に応じて事前に明確にしておきましょう。特に、住宅ローンが残っている場合は、売却代金で完済する必要があり、もし代金が不足すれば自己資金で補う必要も出てきます。お金に関する取り決めはトラブルになりやすい部分ですので、必ず書面にまとめておきましょう。
売却代金の振込先と分配方法を決めておく
売却代金の受け取り方と分配方法についても、事前にルールを決めておくことが大切です。一般的には、代表者の口座に一旦全額を振り込み、そこから各共有者に持分割合に応じて分配する方法が取られますが、場合によっては金融機関が各共有者の口座に直接振り込んでくれます。不動産会社や金融機関と相談し、最もスムーズで全員が安心できる方法を決めておきましょう。
事前に不動産会社に相談する
共有名義の不動産を売却する場合は、できるだけ早い段階で不動産会社などの専門家に相談することが大切です。手続きが複雑で法的な知識も求められるため、自己判断で進めるとトラブルにつながる恐れがあります。共有不動産の取り扱いに慣れている会社であれば、物件全体を売却する方法や持分だけを売却する方法など、状況に応じて最適な選択肢を提示してくれるでしょう。また、共有者同士の意見がまとまらず調整が難航した場合でも、冷静かつ円滑に解決しながら売却活動を進めることができます。
共有名義の典型的なトラブル事例と対処法
ここでは、共有名義の不動産売却で実際に起こりがちなトラブルと、その対処法についてご紹介します。
「売りたい」vs「売りたくない」で意見が対立する
共有者間で売却の意思がまとまらないのは、最もよくあるトラブルです。特に相続で得た不動産の場合、故人への想いや相続時の不満などが絡み合い、感情的に対立してしまうケースが少なくありません。当事者同士での話し合いが難しい場合は、弁護士や司法書士といった法律の専門家に間に入ってもらい、第三者の客観的な視点から冷静に交渉の場を設けることが有効です。
共有者の一人と連絡が取れない
共有者の中に行方が分からない、あるいは連絡が取れない人がいると、売却に必要な全員の同意が得られず、手続きが完全に止まってしまいます。このような場合、従来は「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立てるなど、複雑な手続きが必要でした。しかし、令和5年(2023年)4月の民法改正により、裁判所の許可を得て、所在不明の共有者の持分を他の共有者が取得したり、第三者に譲渡したりできる制度が新設され、以前よりも柔軟な解決が可能になっています。
共有者が認知症などで意思能力がない
共有者の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいると、その方自身が売却に同意したり、契約書に署名・捺印したりすることができません。このような場合は、家庭裁判所に申し立てて、本人の財産管理や契約手続きを代理でおこなう「成年後見人」を選任する必要があります。成年後見人が本人に代わって法的な手続きをおこなうことで、正当な売却活動を進められます。
まとめ
共有名義の不動産売却は、法律や税金が複雑に絡み合い、何よりも共有者全員の円満な合意形成が大切です。
トラブルを避けるためには、事前にしっかりとルールを決め、書面に残しておくことが不可欠です。そして、当事者だけでの解決が難しいと感じたら、決して一人で抱え込まず、早い段階で専門家へ相談することが大切です。
私たちポラスの仲介は、埼玉県・千葉県・東京都を中心に、地域に密着した不動産サービスを提供しております。共有名義のような複雑なご事情を抱えたお客様の売却も、数多くサポートしてまいりました。
お客様一人ひとりの状況を丁寧にヒアリングし、最善の解決策をご提案させていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。