では、具体的に農地を売却する必要が出た場合、どのように手続きをすればよいでしょうか。農地売買の制限や手続き、相場などを解説します。
農地売却は難しいってホント?
農地の売却が一筋縄ではいかないのは、売買そのものが農地法で規制されているうえ、農地のまま売却する場合は売却先が農家に限定されるからです。農地は日本の食料自給率を支える基礎であることから、簡単には売買できないようになっています。
農地を売却するときは「農地のまま売る」「他の土地に転用する前提で売る」の二種類の売り方があり、どちらの場合も農業委員会または都道府県知事の許可が必要です。
農地売却が難しい理由
農地売却が難しい理由には、次の点が挙げられます。・収益性が不透明で需要が低い
・売却には農業委員会の許可が必要
・跡継ぎがおらず、農家や農業に参入してきた人にしか売却できない
・農業就業者が高齢化しており、購入希望者が少ない
日本においては農地法の定めにより、農地として登記された土地の所有権売却には市町村から独立した農業委員会の許可が必要です。そのため売却手続きに時間がかかることに加え、農地は農業以外に利用できないため、収益性が不透明という問題があります。
また農地は農家か農業の参入者にしか売却できない制限があるため、売却のハードル自体も高いです。
日本は農家の高齢化が進んでいるため、新たに農地購入を希望する人も少ない点も、売却の難しさにつながっています。
農地売買の条件
では、実際に農地を売買するとき、どのような制限が設けられているのでしょうか。農地のまま売却する場合と、転用して売却する場合、それぞれの制限事項を見てみましょう。
農地のまま売却する
農地のまま売却する場合、以下のように買主に厳しい要件が設けられています。農地の買主に求められる要件
全部効率利用要件 | 農地の全てを効率的に利用できる営農計画を持っていること。 |
農業生産法人要件 | 法人が購入する場合は農業生産法人であること。 |
農作業常時従事要件 | 農地の取得者・世帯員が農業に常時従事していること(年間150日以上)。 |
下限面積要件 | 取得後の面積が50アール(5000平方メートル)以上になること |
地域との調和要件 | 農薬や水利調整など、地域のルールを守り他の農家と協調できること。 |
買主は以上の要件を守らなければならないため、実質的にはプロの農家か、農業生産法人にしか売却することができません。新規就農者や農家以外の人への売却は難しいという現実があります。
農地を別の地目に転用して売却する
農地を住宅地など別の地目に転用して売却する場合は、土地に設けられた制限がないか確認しなければなりません。農地によっては、許可を得なければいけない場合や、そもそも転用ができないこともあるからです。転用が可能かどうかという観点から見ると、農地は「届出が必要な農地」「許可が必要な農地」「原則転用できない農地」の三種類に分類できます。
転用の可否 | 概要 | 農地の区分 |
届出が必要な農地 | 市街化区域に位置している農地 | 第三種農地 |
転用に許可が必要な農地 | ・市街化調整区域にある農地 ・生産力が低く小規模な農地 |
第二種農地 |
原則許可されない農地 | ・10ヘクタール(10万平方メートル)以上の集団農地に位置している農地 ・土地改良事業対象農地 ・農用地区域内の農地 |
第一種農地 甲種農地 |
売却を検討する際は、持っている農地がどの分類に入るのか確認してください。
農地の売却にかかる税金と控除
農地の売却においても、通常の土地の売買と同じように税金がかかります。土地の税金は譲渡によって得た所得に税率をかけて計算します。譲渡所得は、以下の計算式で算出が可能です。
譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得にかける税率は土地の保有期間によって以下のように変化します。
所有期間 | 税率 |
5年以内 (短期譲渡所得) |
所得税:30.63% 住民税:9% |
5年超 (長期譲渡所得) |
所得税:15.315% 住民税:5% |
譲渡所得が300万円で、農地を7年保有していたケースだと、300万円に合計20.315%をかけた60万9450円が課税されます。
なお、農業委員会のあっせんを受けて農地を売却した場合は800万円の特別控除を受けることが可能です。この例では譲渡所得が控除額より小さいため非課税となります。
農地の売却に必要な手続きの流れ
では、具体的に農地を売却したいとき、どのような流れで行うのでしょうか。農地のまま売却する場合と、転用予定で売却する場合に分けて見てみましょう。
自分の所有している土地の確認
売却に着手する前に、まずは自分の土地の区分を確認する必要があります。特に転用する場合は、農地の規模や位置しているエリアによっては転用が認められないことがあるからです。先述の第一種農地や甲種農地に指定されている場合、許可を申請しても転用は不可となります。農地の各種制限は各市区町村の農業委員会で確認できますが、窓口まで行くのが手間であればインターネットでも調査可能です。全国農業会議所が運営する「全国農地ナビ」では、国内の各農地の地目や都市計画法上の区分、農業振興地域の指定の有無などを確認できます。
ただ「調査中」「非公表」とされている項目も存在するため、その場合は管轄の農業委員会に問い合わせると確実です。
農地のまま売却する際に必要な手続き
農地を転用せず、農地として売却する場合、以下の手順で手続き・売却をおこないます。① 売却先を探す(農業委員会へあっせん依頼)
② 売主との売買契約の締結
③ 農業委員会に売却許可の申請
④ 所有権の移転登記
許可が無事に通り、土地の移転登記と代金の受け渡しが完了すれば売買完了となります。
転用して売却する際に必要な手続き
農地を転用して売却する場合、農地のまま売却する場合と比較してやや手続きが煩雑になります。① 売却先を探す
② 売主との売買契約の締結
③ 売買・転用許可の申請
④ 所有権移転請求権の仮登記
⑤ 申請の許可が出た後所有権の移転登記
農地として売却する場合との違いは、所有権移転の仮登記を行う点です。農地の転用をする際は農業委員会の許可が必要なため、契約の締結をした時点で買主の権利を保全するため、仮登記をおこなうことがあります。
通常の土地の取引では、契約後の個人的な理由でのキャンセルはルール違反です。しかし、農地の場合は許可が出るまで所有権の移転はできないため、不許可となり引き渡しができない場合も違約金は発生しません。
不動産会社に依頼する場合の選定方法
農地を転用して売却する場合、農業委員会ではなく不動産会社に売却を依頼することになります。どの業者に頼むかはどのように考えればよいのでしょうか。
結論から言うと、農地売買の実績の有無を基準に不動産会社を選ぶのがおすすめです。農地の転用の手続きは非常に煩雑であり、通常の土地を売却するときよりも仲介する難度は高くなります。
おすすめの方法は、不動産の査定を利用して、農地を転用しての売却が可能か、実績があるか問い合わせてみることです。
農地売却の実績が豊富
農地売買は通常の不動産売買とは異なり、農業委員会の許可や農地転用申請などが必要になるケースもあります。農地売却の取り扱い経験がない不動産会社を選んでしまうと、手続きがスムーズに進まず、必要な書類を何度も役所へ取りに行く羽目になることもあります。
また農地の取り扱い経験がなければ、不動産会社側が適正価格をわかっておらず、不当な値段で買い取られたり、買取を断られたりすることもあるでしょう。
そのため気になる不動産会社があるなら、公式ホームページで農地売却の実績や事例を確認し、口コミや評判も確認することが重要です。
過去に一度も農地売却の事例がない、または実績が少ないのであれば、実績の豊富な不動産会社を探すことをおすすめします。
信頼できる担当者
不動産会社選びでは、信頼できる担当者がいるかどうかも重要なポイントです。例えば本来なら500万円の価値がある農地にもかかわらず、適正価格を提示してくれない担当者がいる不動産会社は、そもそも選ぶべきではありません。
また心理的な面でも信頼できる担当者なら、大切な農地を任せてもよいと考える人が多いでしょう。
信頼できる担当者を見つけるには、複数の不動産会社に依頼し、相見積もりをもらうことが重要です。加えて見積もりの内訳を細かく説明してくれる担当者なら、信頼できる相手と考えてよいでしょう。
地域の情報に精通している
不動産会社を選ぶ際は、企業規模の大小よりも地域の情報に精通しているかどうかが重要です。大企業であっても地域の事情に詳しくないと、農地の適正な価格が判断できず、相場より安く売却することになるおそれがあります。
地域情報に精通している担当者なら、地域の実情に合わせた販売活動を行ってくれるでしょう。
公式ホームページ、口コミや評判と合わせて、担当者が地域の土地価格相場や事情にどの程度理解があるか確認してください。
査定金額が正当
農地売却をする際は、複数の不動産会社に見積もりを依頼し、査定金額が適正なところを選びましょう。査定金額が適正か把握するには、レインズマーケットインフォメーションの情報を参考にすると判断の基準になります。
また見積もりが出てきた際に、担当者が内訳の詳しい内容を説明できるかどうかも重要です。信頼できる不動産会社の場合、内訳がなぜその金額になったのか理由を明確に説明できます。
逆に、内訳を説明できない担当者がいる不動産会社なら、農地売却では選ぶべきではありません。
農地の売買を検討する場合、まずは不動産屋に相談
農地をどのような形で売却するにせよ、まずは売却を考えている段階で農業委員会に相談するようにしてください。売却や転用が可能か、必要な手続きは何なのか、時間はどのくらいかかるのかなど、確実な情報が手に入ります。
転用する際は、平行して不動産会社にも問い合わせてみましょう。農地売買に強い不動産会社を探し出せば、スムーズに売却することができるでしょう。
監修者
大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。