この記事では、そもそも譲渡所得とはどのようなものなのか、譲渡所得における控除、税率の計算方法などについて詳しく解説していきます。
譲渡所得とは一体何? 定義は?
譲渡所得とは不動産や証券、骨とう品などの保有資産を譲渡して得た利益のことです。
あくまで譲渡して得た利益のことですから、購入時の金額よりも売却金が安ければ、利益はないため譲渡所得とは認められません。
譲渡所得の対象となる資産には次のものがあります。
・土地・建物
・借地権
・株式等
・金地金
・宝石
・書画
・骨とう
・船舶
・機械器具
・漁業権
・取引慣行のある借家権
・配偶者居住権
・配偶者敷地利用権
・ゴルフ会員権
・特許権
・著作権
・鉱業権
・土石(砂)
譲渡所得税とは?どんな課税方法?
譲渡所得の課税方法には所有期間に長期と短期があり、それぞれ税率も異なります。それぞれの課税方法については、以下の表を参考にしてください。
区分 | 短期 | 長期 | |
期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超所有 軽減税率の特例 |
居住用 | 39.63% (所得税30.63%、住民税9%) |
20.315% (所得税15.315%、住民税5%) |
①課税譲渡所得6,000万円以下の部分は14.21% (所得税10.21%、住民税4%) |
それ以外 | 39.63% (所得税30.63%、住民税9%) |
20.315% (所得税15.315%、住民税5%) |
ただし10年超所有軽減税率の特例は、買い換えた住宅への住宅ローンの控除とは併用できません。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得税を計算するには、譲渡所得と税額の計算式を知ることが大切です。
譲渡所得は次の式で算出できます。
【 譲渡所得=譲渡収入金額ー(取得費+譲渡費用) 】
取得費は不動産の購入金額、譲渡費用は売却にかかった費用を意味します。
税額計算の方法
税額の計算方法は非常に簡単です。【 税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税) 】
注意するべきなのは、所得税と住民税で税率が異なるという点です。
例えば先ほども説明したとおり、5年以下の居住用不動産の譲渡所得に課せられる税率は39.635%なのですが、そのうち所得税が30.63%、住民税が9%という内訳になっています。
それぞれで計算を行うため、確定申告の際は注意しましょう。
不動売却時に活用できる譲渡所得の特別控除
譲渡所得における特別控除について、確認していきましょう。
土地・建物などの譲渡所得の特別控除
土地・建物に利用できる特別控除には以下の6種類があります。・公共事業のために売却した際の5,000万円控除
・マイホームを売却した際の3,000万円控除
・特定土地区画性事業などのために売却した際の2,000万円控除
・特定住宅造成事業などのために売却した際の1,500万円控除
・平成21・22年に取得した国内の土地を譲渡した際の1,000万円控除
・農地の保有化などのために売却した際の800万円控除
上記の控除は複数同時に適用もできますが、上限は5,000万円までと決まっている点に注意が必要です。
また土地・建物以外の資産については、所有期間5年超のものなら有形・無形を問わず、50万円を上限として控除可能です。
相続財産を売却した場合に3,000万円の特別控除を適用する方法
相続財産を売却して3,000万円の特別控除を適用する場合、相続開始前に居住用財産として認められていることが前提条件です。仮住まいや一時的な滞在の場合、居住用財産として認められない可能性があります。
加えて、次の条件を満たすことで3,000万円の特別控除を適用できます。
・相続時から相続開始日3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡していること
・譲渡金額の合計が1億円以下であること
・相続してから譲渡までの間に使用していないこと
・相続開始の直前まで被相続人以外に居住していないこと
・一定の耐震基準をクリアしていること
・譲渡した年の翌年の確定申告を行うこと
上記の条件をすべて満たさなければ、相続財産に3,000万円の特別控除は適用できません。
長期譲渡所得の軽減税率
長期譲渡所得の軽減税率の適用とは、居住用財産を10年以上所有していた場合に、譲渡所得の税率を低くすることができる特例です。通常、5年超所有している居住用財産の税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。
しかし長期譲渡所得の軽減税率を適用することで、税率は14.21%(所得税10.21%+住民税4%)となります。
居住用財産の3,000万円特別控除とも併用できるため、課税譲渡所得が大きいほど高い節税効果を発揮します。
ただし、課税譲渡所得の金額には注意が必要です。
課税譲渡所得6,000万円を超える部分に関しては、通常の長期譲渡所得の税率が適用されます。
6,000万円以下の部分はそのまま軽減税率を適用できますから、効果的に活用しましょう。
特定の居住用財産の買換え特例
特定の居住用財産の買換え特例とは、所有していた住宅を売却した際、売却額が買い換えた住宅の価格を下回った場合に利用できる特例です。特例を適用すると譲渡所得の課税を繰り延べることができ、譲渡所得税と購入代金の二重負担を避けられます。
ただし課税を一時的に繰り延べる特例であり、免除や控除がされるわけではない点に注意してください。
将来的に新しい住宅を購入する際に再び譲渡すれば、前回の譲渡所得と合算されるため、課税額が大きくなります。
適用条件は次の通りです。
・居住年数が10年以上の居住用財産であること
・売却額が1億円以下であること
・買い換える建物が50平米以上であること
・買い換える土地が500平米以上であること
上記の条件を満たせば、特定の居住用財産の買換え特例により譲渡所得税を繰り延べることができます。
譲渡損が生じる場合に受けられる特例
不動産の譲渡によって損失が生じた場合には「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」と「居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」が利用できます。どちらも譲渡損失を同年の給与所得や事業所得から控除したり、損失を繰り返し控除したりできる特例です。
同年の控除では損失分が残る場合は、最大3年まで繰り返し適用できます。
適用条件は次の通りです。
・適用要件を満たした新居を購入すること
・所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年を超えていること
・売却した物件が居住用財産として認められること
・一定額以上の住宅ローンが残っていること
上記の条件を満たす場合、譲渡損失が控除対象として認められます。
平成21・22年に取得した国内の土地または土地の上に存する権利を譲渡した際の1,000万円の特別控除
平成21・22年に取得した国内の土地または土地の上に存する権利を譲渡した際の1,000万円の特別控除は、未利用の土地にも適用できる特例です。本特例を適用するには、平成21年に取得した土地等は平成27年(2015年)以降、平成22年に取得した土地等は平成28年(2016年)以降に譲渡することが条件です。
居住用でも事業用でも土地の用途は問わず利用できるため、他の特例よりも利用できる範囲が広くなっています。
前述した条件のほかの適用条件は次の通りです。
・親子や夫婦など特別関係者から取得したものではないこと
・相続・遺贈・贈与・交換・代物弁済・所有権移転外リース取引により取得したものではないこと
・マイホーム3,000万円特別控除や特定の居住用財産の買換え特例による課税の繰り延べなど、他の譲渡所得の特例を受けないこと
不動産の譲渡所得で特別控除を適用する場合の注意点
不動産の譲渡所得で特別控除を適用する場合、次のポイントに注意しなければなりません。
・譲渡所得にかかる所得税を確定申告する
・住民税の申告は必要ない
特別控除を受けるには確定申告で譲渡所得の内訳書を添えて、必要書類をすべて提出しなければなりません。
中でも重要になるのが、特別控除の適用条件を満たしていることを認める行政からの証明書です。
行政からの公的証明書になるため、紛失すると確定申告できなくなるため十分注意しましょう。
また、一般的には特別控除を受けるために確定申告と住民税の申告が必要ですが、保有期間が5年を超える場合には上記の通り確定申告が必要です。
確定申告によって住民税も申告されることになり、市民税や県民税といった住民税の申告は不要になります。
ただし、保有期間が5年以下なら通常通り住民税の申告が必要です。
「保有期間5年」がポイントとなるため、何年に所有権を取得したか確認しておきましょう。
まとめ
譲渡所得の特別控除を受けるには、自分が適用対象かどうかのチェックが欠かせません。
しかし確定申告は税制や法律、経理の知識がなければ、素人には難しい作業です。
せっかく確定申告を行っても書類の不備があれば、適用を受けられない可能性もあります。
わからないことがあれば、不動産の専門家や税理士に確認しながら手続きを進めましょう。
監修者
大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。