この記事では、不動産売却にかかる税金の種類を解説します。また、節税の方法もご紹介します。
目次
譲渡所得税の求め方は?
ここでは、譲渡所得・課税譲渡所得、減価償却費の計算方法を説明します。
譲渡所得・課税譲渡所得の計算方法
譲渡所得税を計算するには、譲渡所得、課税譲渡所得を先に計算しておかなければなりません。それぞれの算出方法をご紹介しましょう。■譲渡所得の算出方法
譲渡所得は、不動産の売却金額である「譲渡収入金額」から、不動産の購入にかかった金額「取得費用」と、売却にかかった費用「譲渡費用」を差し引いたもののことです。
計算式としては、
【 譲渡所得 = 譲渡収入金額 -( 取得費用 + 譲渡費用) 】
となります。
■課税譲渡所得の算出方法
課税譲渡所得とは、実際に課税される金額のことで、「譲渡所得」から「特別控除額」を差し引いたもののことです。
計算式にすると、
【 課税譲渡所得 = 譲渡所得 − 特別控除額 】
となります。
特別控除は、譲渡所得の負担を軽減する特例で、いくつかあります。代表的なものが「居住用財産の3,000万円特別控除」。
これは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例です。
この差し引き後の所得が「課税譲渡所得」で、「課税譲渡所得」に税率を掛けることで譲渡所得税を求めることができます。
なお、課税譲渡所得がマイナスの場合は、譲渡所得税の支払いは発生しません。
減価償却費の計算方法
譲渡所得を算出するときには、「取得費」が必要となります。この取得費には、時間の経過とともに価値が減少する分を差し引くことができます。これが「減価償却費」です。減価償却費の計算方法は、
【 減価償却費 = 建物の所得にかかった金額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数 】
となります。
償却率は、建物の建築方式で異なります。
建築方式:非事業用 (マイホーム等) 事業用 (投資、賃貸マンションなど)
■木造
耐用年数:33年
償却率:0.031
耐用年数:22年
償却率:0.046
■軽量鉄骨
耐用年数:40年
償却率:0.025
耐用年数:27年
償却率:0.038
■鉄筋コンクリート
耐用年数:70年
償却率:0.015
耐用年数:47年
償却率:0.022
経過年数は、6ヶ月以上の端数は1年、未満は端数切り捨てで計算します。所有期間が長ければ長いほど、減価償却費は大きくなるので、必ず加味するようにしてください。
短期譲渡所得と長期譲渡所得
課税譲渡所得にかけられる税率は、不動産の所有期間によって異なります。 不動産を売却した年の1月1日現在で判断し、所有期間が5年を超えている場合は「長期譲渡所得」、5年以下であれば「短期譲渡所得」となります。それぞれの税率は、次のとおりです(復興特別所得税込みの税率)。
■長期譲渡所得
所有期間:5年超え
税率:20.315%
(所得税 15.315% 、住民税 5%)
■短期譲渡所得
所有期間:5年以下
税率:39.63%
(所得税 30.63% 、住民税 9%)
不動産売却にかかる税金の節税方法は?
不動産売却にかかる税金をなるべく抑えるには、特例や特別控除を活用しましょう。
特例① 居住用財産の3,000万円特別控除
「居住用財産の3,000万円特別控除」とは、マイホームといった居住用財産を売却した場合、一定の要件を満たせば、所有期間に関わらず譲渡所得から最高3,000万円までを控除できる特例をいいます。ほとんどの方が利用できる特例ですが、住宅ローン控除と併用できません。よって、不動産の住み替えの方は注意が必要です。この特別控除を活用すると、課税譲渡所得は以下のような計算式になります。
【 課税譲渡所得 = 譲渡所得 − 特別控除3,000万円 】
□関連リンク:【居住用財産の3000万円控除とは?適用要件や必要な申請手続き・書類などを解説!」
特例② 居住用財産売却の軽減税率の特例
売却する居住用不動産の所有期間(譲渡した年の1月1日時点)が10年を超える場合、一定の要件を満たせば適用される特例が「居住用財産売却の軽減税率の特例」です。課税譲渡所得のうち6,000万円までは税率が下がります。計算式は以下のようになります。■課税譲渡所得のうち6,000万円まで
所得税10% × 2.1% = 10.21%
住民税 4%
合計14.21%
■課税譲渡所得のうち6,000万円を超える部分
所得税15% × 2.1% = 15.315%
住民税5%
合計20.315%
なお、この特例は、「居住用財産の3,000万円特別控除」と併用可能です。
□関連リンク:「10年超所有軽減税率の特例とは?適用条件や併用の可否、手続き方法を解説」
特例③ 居住用財産の買換え特例
居住用不動産の売却後、買い替える場合の特例が「居住用財産の買換え特例」です。売った居住用不動産の譲渡価額より、買い替えた不動産の取得価額の方が高い場合、利益に対する課税が繰り延べられます。なお、こちらも一定の要件を満たさなければ、適用はできません。また、3,000万円控除・軽減税率との併用はできないので注意してください。
特例④ 空き家に係る譲渡取得の特別控除
相続した空き家を相続人が売却する場合、一定の要件を満たせば、売却した譲渡所得から3,000万円を控除できます。要件は細かいのですが、主なものには、
・相続開始から3年後の12月31日までに譲渡したもの
・被相続人が一人で居住していた空き家であること
・旧耐震法の昭和56年(1981年)5月31日までに建築された戸建て住宅
・相続してから譲渡するまで、ずっと空き家であること
・新耐震基準を満たすよう改修された家屋とその敷地、もしくは家屋を解体している更地になった土地
・譲渡対価の額が1億円以下であること
などがあります。
所有期間が5年を超えるマイホームを売却して、譲渡損失が生じた場合
所有期間が5年を超えるマイホームを売却した結果、譲渡損失が生じた場合は損益通算が可能です。
マイホームを買い換える場合の特例
5年を超えて所有したマイホームを売却して譲渡損失が出た場合、繰越控除(買い替え)特例を適用するには以下の条件を満たす必要があります。(1)1998年1月1日から2023年12月31日までに、譲渡した年の1月1日現在の時点で、土地・建物の所有期間がいずれも5年超
(2)譲渡した年の前年の1月1日から譲渡した年の翌年12月31日までの3年間に、住居を買い替えること
(3)新たに取得した年の翌年12月31日までに居住の用に供した、または供する見込みがある
(4)マイホームの譲渡よって損失が生じていること
(5)買い換えたマイホームを取得した年の年末、または繰越控除の特例の適用を受けようとする年の年末時点で、買い替え資産の住宅ローンが償還期間10年以上であること
マイホームを買い換えない場合の特例
譲渡損失が発生したものの、マイホームの買い換えを行わずに特例を適用する場合、以下の条件を満たす必要があります。(1)2004年1月1日から2023年12月31日までに、譲渡した年の1月1日現在時点で、土地・建物の所有期間がいずれも5年超
(2)(1)の譲渡にかかわる契約の締結日前日時点で、譲渡資産にかかわる住宅ローン等(償還期間が10年以上のものに限る)の借入残高があること
(3)(1)の譲渡において譲渡損失が発生していること
(4)譲渡資産が次の3つのうち、いずれかに該当すること
① 譲渡する年の1月1日において所有期間が5年超の住居
② ①の家屋で、その個人の居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡されるもの
③ 譲渡する個人の①の家屋が災害により滅失した場合において、その個人が家屋を引き続き所有していたら譲渡した年の1月1日で所有期間が5年をこととなる家屋の敷地の用に供されていた土地等(ただし、災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されるものに限る)
不動産売却でかかる税金の納付時期・納付方法
不動産売却でかかる税金には5種類あり、それぞれ納付時期と方法が異なります。
それぞれの税金・納付時期・方法は次の通りです。
税金の種類 | 納付時期 | 納付方法 |
印紙税 | 売買契約が成立したとき | 契約書に規定の印紙を貼付する |
登録免許税 | 登記を申請するとき | ・現金で納付する ・収入印紙で納付する |
所得税 | 確定申告の時期 (毎年2月16日~3月15日) |
・e-TAX ・口座振替 ・電子納税 ・クレジットカード ・コンビニ払い |
住民税 | 下記のいずれか ・一括払い ・毎月の徴収 ・6・8・10・翌年1月 |
・窓口・銀行・コンビニでの現金支払い ・給与からの天引き |
消費税 | ・売買契約締結のとき ・物件引き渡しのとき |
・現金支払い ・口座振替 |
利益が出た場合は「確定申告」が必要
不動産の譲渡により利益が出た場合は、確定申告が必要です。これは、サラリーマンなどの給与所得者であっても、利益が出た場合には確定申告が必要となります。その理由は、不動産売却における譲渡所得税と住民税は、他の所得と区分して課される税金「分離課税」だからです。
分離課税はほかの所得と通算できないため、確定申告が必要なのです。
なお、確定申告は不動産を売却した翌年の3月15日までが期限です。忘れずに確定申告をしましょう。
不動産売却にかかる税金額のシミュレーション
ここでは不動産売却にかかる税金額のシミュレーションをケース別にご紹介します。税金の算出時の参考にしてみてください。
シミュレーション① 所有年数4年の土地売却
所有年数4年の土地の売却の場合、所有期間が5年未満なので「短期譲渡所得」が適用できます。以下の金額の場合の税金額のシミュレーションを見ていきましょう。
・売却価格:3,000万円
・譲渡費用:120万円
・取得価格:1,800万円
・取得費用:80万円
売却価格3,000万円 -(譲渡費用120万円+取得価格1,800万円+取得費用80万円)=譲渡所得1,000万円
譲渡所得1,000万円 × 39.63%(短期譲渡所得の適用の税率)=3,963,000円
シミュレーション② 所有年数8年のマイホーム売却
所有年数8年のマイホームの場合、所有期間が5年を超えているので「長期譲渡所得」が適用できます。・売却価格:4,500万円
・譲渡費用:280万円
・取得価格:4,000万円
・取得費用:200万円
売却価格4,500万円 -(譲渡費用280万円+取得価格4,000万円+取得費用200万円)= 譲渡所得20万円
譲渡所得20万円 × 20.315%(長期譲渡所得の適用の税率)=40,630円
シミュレーション③ 居住用財産の3,000万円特別控除を使う場合
「居住用財産の3,000万円特別控除」を適用したケースを見てみましょう。・売却価格:5,000万円
・譲渡費用:200万円
・取得価格:3,700万円
・取得費用:150万円
売却価格5,000万円 -(譲渡費用200万円+取得価格3,700万円+取得費用150万円)= 譲渡所得950万円
譲渡所得950万円 - 3,000万円(居住用財産の3,000万円特別控除)= 課税譲渡所得マイナス2,050万円
このケースでは、課税譲渡所得がマイナスになるため、税金を支払う必要はありません。
まとめ
不動産を売却する際は、売買代金だけでなく、印紙税や登録免許税、所得税などさまざまな税金が発生します。
不動産の価格だけで購入や売却を決めると、思わぬ税金がかかり後で困ってしまう可能性があります。
売却で利益が出た翌年には確定申告も必須ですから、節税対策もしっかりと行い、賢く不動産を売買しましょう。
監修者
大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。