
目次
譲渡所得とは?
譲渡所得とは、資産を譲渡、売却した際に生じる所得をいいます。ただ、すべての物を譲渡したり売却した際に生じるわけではありません。一般的には土地、建物、株式、ゴルフ会員権などが譲渡所得の対象となります。
ただし、事業用の商品などの棚卸資産や山林などの譲渡による所得は譲渡所得の対象にはなりません。個人事業主であったり事業を行われている方はこの点に注意してください。
【ケース別】譲渡所得税の計算方法・シミュレーション
主に不動産の売却に譲渡所得が生じるとはいえ、売却時の価格がそのまま譲渡所得とみなされるわけではありません。なぜなら、その不動産を購入するために対価を払っているはずですし、譲渡するにも費用がかかるからです。譲渡所得とは、そういった事情を加味して算出される所得なのです。具体的には、下記の計算式で算出されます。
譲渡所得の計算式
譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用
上記のうち収入金額とは、譲渡した際の価格をいいます。いわば売却価格です。
取得費はその名の通り、購入時の価格や必要になった費用をいいます。
譲渡費用は、売却に要した費用をいいます。
取得費と譲渡費用について例を挙げてみると次のようなものがあります。
取得費
・購入代金、建築代金・購入時の税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税等)
・仲介手数料
・測量費、整地費、建物解体費
・設備費、改良費
・一定の借入金利子等
譲渡費用
・仲介手数料・印紙税
・借家人に支払った立退料
・建物解体費
・借地権の名義書換料
譲渡所得にかかる税金の節税方法は?
譲渡所得にはその金額に応じて所得税と住民税が発生します。一般的には譲渡所得に対して発生する所得税と住民税をあわせて譲渡所得税といわれることが多いです。 土地や建物等、不動産について発生する譲渡所得税は分離課税とされているため、給与所得や事業所得など他の所得とは別で計算されます。そのため、譲渡所得が存在する場合は確定申告が必要になります。これは勤務先で年末調整を受けている場合でも必要となる手続きです。
確定申告は例年1月1日から12月31日に生じた所得をもとに、翌年2月15日頃から3月15日頃までの間に行います。
譲渡所得税は所有期間に左右される
譲渡所得税の金額はその不動産の所有期間に左右されます。基本的な条件が同じであっても、不動産の所有期間によって譲渡所得税の金額は大きく異なります。
長期所有と短期所有はどちらが税率が低い?
譲渡所得税を算出する際はその所有期間によって異なる税率が適用されます。所有期間が5年を超えていると、長期譲渡所得が適用され20.315%の税率が適用されます。それに対して所有期間が5年以下であると短期譲渡所得が適用され、税率は39.63%になります。両者の間では実に19%以上もの差がつくことになるのです。
所有期間をカウントする注意点として、所有期間は売却した年の1月1日時点でカウントされるという点があります。
たとえば、買ってから5年目の年に売却するとまだ5年を経過していないことになり、長期譲渡所得が適用されません。
所有期間が10年を超える場合は「特例」が受けられる
マイホームの所有期間が10年を超えていると長期譲渡所得よりもさらに優遇された、マイホームを売ったときの軽減税率の特例を受けることができます。
この特例を受けることができると、譲渡所得が6,000万円以下の部分に関しては税率が14.21%にまで引き下げられます。なお、6,000万円を超える部分については20.315%となります。

では、譲渡所得についての理解が深まったところで実際に譲渡所得税を計算してみましょう。
計算例は下記の共通条件をもとに3パターンに分けて考えていきます。
・収入金額…4,000万円
・購入価格…3,000万円(土地1000万円建物2,000万円)
・購入時にかかった費用…50万円(土地20万円、建物30万円)
・売却にかかった費用…100万円
所有期間3年で売却した場合
所有期間が3年の短期間で売却した場合で計算してみましょう。この場合、所有期間が5年を超えていないため譲渡所得税の税率は39.63%になります。すると、譲渡所得の額と譲渡所得税の額は次のように算出されます。
減価償却費
(建物購入価格2,000万円+購入時にかかった建物の費用30万円)×90%×償却率0.015×経過年数3)=822,150円
譲渡所得
収入金額(4,000万円)-取得費(購入時価格3,000万円+購入時費用50万円-減価償却費(82万2,159円)-譲渡費用(売却時費用100万円)=767万7,841円
譲渡所得税の金額
767万7841円×39.63%=304万2,700円 ※譲渡所得税において100円以下の金額は切り捨てます。
所有期間7年の長期譲渡所有
所有期間が7年の長期間で売却した場合で計算してみましょう。この場合、所有期間が5年を超えているため譲渡所得税の税率は20.315%になります。 すると、譲渡所得の額と譲渡所得税の額は次のように算出されます。
減価償却費
(建物購入価格2,000万円+購入時にかかった建物の費用30万円)×90%×償却率0.015×経過年数7)=191万8,350円
譲渡所得
収入金額(4,000万円)-取得費(購入時価格3,000万円+購入時費用50万円-減価償却費(191万8,350円)-譲渡費用(売却時費用100万円)=658万1,650円
譲渡所得税の金額
658万1,650円×20.315%=133万7,000円
所有期間12年の長期譲渡所有
所有期間が12年という長期間保有した後での売却について計算してみましょう。この場合、所有期間が10年を超えているため譲渡所得税の税率は、譲渡所得額6,000万円以下の部分で14.21%、6,000万円を超える部分で20.315%になります。
すると、譲渡所得の額と譲渡所得税の額は次のように算出されます。
減価償却費
(建物購入価格2,000万円+購入時にかかった建物の費用30万円)×90%×償却率0.015×経過年数12)=328万8,600円
譲渡所得
収入金額(4000万円)-取得費(購入時価格3,000万円+購入時費用50万円-減価償却費(328万8,600円)-譲渡費用(売却時費用100万円)=817万1,140円
譲渡所得税の金額
817万1,140円×14.21%=116万1,100円
譲渡所得税の申告手続きとは?
土地を譲渡して利益を得た場合、利益に対する納税額を決める必要があります。譲渡所得税の申告手続きとは、そのときにおこなう確定申告のことです。確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額とそれに対する所得税などの額を計算し、確定させる手続をいいます。一般的な会社員であれば、その給与所得の確定申告は、会社がおこなうのですが、不動産売却益などによる給与以外の所得があった場合、別途確定申告をおこなわなければなりません。
なお、譲渡損失が出てしまった場合、必ずしも申告する必要はないため、事前に申告の有無を税務署へ確認するようにしてください。譲渡所得税の申告手続きに必要となる主な書類は、以下の通りとなっています。
・確定申告書B
税務署で入手できる
・分離課税用の申告書
税務署で入手できる
・譲渡所得内訳書
税務署で入手するか、税務署のウェブサイトからダウンロード
・不動産売買契約書
コピーで可、注文住宅を売却したときは、建築当時の請負契約書も必要
・登記事項証明書
法務局の窓口での交付か、オンラインでの請求(受け取りは、窓口か郵送)
・領収書
コピーで可
また、土地の譲渡所得税を申告するときに「マイホームの3,000万円特別控除」「軽減税率の特例」「譲渡損失の買換え特例」といった特別控除の特例を適用する場合、確定申告書にそれぞれの必要書類を揃え、添付して提出してください。
確定申告は、課税譲渡所得を算出し、必要書類の確認と準備を済ませ、申告書の作成に取りかかるといった流れが一般的です。できあがった申告書は、管轄の税務署に持参する、郵送する、e-taxでデータを送信するといった3つの方法で提出ができるため、都合のよい手段を選びましょう。
また、確定申告は、前年度の所得を翌年に申告することから、不動産を売却した翌年の2月16日〜3月15日の間が申請期限となります。この申請期限に間に合わない場合、無申告加算税などのペナルティが課せられる可能性もあるため、できるだけ早めの準備を心がけるようにしましょう。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税については特例もあり、それらを上手く利用することでさらに節税することができます。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
この特例は一定の要件に該当する居住用財産、いわばマイホームを売った場合に譲渡所得の額3,000万円の部分まで譲渡所得税が発生しないというものです。特定のマイホームを買い換えたときの特例
この特例の適用を受けることで売却価格より高いマイホームへ買い換えたときに適用できる特例です。この特例を利用すると、譲渡益に対する課税を将来へ繰り延べることができます。マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
この特例はマイホームの買い換えによって損失が発生した場合、その損失を所得税や住民税を計算する際に他の所得と相殺したり、損失を翌年以降に繰り越すことができるというものになります不動産を売却した際は譲渡所得に注意
譲渡所得とは、不動産など一定の資産を売却した際の収入を指し、そこに一定の税率を乗じて譲渡所得税が決定されます。
通常、不動産は売却した際に利益があれば譲渡所得税が発生しますが、様々な特例を利用することで譲渡所得税を抑えることができます。
不動産を売却するにあたっては譲渡所得とは何かを理解しておき、税金についての準備も怠らないようにしておきましょう。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。