
おそらく多くの方にとって、聞きなれない言葉でしょう。
譲渡所得とは一体なんなのか、不動産の売買にどう関連してくるのか、初めての方でもわかりやすく解説していきます。
目次
譲渡所得とはなにか?
譲渡所得とは、資産を譲渡、売却した際に生じる所得をいいます。
ただ、すべての物を譲渡したり売却した際に生じるわけではありません。一般的には土地、建物、株式、ゴルフ会員権などが譲渡所得の対象となります。
ただし、事業用の商品などの棚卸資産や山林などの譲渡による所得は譲渡所得の対象にはなりません。個人事業主であったり事業を行われている方はこの点に注意してください。
種類 | 課税方法 | |
土地 (借地権等の土地の上に存する権利を含む)および建物等 |
分離課税 (土地建物等) |
|
株式等 | 短期所有土地の 譲渡に類似するもの |
|
ゴルフ会員権の 譲渡に類似するもの |
総合課税 | |
上記以外の株式等に 係る譲渡 |
分離課税 (株式等) |
|
上場カバードワラント | 分離課税 (先物取引等) |
|
店頭カバードワラント | ||
その他の試算 | 総合課税 |
【引用】国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
■分離課税に該当する譲渡所得
分離課税の対象となる譲渡所得は次のとおりです。
・土地
・建物
・株式
・ゴルフ会員権
ただし、金銭債権や森林の伐採などによる所得は譲渡所得には含まれません。
また、譲渡は売買だけでなく、交換によるもの、法人への贈与も対象となる点に注意すべきです。
■総合課税に該当する譲渡所得
総合課税の対象となる譲渡所得は次の通りです。
・金地金
・宝石
・書画
・骨董
・競走馬
・船舶
・機械器具
・車両
・営業権
・漁業権
・特許権
・著作権
・鉱業権
・土砂(砂)
・特定の公社債
・取引慣行のある借家権
事業に供する棚卸資産や10万円未満の減価償却資産、使用可能期間が1年未満の減価償却資産などは総合課税の譲渡所得には含まれません。
譲渡所得の仕組みと計算方法
譲渡所得の仕組みと計算方法について、各種費用や特別控除も含めてみていきましょう。
今回は不動産を譲渡した場合を想定した計算式となります。
譲渡所得の計算式
【 譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用 】上記のうち収入金額とは、譲渡した際の価格をいいます。いわば売却価格です。取得費はその名の通り、購入時の価格や必要になった費用をいいます。
譲渡費用は、売却に要した費用をいいます。取得費と譲渡費用について例を挙げてみると次のようなものがあります。
■取得費
・購入代金、建築代金
・購入時の税金(印紙税、登録免許税、不動産取得税等)
・仲介手数料
・測量費、整地費、建物解体費
・設備費、改良費
・一定の借入金利子等
■譲渡費用
・仲介手数料
・印紙税
・借家人に支払った立退料
・建物解体費
・借地権の名義書換料
■特別控除額
譲渡所得の特別控除とは、特定の要件を満たしたときに譲渡所得の控除を受けられる制度です。
特別控除には次の7種類があります。
・公共事業等の目的で土地・建物を売った場合の5,000万円の特別控除
・居住用財産を売った場合の3,000万円の特別控除
・特定土地区画整理事業等の目的で土地を売った場合の2,000万円の特別控除
・特定住宅造成事業等の目的で土地を売った場合の1,500万円の特別控除
・平成21年および22年に取得した国内の土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除
・農地保有の合理化等を目的に土地を売った場合の800万円の特別控除
・低未利用土地等を売った場合の100万円の特別控除
これらの特別控除は、条件を満たせばさらに税率の軽減措置を受けることもでき、譲渡所得税を抑えられます。
譲渡所得の特別控除額とは?
譲渡所得税については特例もあり、それらを上手く利用することでさらに節税することができます。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
この特例は一定の要件に該当する居住用財産、いわばマイホームを売った場合に譲渡所得の額3,000万円の部分まで譲渡所得税が発生しないというものです。特定のマイホームを買い換えたときの特例
この特例の適用を受けることで売却価格より高いマイホームへ買い換えたときに適用できる特例です。この特例を利用すると、譲渡益に対する課税を将来へ繰り延べることができます。マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
この特例はマイホームの買い換えによって損失が発生した場合、その損失を所得税や住民税を計算する際に他の所得と相殺したり、損失を翌年以降に繰り越すことができるというものになります。譲渡所得の所得税の求め方
譲渡所得の所得税を求めるには、課税譲渡所得に税率をかける計算が必要です。
不動産の譲渡所得の所得税は、長期譲渡所得と短期譲渡所得、居住用かそれ以外化によっても税率が異なります。
原則として、譲渡所得の所得税の計算方法は次の通りです。
【所得税額=課税譲渡所得×税率(所得税および住民税)】
譲渡所得に係る税率は?
譲渡所得の所得税を計算するための、譲渡所得の税率は次の通りです。短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | ||
期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超所有軽減税率の特例 |
居住用財産 | 39.63% (うち所得税30.63%、住民税9%) |
20.315% (うち所得税15.315%、住民税5%) |
・課税譲渡所得6,000万円以下の部分について14.21% (うち所得税10.21%、住民税4%) ・課税譲渡所得6,000万円超の部分について20.315% (所得税15.315%、住民税5%) |
それ以外の財産 | 20.315% (うち所得税15.315%、住民税5%) |
上記の短期譲渡所得・長期譲渡所得について、起算日は売却する年の1月1日時点で所有期間が5年超なら長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得となります。
例えば、2024年7月1日に不動産を売却した場合、2024年1月1日の時点で所有期間が5年経過しているかどうかで税率は変わります。
税率に大きな違いが出るため、所有期間の計算には注意しましょう。
譲渡所得の所得税の条件と具体例
譲渡所得税の金額はその不動産の所有期間に左右されます。基本的な条件が同じであっても、不動産の所有期間によって譲渡所得税の金額は大きく異なります。
長期所有と短期所有はどちらが税率が低い?
譲渡所得税を算出する際はその所有期間によって異なる税率が適用されます。所有期間が5年を超えていると、長期譲渡所得が適用され20.315%の税率が適用されます。それに対して所有期間が5年以下であると短期譲渡所得が適用され、税率は39.63%になります。両者の間では実に19%以上もの差がつくことになるのです。
所有期間をカウントする注意点として、所有期間は売却した年の1月1日時点でカウントされるという点があります。
たとえば、買ってから5年目の年に売却するとまだ5年を経過していないことになり、長期譲渡所得が適用されません。
所有期間が10年を超える場合は「特例」が受けられる
マイホームの所有期間が10年を超えていると長期譲渡所得よりもさらに優遇された、マイホームを売ったときの軽減税率の特例を受けることができます。この特例を受けることができると、譲渡所得が6,000万円以下の部分に関しては税率が14.21%にまで引き下げられます。なお、6,000万円を超える部分については20.315%となります。
譲渡所得税の計算
では、譲渡所得についての理解が深まったところで実際に譲渡所得税を計算してみましょう。計算例は下記の共通条件をもとに3パターンに分けて考えていきます。
・収入金額…4,000万円
・購入価格…3,000万円(土地1000万円建物2,000万円)
・購入時にかかった費用…50万円(土地20万円、建物30万円)
・売却にかかった費用…100万円
短期所有(3年)で売却した場合
所有期間が3年の短期間で売却した場合で計算してみましょう。この場合、所有期間が5年を超えていないため譲渡所得税の税率は39.63%になります。すると、譲渡所得の額と譲渡所得税の額は次のように算出されます。
■減価償却費
(建物購入価格2,000万円+購入時にかかった建物の費用30万円)×90%×償却率0.015×経過年数3)=822,150円
■譲渡所得
収入金額(4,000万円)-取得費(購入時価格3,000万円+購入時費用50万円-減価償却費(82万2,159円)-譲渡費用(売却時費用100万円)=767万7,841円
■譲渡所得税の金額
767万7841円×39.63%=304万2,700円 ※譲渡所得税において100円以下の金額は切り捨てます。
長期所有(7年)で売却した場合
所有期間が7年の長期間で売却した場合で計算してみましょう。この場合、所有期間が5年を超えているため譲渡所得税の税率は20.315%になります。 すると、譲渡所得の額と譲渡所得税の額は次のように算出されます。
■減価償却費
(建物購入価格2,000万円+購入時にかかった建物の費用30万円)×90%×償却率0.015×経過年数7)=191万8,350円
■譲渡所得
収入金額(4,000万円)-取得費(購入時価格3,000万円+購入時費用50万円-減価償却費(191万8,350円)-譲渡費用(売却時費用100万円)=658万1,650円
譲渡所得税の金額
658万1,650円×20.315%=133万7,000円
長期所有(12年)で売却した場合
所有期間が12年という長期間保有した後での売却について計算してみましょう。この場合、所有期間が10年を超えているため譲渡所得税の税率は、譲渡所得額6,000万円以下の部分で14.21%、6,000万円を超える部分で20.315%になります。
すると、譲渡所得の額と譲渡所得税の額は次のように算出されます。
■減価償却費
(建物購入価格2,000万円+購入時にかかった建物の費用30万円)×90%×償却率0.015×経過年数12)=328万8,600円
■譲渡所得
収入金額(4000万円)-取得費(購入時価格3,000万円+購入時費用50万円-減価償却費(328万8,600円)-譲渡費用(売却時費用100万円)=817万1,140円
■譲渡所得税の金額
817万1,140円×14.21%=116万1,100円
譲渡所得税の申告手続きとは?
土地を譲渡して利益を得た場合、利益に対する納税額を決める必要があります。譲渡所得税の申告手続きとは、そのときにおこなう確定申告のことです。
確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得の金額とそれに対する所得税などの額を計算し、確定させる手続をいいます。
一般的な会社員であれば、その給与所得の確定申告は、会社がおこなうのですが、不動産売却益などによる給与以外の所得があった場合、別途確定申告をおこなわなければなりません。
なお、譲渡損失が出てしまった場合、必ずしも申告する必要はないため、事前に申告の有無を税務署へ確認するようにしてください。譲渡所得税の申告手続きに必要となる主な書類は、以下の通りとなっています。
■確定申告書B
税務署で入手できる
■分離課税用の申告書
税務署で入手できる
■譲渡所得内訳書
税務署で入手するか、税務署のウェブサイトからダウンロード
■不動産売買契約書
コピーで可、注文住宅を売却したときは、建築当時の請負契約書も必要
■登記事項証明書
法務局の窓口での交付か、オンラインでの請求(受け取りは、窓口か郵送)
■領収書
コピーで可
また、土地の譲渡所得税を申告するときに「マイホームの3,000万円特別控除」「軽減税率の特例」「譲渡損失の買換え特例」といった特別控除の特例を適用する場合、確定申告書にそれぞれの必要書類を揃え、添付して提出してください。
確定申告は、課税譲渡所得を算出し、必要書類の確認と準備を済ませ、申告書の作成に取りかかるといった流れが一般的です。できあがった申告書は、管轄の税務署に持参する、郵送する、e-taxでデータを送信するといった3つの方法で提出ができるため、都合のよい手段を選びましょう。
また、確定申告は、前年度の所得を翌年に申告することから、不動産を売却した翌年の2月16日〜3月15日の間が申請期限となります。この申請期限に間に合わない場合、無申告加算税などのペナルティが課せられる可能性もあるため、できるだけ早めの準備を心がけるようにしましょう。
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監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。